リリカルなのは SS

                      小さな日常達 3

1 戦隊

「今日は新隊員を紹介するわ」

 アリサが指を口元で組んだいつもの体勢でアルフとザフィーラにそう言った。

「新隊員?」
「そ。戦力が多い事に越した事はないわ。来るべき時に備えて今のうちに増強しておこうと思って」
「して、その新隊員とは如何なる者で?」
「それは………彼よ!」

 アリサが指を刺した先に何故かスポットライトが当てられる。薄暗いその部屋を裂くように照らし出されたその場所に居たのは。

「………ユーノ?」

 フェレット姿のユーノだった。

「そう、知っているだろうけど紹介するわ。新人隊員のユーノ・スクライアよ」
「……よろしくお願いします」
「司令官。その、よろしいのでしょうか?彼は我々と種族が違うのですが」
「可愛ければなんだっていいのよ」

 節操が無かった。

「ちょっと、ユーノ。あんた、なんだって参加する気になったんだい?」

 内緒話をするように、近寄ってきたアルフにユーノは重苦しい口調で話した。

「単に誘われたからさ、いいって言っただけだよ」
「ほんとにそれだけ?」
「……こんな事でも参加しないと出番が無いじゃないか」

 とんでもなく悲痛だった。

「ではこれから彼を交えて定例会議でしょうか?」
「ふっふっふ……」

 ザフィーラの言葉にアリサが愉快気に笑う。

「ザフィーラ。新人隊員は一人とは言っていないわ」
「なんですと?」
「来なさい!二人とも!!」

 言葉に応じて、アリサの頭上を二つの影が交差して着地する。

「「再び登場!!リリカルなのはの風雲児!!」」
「リーゼアリアと」
「リーゼロッテの登場だよ!!」

 ドーン!!と効果音とポーズが決まる。再び現れた二人にリアクションに困りながら、ザフィーラが尋ねる。

「……司令官。彼女達は」
「この間会ったでしょ?見所あったからスカウトしちゃった」

 本当に節操なしだった。その内、曹操ばりにあの敵を生け捕りにしろとか言って部下を困らせるかもしれない。超雲はそれで助かったけど。

「あんた達も何しにきてるのよ……」
「いやー、遊びに来たはいいけど案外暇でさー」
「せっかくお誘いを受けたから参加しようと思って」
「それじゃ皆、整列して」

 アリサの前に二匹の子犬と一匹のフェレットと二匹の猫が整列する。ある意味、ブレーメンの音楽隊に匹敵する組み合わせかもしれない。

「さて、新人三人が加わって五人になったわけだけど、それに際してお知らせがあるわ」
「お知らせ?」
「今までこのグループに名称は無かったわ。でも五人揃ったのだから名称をつけないとお約束にならない。それを今から発表するわ」

 アリサの言葉に合わせて頭上にくす玉が設置される。用意してくれたのは鮫島さんである。お嬢様に振り回されて彼も苦労人だ。

「いい、今日からあなたたちは」

 アリサが指を高々と掲げる。それと同時にくす玉が割れた。

「『海鳴戦隊バニングスレンジャー』よ!!!」

 垂れ幕に書かれた名称を、アリサは誇らしげに言った。



 なお、主題歌募集中(嘘)。







2 初任務

 最近、海鳴近隣でペットの盗難事件が発生していた。犬にしろ猫にしろ愛好家の多いこの地域では自然と血統書のつくような高価なペットが集まっていた。また、地域の気質からかそれほど犯罪を警戒しておらず、盗難犯にとって格好の獲物になっていた。
 そうして犯人は海鳴での犯行に及ぼうとしていた。犯人は二人組みの男であり、彼らは商店街にあるペットショップに目をつけていた。

「周りに人はいませんぜ、兄貴」
「店の主人もぐっすり眠ってる。もう頂いたも同然だな」

 数日前から下見をしていた犯人は、狙う高額ペットが他のペットから離れた位置におり、そこが盗難にさほど困難な場所でないことを調べていた。

「じゃ、取るもの取ってさっさとずらかるとするか」

 犯人が開錠した扉に手をかける。

「「「「「そこまでだ!!」」」」」

 その時、突如後ろから声が響いた。辺りを警戒していたにも関わらず、響いてきたその声に驚いて犯人達はそちらに振り向く。

「海鳴に潜む悪を」
「倒す事こそ我らが使命」
「小さな悪も見過ごさず」
「育むことも許さない」
「守って見せます。海鳴の平和」

「「「「「海鳴戦隊、バニングスレンジャー参上!!!!」」」」」

 ドーン!!という効果音と共にそれぞれ思い思いにポーズを決める。なお効果音等の演出は鮫島さんによるものである。彼も苦労(以下略)。

「兄貴、俺夢でも見てるんですかね?」
「そうなると俺も見ている事になるが……」

 犯罪者とは言え一般人である犯人は突如現れた喋る動物達に対してリアクションに困っていた。

「愛されるペットを肥やしにする悪党!退治してやるよ!!皆、ここは一気に海鳴戦隊必殺の『絶!!天獣抜刀牙』でいくよ!!」

 狼以外も混じっているので獣は誤りではないのでご注意を。

「「「「おう!!!」」」」

 高々と飛び上がりくるくると回転しながら犯人に迫るバニングスレンジャー。そこでようやく犯人達は自分達の身に迫った危機を悟るがそれは余りに遅すぎた。

「「ぎゃ、ぎゃあああああああああ!!?!!!?」」








『次のニュースです。昨夜未明、海鳴市のペットショップに入り込もうとした二人組みの男が店の前で倒れているのを店主が発見、通報しました。調べに対し二人組みは『喋る子犬がフェレットが猫がぁぁぁぁ』と意味不明な供述をし、警察は精神鑑定の必要があるとしながら余罪の追求を…………』

 その日、聖祥の話題がその事で持ちきりになる中、アリサは一人口元を指で隠しながら笑った。





 今日もまた、海鳴の平和は守られた。しかし、この世に悪がある限り彼らの戦いは終わらない。戦えバニングスレンジャー!負けるなバニングスレンジャー!






「あ、あたしら明日英国に帰るから」
「そんなっ!?」

 海鳴戦隊バニングスレンジャー。活動再開時期長期未定。








3 仲間割れ

 海鳴市桜台。ここでまたも戦いが行われようとしていた。

「やめなさい!!二人とも!!あたしの言う事が聞けないの!?」

 アリサの悲痛な声が響く。しかし、その声を聞いた二人は首を横に振った。

「悪いね、アリサ。そればっかりは聞けないよ」
「お下がり下さい、司令官」

 向かい合うのはアリサが信頼するアルフとザフィーラ。本来なら肩を並べて共に海鳴の平和を守るはずの二人が向かい合っていた。一体、彼らは如何なる理由でこうなってしまったのだろうか?

「いつもいつも、ろくに動かない癖して美味しいところだけ持っていって!!この給料泥棒!!」
「そういう貴様は預けられた俺の報酬を盗み食いしたではないか。泥棒というなら貴様の方だ」

 もの凄く低次元な理由だった。

「もうあんたとはやってられないね。元々敵同士だったんだ。ここで決着をつけてやるよ」
「こちらとてもう我慢ならん。引導を渡してくれるわ」

 二人が遠吠えを上げる。それに引き寄せられゾロゾロと野良犬達が集まってきた。アルフには雄犬、ザフィーラには雌犬ときっちり分かれている。どうやら海鳴の野良犬の人望(犬望?)は二分されていたようだ。

「いくよ、皆。相手はザフィーラだ!!手を抜くんじゃないよ!!」
「おお!俺たちはアルフの姉御にどこまでも付いていくぜ!!」
「皆の集!すまんが力を貸してくれ!!」
「ザフィーラさんのためなら火の中、水の中!!」

 高まっていく両陣の気。それに耐えらなくなったアリサが叫んだ。

「やめてえええええええええええええ!!!」

 皮肉にもそれが、開戦の合図となった。











 短くも激しい死闘。桜台が夕暮れに染まる頃、そこに立っていたのはアルフとザフィーラだけだった。

「残ったのはあたしたちだけ、か」
「結局、互いの手で決着をつけねばならんようだな」
「皆には悪いことしたね」
「ああ、こんな事なら最初から我らだけで決着をつけるべきだった」

 全くだ。

「それじゃ、ケリつけようか」
「ああ」

 互いにさきほどまでの戦いで満身創痍。しかしそれを感じさせないほどの気を立ち昇らせる。

「…………」
「…………」

 何も語らず、何の合図も無く、しかし二人は同時に駆け出した。二人の牙が、爪が、互いを切り裂かんと渾身の一撃を放った。










「そんな……」

 全身全霊を込めた一撃は二人を切り裂くことはなかった。

「何故だ……」

 二人の一撃が切り裂いたのは。

「アリサッ!!」
「司令官!!」

 間に割って入ってきた二人が敬愛する司令官だった。
 崩れ落ちるアリサに二人が駆け寄る。

「二人とも……、平気………?」
「アリサ、なんで………」
「この戦いは我らの戦い。あなたが止める理由はなかったはず……!」
「理由なら……あるわよ」

 アリサは小さく笑った。もうそれくらいしか笑えなかったのだ。

「あなたたちは、私の飼い犬じゃないけど、…………私達、仲間でしょ?」

 アリサが両手を震わせて二人に伸ばす。その姿に二人は自らの過ちを悟った。

「アリサ……ごめんっ!」
「我らが愚かだった!!」
「いいの、よ。わかって、くれれば」

 伸ばした手をまだ二人に届かない。でも後もう少しで届きそうだった。

「さ、明日も、頑張って、海鳴の、平和、を、皆、で…………」

 だが、その手は二人に届く前に力なく地に落ちた。

「アリサ!?アリサーーーーーーーッ!!!!」
「司令官――――――――――――!!!!」

 茜色の桜台にアルフとザフィーラの慟哭が響いた。












「おっはよー、なのは、フェイト」

 まあ、次の日には元気に登校してた訳ですが。
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