リリカルなのは SS

                        風の小話

1 自己紹介

「えー、そんなわけでこの子が今日生まれた私のデバイスの管制人格。八神家の末っ子、リインフォースやー!」
「リ、リインフォースなのです」

 生まれたばかりの管制人格はクリスマスパーティーで大勢の人の前で緊張しながら、自己紹介した。

「なにー、この子!可愛いー!!」
「ねえ、撫でていいかな?」
「歳、いくつー?って、生まれたの今日なんだよね?」

 その愛らしさに皆が可愛がろうと殺到する。

「え、え、え、わ、わ、わー!」

 その余りの多さに、しどろもどろになったリインは怯えたように逃げ出し。

 トテトテトテ。サッ。ギュ。

「え?」

 クロノの後ろに隠れた。

「…………はやて。君の家の末っ子は何故、僕の後ろに隠れる?」
「……………私が知りたい」






幕間 風のNG 1 最短ルート

「…………」

 その耳にここに閉じ込められてから、初めて響く音が聞こえる。
 爆発音だ。遮る物、立ちはだかる者を粉砕しながら徐々に近づいてくるその音は久しく入ってこなかった大音量を聴覚に伝え

チュドーン!!

 横から衝撃。ぶっ飛ばされるクレア。

「お迎えに上がりやした、ってやっちまったー!!」

 風の系譜 完








2 敬称

「ほんなら、皆を紹介するな」
「私、高町なのは」
「なのはですか」
「フェイト・T・ハラオウンだよ」
「フェイトなのですね」
「アリサ・バニングスよ」
「アリサなのです」
「初めまして、月村すずかです」
「初めましてなのです、すずか」
「で、もうさっき会っとるけどこの人が」
「クロノ・ハラオウンだ」
「はいです!クロノさん!」
「……………」
「……………何か、言いたそうだなはやて」
「………なんでクロノくんだけさん付けなん?」
「僕に聞くな………」

 ちなみにヴォルケンリッターも呼び捨てである。







幕間 風のNG 2 趣味じゃない

 発動の早いバインドの基本であるリングバインド、拘束力に優れるチェーンバインド、対象の強化魔法を無効化するストラグルバインド。三種のバインドによる圧迫感に魔導師は叫びも上げられず苦悶の表情を浮かべた。ミシミシと軋む痛みを耐えようとするが、やがてぐったりと頭を落とした。

「ふぅ〜………………」

 相手が意識を失った事を確認するとユーノはバインドを解除。魔術師が倒れこむと同時に膝に手をついて体から力を抜いて。

「………やっぱ、男なんて縛っても面白くないなぁ」

 そんな事をのたまいやがった。







3 癒し系

 リインがはやてに連れられてハラオウン家に遊びに来た。

「ここがクロノさんのお家なのですかっ」

 家の中を縦横無尽に駆け回るリインフォース。

「ああ、こらこら。室内を走り回るんじゃない。飛び跳ねるな。下の階の人に迷惑だから。ベランダから身を乗り出すな。危ないぞ。ああ、ほら大人しくしないから転んだじゃないか。痛いのはどこだ?さすって上げよう。まったくしょうがない子だなぁ、リインは」
「………クロノの顔が、子猫と遊んでる時と同じになってる」

 リインフォースU、それは皆の癒し系。








幕間 風のNG 3 間違えたらしい

「それは?」
「立体映像記録装置。この中にデュランダルに残ってたデータがコピーしてあるの。まずは見てみて」

 エイミィがカードを操作して映像を再生する。中央に埋められた宝石から光が発し、空間にスクリーンを映し出した。
 それに浮かび上がったのは、顔を合わした回数こそ少ないが忘れられない女の顔があった。

『クレアショッピングー!!』

 その女はこれ以上ないくらい明るい笑顔で高らかに声を上げていた。

『さあ、今日ご紹介するのはっ!貧弱な貴方もこれでパワーアップ!!融合型デバイス『キメラ』をご紹介します!なんとこれをつけるだけで、どんな低い魔力も大幅アップ!!AAAランクも夢じゃありません!!もちろん、補助デバイスキメラAHとSの一式も揃っております!さらにさらに、今なら量産型カートリッジシステムもお付けしてなんとお値段○万円!今すぐ、こちらまでお電話を!!』

 映像の下半分辺りに、電話番号が出る。違った自分になれる、などというナレーションを最後に映像が途切れた。

「……………」
「…………とりあえず、電話する?」

 困り果てた一同に、エイミィが尋ねるが、無論答えられる者はいなかった。







4 同盟再び?

 リインは今、高町家にお邪魔している。たまたま休日が重なったリンディとクロノも高町家を尋ねており、今は庭でなのはとクロノがリインの相手をしている。

「お庭が広いのですー」
「あ、リインちゃん。危ないよー」
「って言ってる側から。よく転ぶ子だなぁ」

 それを縁側から桃子とリンディが微笑ましそうに眺める。

「いいですねー、リインちゃん」
「ええ。歳を取るのは嫌ですけど、あんな孫を持つのはいいと思います」
「………」
「………」
「今、願望が一致したような気がしましたけど?」
「ええ、私も」



「なんか、こう。縁側から悪寒を感じるのだが………」
「わ、私も…………」
「?」

 僅かに顔を青ざめる二人をリインは不思議そうに見上げた。









幕間 風のNG 4 狂化もとい狼化

「クロノ執務官。その怖いお嬢さんの息の根を止めちゃって下さい」

 その言葉に蹲っていたクロノが立ち上がる。そうしてゆっくりとなのはの方に歩み寄っていく。

 そうしてゆっくり手を伸ばし、なのはの服を脱がしにかかった。

「ふぇ?え?え?え………、えええええええええええええっ!?」
「な─────!?ク、クロノ君、初めてのなのはちゃんを無理やりな上に、縛られた状態でさらには衆人の前でやなんて!?おまけに縛られてるから、全部脱がせられないから、さらに無理やり感アップ!!マニアックや、マニアックやでクロノ君────────────!!」

 以下自主規制。







幕間 風のNG 5 口は災いの元

「あははははははははははははははははははははははははははっ!!」

 身を逸らして笑うクレアをはやて達は理解できず、呆然と眺める。それに構わず、クレアは笑い続ける。喜びという感情しか知らないように。

「あはははははははははははははっ!!まさか!まさかまさかまさか!!これは予想外だ!!なんという天恵!!素晴らしい!!素晴らしいですよクロノ執務官!!ああ、私はあなたを愛してしまいそうだ!!」

 その言葉とともに。

「ポっと出のオリキャラが調子に乗るなやーーーーーー!!」

 膝を折ってへたり込んでいたはやてが。

「な、何を言ってるのーーーーーーーー!!」

 傷ついて待機していたはずのフェイトが。

「そ、そんなの駄目――――――――――――!!」

 バインドに拘束されていた筈のなのはがそれぞれブレイカーを発射した。

「あーーーーーーーーれーーーーーーーーーーー!?」

 愛って偉大だなぁ、と思いつつクレアは吹っ飛ばされた。










5 時系列で言うと

「ぶすー」

 わざわざ擬音を口にして、不機嫌ですと言いたげなリイン。

「あー、リイン。機嫌を直してくれると助かるんだが」
「嫌なのです。提督になってリインと遊んでくれないクロノさんなんて嫌いなのです」

 クリスマスが終わり、年が明けてからクロノは提督試験にかかりっきりだったため、まるでリインの相手をする事が出来ていなかった。

「………はやて。なんとかしてくれ」
「知らへんもーん。クロノ君が遊んであげなかったから、リインの夜泣きが酷かったんやで?しっかり自分で責任とってや」

 はやてに助けを求めるが同じように相手をしてもらえなかったはやては助け舟を出してはくれなかった。

「………すまない、リイン。出来る事ならなんでもするから許してくれないか」

 生まれて半年も経たない幼女に思い切り頭を下げる提督の図。色々と駄目な匂いを感じさせる光景だった。

「………なんでもなのですか?」
「ああ。出来る事ならな」
「なら、抱きついていいですか?」
「ああ。そのくらいならお安い御用だ」

 その言葉にぱぁと顔を輝かせてクロノに飛びつき、抱きつくリイン。

「三ヶ月分のパワーを充電するのです」
「パワーってなんだ………」
「撫で撫でも欲しいのです」
「わかったわかった」
「えへへーなのですー」
「機嫌は直ったかな?」
「まだまだなのです。この後は肩車もおんぶもセットなのです」
「はいはい」
「…………………」

 ご満悦なリインをはやてがひょいと摘み上げる。

「ほら、リイン。そのへんにしときや」
「ああ、マイスター!?何をするなのですか!?まだ、三日分しかパワーを充電してないのです!!」
「あれで三日なのか………」

 暴れるリインをはやては目の前に持ってくる。

「リイン。大人しくしよ?な?」

 その時、はやては背を向けていたのでクロノにはどんな顔をしていたのかわからない。ただ、はやての肩越しにリインが顔を青ざめさせてテンポの速いメトロノームのようにコクコクと頷くのが見えた。

「ほんなら、クロノ君。私達行くな」
「あ、ああ…………」

 帰ろうとするはやてとリイン。しかし、何か名残惜しげにこちらに視線を送ってくる。

「どうした?」
「な、なんでもあらへん」

 そう言って足早に去っていくはやて。そうして十分に距離を取ったところで。

「わたしかて、三ヶ月分充電したいんやけど………」

 そう、呟いた。







幕間 風のNG 6 変身アイテム

 そこに現れたのは、バインドによって磔のようにされたクロノの姿。

「クロノ君!」
「クロノ!」
「クロノ君っ!!」

 その姿に一斉に駆け出そうとするなのは達。だが、それを遮るように赤い『何か』が飛び出し、辺りを舞った。それは暴れまわるように壁や床や天井を砕きながら跳ね返り続ける。
 やがて、その動きの範囲が狭くなっていく。舞い続ける赤い『何か』。
それをクレアの手が掴み取り、目の高さまで持っていく。

「変身」

 それをいつのまにか装着したベルトに入れる。
 その瞬間、クレアの姿が赤いマスクドライダーになった。

「ってよりにもよって主役ライダーかい!!」
「うーん、ここはやっぱりホッパーでやさクレアさんの方がよかったでしょうか?」

 どちらにしろ、おこがましかった。









幕間 風のNG 7 続けて、カブトネタ

 横から呼びかける。クロノはこちらを見向きもしない。はやては僅かに苦笑しつつ、シュベルトクロイツをクロノに翳した。はやての行動になのはとフェイトが驚いて顔を向ける。それでクロノは釣られるようにようやく顔をはやてに向けた。

「はやて?」
「諦めよ、フェイトちゃん。こういう時のクロノ君に何言っても無駄や。なら、私達でフォローしよ」
「はやてちゃん………」

 その言葉になのはとフェイトはおそるおそるクロノから離れ、意を決してクロノにデバイスを翳した。

『Nanoha Power』
「は?」
『Fate Power』
「ちょ」
『Hayate Power』
「っと」
『Hyper S2U』
「待てええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

 自らの半身であるデバイスは知らん間にパーフェクトな機能をつけていた。








6 風は続く

「スー………、スー………」

 遊び疲れたリインがクロノの膝の上で眠っている。そのリインの頭をクロノはあやす様に撫でてやった。

「よく寝てるな」
「ごめんな、クロノ君。リインが枕にしてもうて」
「いや、構わないさ」

 微笑ましげにリインを見る。ふと、顔を上げるとぽつりと呟いた。

「もし」
「?」
「もし、あの子がいたら、リインと仲良くなっていただろうか」

 その言葉には苦い響きがある。悔み切れない後悔があった。
 それを慰めるようにはやてははっきりと言った。

「なったよ。絶対に」
「そうかな?」
「そうや」
「そう、か」

 もう一度リインの頭を撫でる。リインは少しくすぐったそうにした。

「あの子が生まれた意味はきっとあるよ。だって、リインはこんなに幸せそうにしとるんやから」
「………そうだと、いいな」

 名の無き風は吹き去ったけど。

 風は連なり、祝福の風となってここにある。



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