魔法少女リリカルなのは SS

                      小さな日常達

1 裸の会話

 その日、時空管理局の面々とその親族、友人は郊外の温泉にやってきていた。

「………」
「………」

 その男湯でクロノとユーノがサウナに入っていた。女湯のサービスシーンを期待した方、ごめんなさい。

「………」
「………」

 サウナには二人しかいない。二人が同時に入ってから結構な時間が経っているが、二人とも張り合うように出て行かなかった。

「………君さ」

 おもむろにユーノが口を開いた。

「なんだ」
「最近、なのはと仲いいよね」
「そうか?」
「……この間さ、なのはが無限書庫の手伝いをしに来てくれたんだよ。お弁当持参して」
「……それで」
「手作りのお弁当でさ。美味しかったよ」
「自慢か?」
「最後まで聞いてよ。それで食べ終わった後にこう聞いてきたんだよ。『クロノ君ってこういう味好きかな?ユーノ君知らない?』って」

 それはまさしく絶頂から断崖に突き落とされる気分だった。

「なんで、君の好みを僕が聞かれなきゃいけないんだ……」
「知らない」
「知れよこのヤロー!!!」
「切れるな、フェレットもどき!」

 その後、ザフィーラに回収され大広間で倒れ伏す馬鹿二人の姿があった。
 皆さん、サウナでの乱闘は危険なので真似しないように。







2 奥様会議

 翠屋にて時空管理局関係者の奥様達が集まっていた。

「この間は、またウチの娘がクロノ君にお世話になってみたいでー」

 カップを拭きながら、桃子。

「いえいえ。ウチの子供の事ならお気にせず」

 口元に手を添えながら、リンディ。

「そんな事言っているとまた無茶をするわよ、あの子」

 その言い様に呆れるレティ。

「でも、はやてちゃんもクロノ君には本当にお世話になってますよー」

 まぁまぁと、シャマル。
 ……あれ、今全く違和感がなかったけど未婚者がいたような……………? 








3 十四歳までの軌跡

「クロノ君はもっとフェイトちゃんとスキンシップを図るべきよ」
「ス、スキンシップ?」
「そ。せっかく家族になったのに二人とも遠慮しあって前と変わって無いじゃない。ここはお兄ちゃんの度量を見せるべきよ」
「ぐ、具体的に何をしろと?」
「えっとね〜(ごにょごにょ)」
「な!?それは本気か!?」
「ちなみにやらなかったら、フェイトちゃんに士官学校の頃の話、無い事無い事吹き込んじゃうよ?」
「くっ……、嘘でも覆す自信がない」

 数日後

「よし、この模擬試験はほぼ満点だな」
「クロノのおかげだよ」
「………」
「クロノ?」

 なでなで

「ク、クロノ!?」
「…そ、その、が、頑張ったので褒めてあげようと……。い、嫌か?」
「い、嫌じゃ、ないけど………」

(く〜!初々しー!)

 それをこっそり見てご満悦のエイミィ。だったが。





 訓練後

「あ、足挫いちゃったかも……」
「それはいけない。具合を見るから靴を脱いでくれ」

 キッチン

「あっ。指切っちゃった」
「まずは血を止めよう(パクッ)」

 さらに訓練後

「今度は立てなくなっちゃった……」
「僕におぶさるんだ」

 リビング
「うん……」
「眠いのか?」
「うん……」

 ぽすっ、とクロノの膝に倒れこむ。

「あ?……全くしょうがない子だ」

 クロノはフェイトの頭を撫でた。

 寝室

「怖い映画見て、眠れなくなっちゃった……」
「……しょうがないな」






 そんなこんなで四年後。

「よくやったなフェイト」

 なでなでなでなでなでなでなで。

「うんっ」

 すりすり。

(全く、この兄妹は…………)

 自分がきっかけだったとは全く思っていないエイミィだった。








4 『世界』

 聖祥小学校の昼休み。
 屋上で仲良し五人組がいつも通りに昼食を取っていた。

「それでまた、クロノ君に迷惑かけちゃって〜」
「またなの?これで三回くらい聞いたわよ?」

 なのはの仕事の失敗談にアリサが呆れる。

「あ、フェイトのお弁当のこのおかず美味しいわね」
「あ、それクロノが好きなんだ」

 フェイトのお弁当にアリサが感心する。

「それにしてもはやて、最近成績よくなってきたわね」
「ええ家庭教師さんがおるからね。ちょっとスパルタやけど」

 成績急上昇のはやてにアリサは新たなる競い相手になるな、と楽しみになる。
 そこでそれまで会話を聞いていたすずかがぽっりつと呟いた。

「なんだかなのはちゃん達、最近クロノさんのお話ばっかりだね」

 その言葉に三人の動きがピタッ、と止まる。まるで一瞬時が止まったようだ。

「そそそ、そんなことないよねフェイトちゃん!?」
「そそそ、そうだよねはやて!?」
「そそそ、その通りや!なぁなのはちゃん!?」

 バタバタと慌てる三人。その様子をきょとんと眺めるアリサ。
 以後、すずかの発言は最初は瞬きほどだったが徐々に三人の動きを止める時間を長くすることになる。ちなみに四年後には十秒を超えている。







5 アルフの休日

「それじゃ出かけてくるわ〜」

 そう言って家を出て行ったアルフのために開けたドアを閉めて、クロノはいつか思ったことをまた思った。

「しかし、彼女はいつも何をしているだろう?」



 海鳴市はその環境の良さから野良犬や野良猫が多い。そのくせ、町柄なのかその大半は素行が良かった。
 しかし、それでもやはり全てがその範疇に収まっているわけではなかった。

「うわっ!」
「へへっ、さあ出すもの出しやがれ」
「早くしねぇと痛い目見るぞ」
「う、うう………」

 一匹の犬を二匹の野良犬が囲む。

「待ちな」

 それを呼び止める声が響く。
 野良犬達が振り返るとそこには一匹の赤い子犬。

「誰だてめぇは?」
「女子供はすっこんでな」
「ア、アルフさん!」

 その名を聞き、野良犬がどよめく。

「ア、 アルフだとぉ!?」
「う、海鳴一の巨体を誇るハート様を投げ飛ばして「あべしっ!」と言わせたあのアルフか!?」

 犬語で「あべしっ!」ってどう言うんだろう?

「自己紹介はいらないみたいだね?それでどうする?」
「くっ、舐めんじゃねぇ!」

 飛び掛る野良犬の片割れ。

「ぐわっ!」

 しかし、あっさりと吹っ飛ばされる。

「とっとと失せな」
「く!覚えてやがれ!」

 やられた相棒を引きずって去っていく野良犬。

「大丈夫かい?」
「す、すいませんアルフさん。あ、あのこれつまらない物ですが!」
「そんなために助けたわけじゃないけどねぇ。ま、貰っとくよ」

 その日、アルフは計五本の骨を持ち帰ってきた。








6 お前もか

 以前の借りを返してやると、呼び出されたアルフ。

「動くな!こいつがどうなってもいいのか!」
「ア、 アルフさん!!俺の事は構わねぇでくだせぇ!!」
「くっ!あんたら卑怯だよ!!」

 そこで待っていたのは大勢の野良犬と人質だった。

「へへっ。こうなっちまうとあのアルフも可愛いもんだなぁ」

 大型モードで蹴散らせばいいじゃんとか言っちゃいけません。犬には犬のルールがあるんです。本当は狼だけど。

「ちっ………」

 自らの不利を悟るアルフ。
 にじり寄ってくる野良犬達。

「ぎゃあ!!」

 そこに突如上がる野良犬の悲鳴。

「なっ!?」

 野良犬達が驚いている間に一陣の青い風が走り、瞬く間に人質を救い出す。

「だ、誰だてめぇは!?」
「ザフィーラ!?」

 現れたのは一匹の蒼い子犬だった。

「ザ、ザフィーラだとぉ!?」
「あの七つの傷を持った野良犬ジャギ様を海に投げ捨てたあのザフィーラか!?」

 そいつ、あんまり強そうじゃないのは気のせいか?

「形成逆転だね」
「さて、どうする?」
「くっ!てめぇら、やっちまえ!!」

 いっせいにアルフとザフィーラに襲い掛かる野良犬達。迎え撃つ赤と蒼の子犬。BGMは暴れん坊将軍でお送りいたします。

 ちゃ〜ちゃちゃ〜ちゃら〜ちゃら〜………






 夕暮れの空き地。無数の野良犬の屍の中、アルフとザフィーラが佇む。ちなみに屍とは言うが本当に殺してはいない。わかってくれるとは思うけど、この二匹ならやりかねないので一応の注意書き。

「助かったよ」
「見ていられぬほどの下衆だったから、蹴散らしてやっただけだ」
「ま、助けられた事には変わりないからね。お礼に肉やるよ」
「俺は主の食事で満足している。だが受け取っておこう」

 夕日にむかって去っていく二匹。EDBGMはお好みの時代劇でお願いします。






「ただいま〜」
「おかえり、ってアルフどうしたの?その傷!?」
「ちょっとね〜」

 海鳴の平和を守る子犬の存在を知る人間は少ない。








7 司令官

「それでは、報告を」

 口元を組んだ手で隠した人物が目の前の二匹の子犬に呼びかける。子犬モードのアルフとザフィーラだ。

「藤見町近辺の治安は良好。地元野良の素行も上々だよ」

 極めて軽い口調で報告するアルフ。

「学校周辺、商店街共に異常なし。しかし、最近隣町から移ってきた者達がいるようで桜台近辺をうろついております」

 対照的に硬い口調で報告するザフィーラ。

「その犬達の素行は?それと可愛いのはいる?」
「あまり宜しくはありませんな。可愛いかどうかはわかりませんが、生後一年以内の者もいるようです」
「規模はえ〜っと、十匹前後だっけ?」
「十一匹だ」
「決まりね」

 報告を受けた人物がすっと立ち上がる。

「アルフ、あなたは素行の悪い奴に礼儀を教え込んで。ザフィーラは生後一年以内の子の説得。場合によってはウチに連れてきて」
「了解っ」
「わかりました」
「それじゃ、報酬はいつもの通りに送っておくから」

 報酬は高級ドッグフード、骨付き肉等の食い物ばかりである。

「行くのよ!海鳴市の犬達の平和はあなたたちの手にかかってるわ!」

 そう言って、司令官アリサ・バニングスは高らかに宣言した。
 海鳴の平和と守る子犬のその司令官の存在を知る人間は少ない。

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