リリカルなのは SS

                      小さな日常達 2

1 クロノ IN 月村邸

「………」

 フェイトと共に月村家に上がらせてもらったクロノは月村家の飼い猫と向かい合っていた。

「………」

 見詰め合う一人と一匹。しばらくそうしてから手渡された猫じゃらしを取り出す。ぴくっと反応する猫。

「………」

 さっさっさ、と左右に振ってみる。それを追う猫。

「………」

 さらに振ってみる。さらに追う猫。

「………」

 それから指を伸ばしてみると、ちろちろと指先を舐めてきた。

「………」

 ごろごろと喉を撫でてやる。気持ちよさそうだった。

「……クロノ、なんだか夢中になってる」

 帰り際の一人と一匹はそれはそれは名残惜しそうだったと言う。
 クロノ・ハラオウン。十五歳にして癒されたい年頃。





2 陰謀

「とゆーわけだから、協力してくれないかなー」
「おっまかせー、頼まれました」



「とゆーわけだから、協力してねー」
「いいのかなぁ?」






 その日、すずかはハラオウン家に訪れた。

「上がって、すずか」
「お邪魔します。フェイトちゃん」

 玄関を上がり、リビングに向かうとそこにはクロノの姿があった。コーヒーを片手に何かの書類を読んでいる。

「こんにちは」
「ああ、いらっしゃい」

 挨拶をするとクロノはコーヒーを口に運ぶ。てっきりすぐにフェイトの部屋に行くと思ったら何故かすずかを立ったまま、こちらを見ている。少し不思議に思っているとすずかが口を開いた。

「…クロノお兄さん」
「ぶーーーーーーっ!!!???」

 クロノがコーヒーを噴出し、手からカップを落として、のけぞってすっ転ぶ。A‘SのSS02の再現かと言うくらいの驚きっぷりである。

「す、すずか!?」
「ちょちょちょ、ちょっと君!?いついかなる理由で君にお兄さんと呼ばれないといけないんだ!?的確かつ納得のいく説明を求める!!」

 問われてすずかは、人差し指を頬に添えながら用意されていたセリフを思い出すようにして言った。

「えっと、お姉ちゃんが恭也さんと結婚したら私となのはちゃんは義理の姉妹になって、そのなのはちゃんがクロノさんと一緒になったらクロノさんはお兄さんになるから今のうちに慣れときなさいってお姉ちゃんが」
「何それ!?慣れるって何!?というか、僕は君のお姉さんとほとんど面識ないのになんでそんな認識をされているんだ!?」
「でも、お兄さんが二人も増えたら素敵だと思うんです」
「思うんです、などと言われても困る!!」

 ちなみに、この話は何故かユーノに伝わり、

「ただでさえ、羨ましい環境なのにこの上メイド(×2)付きの新たな義妹!?ふざけてるの!?」

 そう言って激しい怒りを爆発させ、日頃の運動不足を物ともせずクロノと一時間に及ぶ激闘を繰り広げたと言う。





3 大家族計画

 計画段階 1
 高町恭也と月村忍が結婚。高町家と月村家が親族になる。

 計画段階 2
 クロノ・ハラオウンと高町なのはが結婚。高町家、月村家、ハラオウン家が親族になる。

 計画段階 3
 アルフとザフィーラが結婚。高町家、月村家、ハラオウン家、八神家が親族(?)になる。

 計画段階 最終
 アルフとザフィーラの子供をバニングス家に養子に出す。高町家、月村家、ハラオウン家、八神家、バニングス家が親族(??)になる。




「ってこと考えたんですよー」
「それはとても素敵な計画ですね」

 翠屋においての桃子とリンディの会話。
 こんな会話を耳に届くところでされた新人アルバイトは「聞こえない聞こえない、僕には親の身勝手な妄言なんて聞こえない!」と言って耳を押さえて店の隅で蹲り、同じくその場に居合わせた小さな看板娘はオーバーヒートを起こして煙を吹いていた。
 ちなみにこの計画におけるユーノの立ち位置は『高町家のペット』だったことを追記しておく。






4 問題発生

「駄目です!これは譲れません!」
「それはこちらも同じです!それだけは譲るわけにはいきません!」

 普段からは考えられない様子で言い合う桃子とリンディ。

「あの、クロノ。母さんどうしたの?」
「聞こえない聞こえない。聞こえないから僕には聞かないでくれ。僕には何も聞こえない……っ!」

 見たことも無い義兄の様子にフェイトは口を噤む。なのはは顔が赤くなりすぎて黒になるんじゃないかという様子なので聞くことも出来ない。

「あの、美由希さん。母さんと桃子さんどうしたんですか?」
「あー、非常に馬鹿らしいんだけど……」

 美由希は困った顔で言った。

「なのは・ハラオウンと高町クロノのどっちがいいかで、揉めちゃってー……」

 このため、計画は国際問題さながらに複雑な問題へと発展していくことになる。






5 今は至らず

「ねえ、アルフ」
「なんだい、フェイト」
「この間、母さんがしていた話だけど」
「あー、皆で家族になろうって奴?」
「うん、ああとまでは言わないけどクロノが誰かと一緒になって家族が増えたらいい事だよね」
「まー、いるに越した事はないと思うよ?仲が悪くなければだけど」
「だよね。でもなんでだろうね」
「?」
「なんだか、少しだけ寂しいと思うんだ。なんでだろうね?」

 その答えに至るまで、あと四年。






6 決戦

 海鳴市桜台。そこに二人の少女の姿があった。

「どうしても、引けないの?」

 そう問う少女はアリサ・バニングス。

「ごめんね、アリサちゃん。でもこっちも引けないの……」

 問われ、答えたのは月村すずか。

「そう、ならしょうがないわね」
「うん………」

 アリサは諦めを浮かべた笑みで、すずかは悲痛な面持ちで言う。

「……皆、来てっ!」

 アリサの言葉に応じて背後から一糸乱れる事無く整列した犬達が現れた。バニングス家の飼い犬と海鳴野良犬連合の皆さんだった。

「皆、お願い!」

 それに対してすずかも背後に呼びかける。こちらも見事な統率で瞬く間に整列する猫達。月村家の飼い猫と海鳴野良猫連合の皆さんである。

「見て、すずか。この野良犬達の数を。これだけの犬達の食料の確保にはどうしても領土の拡大が必要なの」
「わかってるよアリサちゃん。でもこれ以上犬さん達に勢力を広げられると野良猫さん達の食料がなくなっちゃうの!」

 どっちも飼い犬と飼い猫で数を水増ししてよくも言ったものである。

「それとね、すずか。こっちにはまだ切り札があるの」
「切り札?」
「来て!二人とも!」

 呼ばれて二匹の子犬がアリサの脇に立つ。その色は紅と蒼。

「すずか。このアルフとザフィーラは一騎当千の兵、古今無双の将兵よ。数が互角ならこの二人がいる限りあんたに勝ち目は無いわ」
「さあ、どうするの?痛い目見る前に逃げるなら今のうちだよ」
「無駄な争いは好まぬ」

 そう言うアリサと二匹の子犬に、すずかは笑って答えた。

「うん。そうだね。このままじゃこっちに勝ち目は無い。だからこっちも助っ人を呼んだんだ」
「………なんですって?」
「来て下さい!」

 声と共にヒーローチックなBGMが鳴り響く。それに合わせてくるくると回転しながら二匹の猫が現れた。

「「お待たせしました!リリカルなのはの風雲児!!」」
「リーゼアリアと!」
「リーゼロッテの登場だよ!!」

 ドーン!!という効果音とポーズが決まる。A‘S本編でも見せなかった猫形態での登場である。

「……誰?」
「誰だ?」
「あんたたち、なんでここにいるのよ!?」

 一者二匹三様の答え。正直、一応面識があったアルフの反応がなければ致命的なくらい場が白けただろう。

「えっと、最近知り合った英国紳士G・Gさん(仮称)の飼い猫さん。今回のことを聞いて助太刀してくれたの」
「……ともかくこれで戦力は互角ってわけね」

 一瞬の間。それを置いてから両者は同時に号令をかけた。

「行きなさい皆!自分の未来は自分で掴み取るのよ!!」
「派手に行くよっ!」
「盾の守護獣ザフィーラ!参る!!」
「うおおおお!野郎ども、アルフの姉御とザフィーラの兄貴に続けええええ!!」
「皆、頑張ってください!!」
「任せておいて!」
「ほらほら、皆ついて来な!」
「皆、リーゼのお姉さま方に続くのよ!!」

 激突する両軍。その日、桜台は戦場になった。この戦いは語られることの無い戦い。その詳細を知るのは当事者のみ。されど、その戦いは口には表せないほど凄惨なものだったのは確かである。



 なお、食糧問題だがきっちり互いの境界を決めてそれで足りない分はバニングス家と月村家で補うことになった。
 じゃあ、最初からそうしろよ、お金持ち。





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