リリカルなのは SS

                    小さな日常達 4

 1 呼び捨て・呼ばれ方

 その日、クロノはフェイトと一緒に月村家を訪ねていた。玄関でノエルとファリンの二人のメイドがクロノとフェイトを出迎える。

「こんにちは。ノエルさん、ファリンさん」

 そのクロノの挨拶にノエルは真剣な表情で切り出した。

「クロノ様、どうか私どものことは呼び捨てで御呼び下さい」

 様付け?呼び捨て?
 その言葉に背中に嫌なものが走る。

「………なんででしょうか?」
「……お嬢様から将来の義弟になると聞き及んでおりますので」
「やっぱりかああああああああああっ!!だからなんでそんな認識されているんだあああああああああああああっ!!」
「宜しくお願いしますね〜、クロノ坊ちゃま」

 その日、クロノは部屋の隅で月村家の猫とずっとじゃれていた。







 2 滅び行く一時

 クロノが安息の一時、月村家の猫と戯れている時だった。

「ん?」

 ちょいちょいと服の裾を引っ張られる感触。

「………」

 振り向いてみる。

「…………」

 ガタガタと震える。そこにいたのはあまり見た事が無い、けれどはっきりと見覚えのある猫が二匹。

『やっほー』
『元気かー?クロスケー』
「なんで君達がここにいるー!?」

 クロノ、安息の一時を失う。







 3 職業病

「疲れた………」

 部屋に戻るなり、クロノはそう呟いた。今日は休日で、いつもの通り翠屋に行ったのだが、気が付けば何故か店の手伝いをしていた。接客にレジに皿洗いに掃除と終始動きっぱなしだった。正直、途中でなのはが現れなければ閉店作業までやっていたかもしれない。
 そんなわけで、せっかくフェイトが作った夕食もろくに味わわない内に食べてしまい、風呂に入ってようやく一息つけたところだった。明日は仕事だから今日はこのまま眠ってしまおう。
 そう思った時、コンコンとドアが叩かれ扉が開かれた。

「あの、クロノ。ちょっといいかな?」
「いらっしゃいませー」

 部屋に入ってきたフェイトに条件反射で挨拶するクロノ。されたフェイトは突然の来客用挨拶に目を丸くした。その様子にクロノは自分が何を言ったか、理解した。

「………………」
「………………」
「………………すまない、今のは忘れてくれ」
「………………うん」









 4 癒し

「……………」

 先の出来事は忘れた事になったが、クロノは『ズーン』という擬音と共に部屋の隅で膝を抱えていた。

「………っ」

 激しく落ち込んでいるクロノを見て立ち去れるほど、フェイトとクロノの絆は浅いものではない。なんとかクロノを元気付けようとフェイトはソワソワモジモジしながら思案する。
そうしてフェイトがとった行動は。

「……フェイト?」

 ポン、とクロノの肩に手を置く。震えそうになる手でその肩を揉んでいく。

「あ、あの………クロノ、疲れてるみたいだから」

 それだけ言って無言で肩を揉み続ける。クロノも無言で肩を揉まれ続ける。五分くらいそうしていただろうか。クロノが肩に乗ったフェイトの手に手を重ねる。

「もういいよ。大丈夫だ」

 振り返って、フェイトの頭に手を置き撫でてやる。

「ありがとう、フェイト…………」
「うん………」

 フェイト、クロノのポイント大幅アップ。









 5 癒し、だったのに

「………なあ、フェイト」
「何?クロノ?」
「その、くっつきすぎじゃないか?」
「そんなことないよ」

 肩に頭を置いた状態で言っても説得力が無い。

「…………」

 後ろを見る。後方にいる二人から凄い目でめっちゃ見られてますよ?

「はあ」

 クロノ・ハラオウン提督十九歳は盛大にため息をついた。








 6 その出会い

 海鳴市臨海公園。
 その公園で潮風を受けながらアリサとアルフとザフィーラが歩いていた。任務ではない。パトロールを兼ねたちょっとした散歩だ。正義の味方にも休息は必要なのである。

「いい風ねー」

 上機嫌で歩く司令官を見て、アルフとザフィーラがふと今の状況を思い返す。

「しかし、早いもんだねー。こうしてチームを組むようになってから」
「そうだな………」

 そう、忘れもしないあの出来事。それは夕暮れのこの場所で起こった事だった。






 理由はなんだったか、覚えていない。ただその日、アルフは虫の居所が非常に悪かった。そして、臨海公園でばったり会ったザフィーラも珍しいことに虫の居所が非常に悪かった。
 そんな状況で会った二匹の子犬は必然のように喧嘩を始めた。夕暮れの公園、実力伯仲の子犬が壮絶な死闘を繰り広げる。

「どりゃあああああっ!!」
「はあああああああっ!!」

 そしてその死闘に終止符を討つべく、互いの一撃が交錯しようとした瞬間。

「ストップよ!!」

 首根っこを掴まれた。

「んあ?」
「ぬっ?」

 突然の事に状況が掴めない二匹に。

「ここでの戦闘は物騒よ。この勝負、聖祥学園四年生アリサ・バニングスが預かるわ!」

 どっかで見た事のある登場の仕方で現れたアリサがそう告げた。








 そんな出会いから紆余曲折を得て、『嘱託ペット』なる意味不明の地位を貰い、現在に至るわけである。

「最初はあれだったけど、随分と馴染んじゃったねぇ。あたしら」
「しかし、悪くは無い」
「だね」
「あっ!!」

 感慨深く語り合う二匹の会話を打ち切るようにアリサが驚きの声を上げる。その視線の先を追うとちびっ子集団にいじめられている小さな野良犬がいた。

「………平和はいつだって短いのね。行くわよアルフ、ザフィーラ!!」
「おうさ!」
「御意」

 そうして二匹はまた司令官の命を受けて海鳴の平和を守るのだった。








 7 劇場版 予告

 その次元世界に存在する銀河系宇宙太陽系第三惑星地球。その地球上にある日本という島国の内にある海鳴市。その町にその喫茶店はあった。
 喫茶店兼洋菓子店兼暗黒秘密結社『翠屋』。今その店である壮大な計画が立てていた。
 大家族計画。
 ある一人の少年を取り入れることにより、有能な店員を確保すると同時に異世界の魔法使いや娘の友人と親戚になり、町一つくらいならあっさり消滅できる戦力ともうお金には困らなそうな財力をついでに確保できる恐るべき計画である。
 その計画の鍵となる少年の名はクロノ・ハラオウン。異世界の魔法使いであり、時空管理局で執務官を勤める少年である。
 暗黒秘密結社総帥・高町桃子(喫茶店兼洋菓子屋の方ではパティシエ兼経理担当)の策に翻弄されるクロノ。
 休日を奪うバイト。
 染められていく職業。
 身を病む職業病。
 溜まっていく心労。
 次第に桃子の計画通りに引きずり込まれていくクロノ。
 そのクロノを見て少女達は祈った。

「「「誰か彼を救って」」」

 その祈りは。

「あたしに任せなさい!!」

 一人の少女に届けられた。







 今、海鳴市を舞台にかつてない戦いが繰り広げられる。

「出動よ!海鳴戦隊『バニングスレンジャー』!!」

 巨大な力に立ち向かうため、再び彼らが帰ってくる。

「シュークリームの五個や十個であたしが満足すると思ってるのかい!?」

 (食べ物を食い散らかしながら)猛る紅の子犬。

「バニングスブルー・ザフィーラ!!押し通らせてもらう!!」

 実は一番ノリノリな蒼の子犬。

「この間は世話になったけど」
「手加減はしないからね」
「こちらも行きますよ、ファリン」
「えっ!?わ、私もですかぁ!?」

 双子猫VSメイド姉妹。

「しまったわ!二人の世界が構築しかけてる!!割り込めそうに無い上、十五歳未満お断りな雰囲気だわ!」
「僕が………止めて見せます!!」

 死地に向かうフェレット。

「ヤテンホワイト参上なのです!」

 突如出現する第三勢力。

「クロノお兄さん………」
「え、何?何でシャツ一枚でボタンは上から三つも開けてるの?何ゆえ、頬を上気させ、人を惑わせるような魔性の瞳で僕を見ているの?そして何より何故僕は月村の家のベッドで寝ていて猫の大合唱を聞かせられながら拘束されているんだっ!?」

 迫る義妹(?)。

「か、勘違いしないでよね。べ、別にあんたの事なんてどうでいいけど、頼まれたから仕方なくやってるだけなんだからね!」

 吼える司令官






 空前絶後。
 前代未聞。
 理解不能。
 意味不明な超展開で繰り広げられる戦隊アクション。

 『劇場版海鳴戦隊バニングスレンジャー・暗黒秘密結社『翠屋』との戦い』






 そして、彼女が戦場に立つ。

「バニングスマスター、出るわ!!」



 20006年夏、メタルギア・ユーノ”これが僕の全力全開”と同時公開予定。
inserted by FC2 system