リリカルなのは SS

                   サバイバルハプニング

「くそっ、降ってきたか」

 クロノが忌々しげに空を見上げる。濁りきった川のようなドス黒い雲が見上げた空を覆っている。まだ小降りだが、すぐに土砂降りになるのは目に見えていた。

「なのは、大丈夫か?」
「う、うん……、だいじょう、ぶ…………」

 返ってきた返事は途切れ途切れで弱々しい。その声に焦りを感じたクロノはまた空を見上げる。
 大粒の雨がクロノの顔を叩いていた。






「サバイバル教習?」

 その申し出を頼まれたのはクロノが執務室で書類をしており、アースラを訪ねていたなのはがそれを手伝い、その休憩の合間のときだった。

「う、うん」

 思わずまじまじと目の前の相手を見て聞き返してしまった。なのははその視線にたじろいだように視線を逸らした。その仕草に何か悪いことをしたような気になるがそれでもその申し出を不思議に思わずにはいられなかった。

「一体どうしたんだ、急に」
「えっと、クロノ君言ってたけど教導官ってサバイバル教習もやらなきゃ駄目なんだよね?だから、今のうちに習っておこうと思って」

 その理由にクロノの不審は拭いきれない。確かに教導官にサバイバル技能は必須項目だ。遅かれ早かれ習得しなければならない事だが、それを急に申し出るのはなんとも不自然に思えた。

「確かにその通りだが、君はまだそれ以前の問題の気がするぞ。まだ十分な体力が出来上がっていない内では教習に耐えられないぞ」
「…………」

 なのははお世辞にも体力がある方ではない。そのなのはでは第一に体力が問われるサバイバル教習はまだ無理だとクロノは思った。
 その言葉になのははぐっと唇と噤んだ。その様に言い過ぎたかと思ったが、なのはは真剣な表情のまま、頭を下げた。

「お願い、クロノ君」

 クロノは腰に手を当てて嘆息した。なのはは元々言い出したら何があってもやりとげようとする少女だ。ここまで決意は固いようでは、自分が断ってもリンディに相談するのは目に見えている。
 なら、ここで申し出を受けても話は変わらない。

「わかった。都合のいい日を教えてくれ。それにあわせてこっちのスケジュールも立てておく」

 その言葉になのははほっと息をついた。






 サバイバル教習は場合によっては数日に及ぶ日程で行われるため、高町家とも協議してスケジュールを組むことになりその結果、学校の事なども考えて週末を利用した一泊二日の日程で行うことになった。サバイバル教習としては短めの日程だが、なのはの事を考えれば妥当なスケジュールだった。

「訓練やからしょうがないけど、気をつけるんやで。クロノ君に」
「クロノがいるから平気だと思うけど、気をつけてね。クロノに」

 出発当日、何故かやたらとなのはを心配するフェイトとはやて、なのはに何か吹き込んでいる桃子、『何かあったらしっかり責任取りなさい』いうリンディとエイミィの意味不明な言葉に見送られながらクロノとなのはは教習場となる未開拓の次元世界に向かった。
 そこはは深い森がどこまでも続く世界。クロノとなのははその森の合間にある広場に荷を下ろした。ここから二日間かけてゴールである指定ポイントまで行くのが今回の教習の内容だ。
 食料や道具は予め持ち込んだもの以外は現地調達、魔法も基本的に使用してもかまわないがこの世界は大気中の魔力が極端に少ないため回復は望めないので使いどころは自分で考えなければならない。またお互いデバイスは出発前に預けてあった。

「それじゃあ、いくぞ」
「はい!」

 勢い込んで返事をするなのは。だが、何キロにも及ぶ荷物、元々高くない体力、気温も湿度も高い気候、様々な要因がなのはを苦しめた。ただ、歩き続けるだけの行為がこれほど大変だと思った事は無い。その横でクロノは汗こそ流してはいるものの自分より重い荷物を背負いながら平然と同じ道を進んでいる。どうして平気なのだろうと不思議でならなかった。
 途中、蛇に出くわして悲鳴を上げたりもした。薪から火を焚くのも苦労したし、決められた材料だけで食事を作るのも苦労した。けれど『やっぱり料理は君の方がうまいな』と言うクロノの感想は嬉しかった。夜、ぐっすり寝ているところを起こされて、火の番を交代したのはつらかった。
 それでも一日目が過ぎ、二日に突入して夜を迎える前にゴールに辿り着ける地点まではなんの問題もなかったのだ。
 そう、その時までは。

「あと少しでゴールだ。頑張れなのは」
「う、うん!」

 肩で息をしながらも笑って答えるなのは。魔力を使って身体能力を強化しているので余裕があるのだ。最初こそ渋っていたが、使わなければここまで来られなかっただろう。魔力を使っても体力はつくし、その折り合いも教習の一環だといって説得するのは中々大変だった。
 それもこれで終わりだ。早くゴールして充実感を味わってもらおうと足を速めようとしたその時だった。

「ん…………?うおっ………!?」
「わ、わ、わっ!?」

 僅かに辺りが揺れたかと思った次の瞬間、立っていられないほどの揺れがクロノ達を襲った。咄嗟のことに飛行魔法も発動できずクロノはなのはに覆い被さって揺れが収まるのを待った。
 やがて揺れが収まると、なのははきつく瞑っていた目を開いた。

「─────」

 クロノの顔がもの凄く近い所にあった。

「………収まったか」

 十秒を超える長い地震が収まり、クロノは立ち上がって辺りの様子を見る。地割れや木々の倒壊などはないようだ。クロノは一息ついて庇ったなのはの方を向いた。

「どうやら揺れだけみたいだな。このまま進もう…………、なのは?どうかしたか?顔が赤くなっているが?」
「な、ななな、なんでもないよ!?」

 ぶんぶんと手を振るなのはにクロノは首を傾げつつ、放り出した荷物を背負い直す。なのはも立ち上がってそれに倣った。
 そうして二人は目に見えた災害を引き起こさなかった地震を気に留める事無く、数時間後にはゴール地点へと辿り着いていた。

「ゴールだ。お疲れ様なのは」
「や、やったぁ…………」

 充実感よりも疲労感に負われているなのはに苦笑しつつ、クロノは荷物から通信機を取り出した。アースラに連絡して迎えを寄越してもらう為だ。

「…………………?」

 反応が無い。もう一度アースラに向けて通信を向けるが通信機に応答はない。いや、それどころか通信が届いてすらいないようだった。機械の故障かと思って軽く調べてみるが以上は見当たらない。来る前に点検は済ませてあったし、ここに来るまでの行程で壊れるような事をした覚えはない。
 眉間にしわを寄せるクロノを不審に思い、なのはが声をかける。

「クロノ君?どうしたの?」
「いや…………」

 尋ねられるが言葉を濁すだけに留まる。通信機に異常はない、だとすればアースラ側に何かあったのだろうか?いや、L級の艦船がそう易々と異常事態に陥るはずがない。そんな事があればそれこそ直接連絡なり迎えなりが来るはずだ。何かそれが出来ないような理由があるのだろうか?

「………出来ない?」

 通信機に異常はない。アースラにも異常がないとする。だとすれば通信は繋がらないのではなく繋げられない?

「まさか!?」

 クロノが魔法で暗闇の中を手探りで物を探すように空間の魔力振動から次元空間の状況を探る。
 結果は予想通りだった。

「………なんてことだ」
「クロノ君?」
「さっきの地震、ただの地震じゃない。次元空間で起こった時限震の余波だ」
「えっ!?」
「今、この世界に接している次元空間は非常に不安定な状態になっている。通信が繋がらないのもそのために通信障害が出ているからだ。それだけ不安定だとアースラも空間が安定するまで迎えには来られない………」
「そ、それって!?」

 クロノは足元に置いた荷物を見る。多少の備蓄は用意してはいるがそれでもやはり二日間分の装備しか用意していない。特に食料は切り詰めなければ一日分も持たない程度にしか残っていない。
 二日間で終わるはずのサバイバル教習は、そのままいつ終わるのかわからないザバイバル実戦へと移行してしまったのだった。






 そうして既に二日が経っている。水場と雨風を凌げるところを探して、移動はしているものの残り少ない水と食料の事、互いの体力の事を考えるとその歩みは決して早いと言えるものではなかった。

「なのは、荷物を。僕が持つ」
「い、いいよ。自分の分は自分で持つから………」
「そこまでふらふらになっていて何を言っているんだ。僕はまだ余裕がある。なら負担は割り振るべきだ」

 クロノの言う通り、なのはの足取りはおぼつかない物になっている。これまでの間になのははほとんどの魔力を消耗しきっており、今は元々の身体能力で歩いてきている。蓄積された疲労に加えて、振り出した大雨は体温を奪い、衣服や髪に荷物に水を吸わせてどっしりと重くなっている。今は大丈夫だとしてもこのままではなのはの体力が尽きてしまうのは明白だった。

「大丈夫」

 けれど、なのはは頑なだった。

「なのは」
「大丈夫!」

 そう言ってなのはは手を差し伸べたクロノの横をすり抜けるようにして先に進んでしまった。

「…………」

 ここに来てクロノは何かがおかしいと思った。なのはは言った事はやり遂げる少女だ。だが、今のなのははその強い意志で大丈夫だと言っているのではないと感じた。あえて言うなら意地のような、感情染みた言葉でそう言っているように感じた。
 その理由はわからない。それでもなんとかしないとなのはの方が倒れてしまう。しかし、説得の言葉が浮かばないままクロノがなのはに方に身体を向ける。

「………なのは?」

 先に歩いていこうとしていたなのはが足を止めていた。何事かと思ってその隣に立つ。

「どうかしたのか?」
「クロノ君、あれ…………」

 なのはが小さな指でその先を指す。
 そこには大岩に走った亀裂のような洞窟があった。






「ここなら雨は凌げそうだな。あとは水と食料があれば救援までは凌げる」

 言いながらクロノは髪を絞るように両手で掻き上げる。手についた水分を振るって落としながらちらりとなのはの様子を見る。
 やはり無理をしていたのだろう。なのはは洞窟に入るなり、荷物を放り出すように置いてその場に座り込んでしまった。今は身を縮めるようにして膝を抱えている。その身体が小刻みに震えているのをクロノは見逃さなかった。

「なのは。ちょっと外に行ってくる」
「え?」
「待っててくれればいい」

 それだけ言うとクロノは再び豪雨の下に身を躍らし森へと駆けていった。薪になりそうな手ごろな枝を探し、足りないと思うと丁度よさそうな枝を魔弾で撃ち抜いて折っていく。
二十分もすれば両手でなんとか抱えられるほどの薪を手に入れることが出来た。クロノはそれを持って洞窟へと急いだ。

「なのは。今戻った」

 声をかけるが返事は返ってこない。奥に進んでいくと堪え切れなかったのだろう。膝を抱えたままなのはが眠りについていた。

「やはり疲れきっていたか………」

 ただ濡れたままの身体では風邪を引いてしまう。クロノはなのはから近すぎず遠すぎない位置で薪を重ねると火を起こした。火が大きくなるまでの間に軽く身体の水を落としてから荷物に入っていた大き目のタオルを取り出す。それから肩を揺すってなのはを起こした。

「ん………あれ………クロノ君………?私………?」
「起こしてすまない。けどこのままじゃ風邪を引くから寝るのは身体を乾かしてからにしてくれ」

 言われてなのはは自分が寝てしまったことに気付き、またいつの間にか焚かれてきた焚き火に気付いた。自分が眠っている間、クロノが何をしてきていたのかすぐに理解した。

「ク、クロノ君、ごめ」

 クロノはなのはが言い切る前に頭にタオルを被せた。きょとんとするなのはにクロノは背を向けながら言う。

「それで身体を拭いてくれ。僕はそこの陰にいるから終わったら言ってくれ」

 言いながら岩陰まで歩いていきどっかりと腰を下ろす。
 とりあえず、これで今は大丈夫だろう。自分もさすがに疲れている。食料や水の事はまず体力を回復させてからだ。
 そう思って一息ついている時だ。湿った衣擦れの音が聞こえてきたのは。

「…………」

 まあ、あれだ。服も濡れているわけだから身体を拭くには当然服を脱がなくてはいけない訳で。それはこの岩から身を乗り出せばその様子が見られる位置でその行為は行われる訳で。そもそも服も乾かす必要があるのだからその間は服を着られない訳で。その間、なのははタオル一枚という非常に悩ましい姿をしなくてはならない訳で。つまり何が言いたいかというとそんな当たり前の事に気づきもしないでよくも身体を拭いてくれなんて言ったもんだな自分―!!

「ク、クロノ君?なにか今岩に頭突きをしたかのような音したけど?」
「気にするな。なんでもない」

 それからしばらく二人は無言だった。クロノにして見れば消耗した体力を少しでも回復させようとした動作であったが、なのはの方はどうなのだろうか。また眠ってしまったのだろうか。

「─────ごめんね、クロノ君」

 そう思った時、奥からなのはの声が響いてきた。

「何を謝る?」
「だって、迷惑かけちゃったから」
「迷惑とは何の事だ?僕が薪を拾いに行った事か?それとも」

 このサバイバル教習のことか?
 口には出さなかったがなのはにはそれで通じた。

「だって、私が言い出さなければこんな事にならなかったのに」
「………それより聞かせて欲しい。なんでこの教習をやろうとした?行く前にも言ったが君にはまだ早すぎると思った。それでもやったのには理由があるんじゃないか?」

 クロノは今回の事を迷惑だとは思っていない。だから謝罪よりもその理由が知りたかった。語りたくないならそれでもいい。クロノはそれ以上言わずになのはの言葉を待った。

「………この間ね、体力測定があったんだ」

 少しの間、待っているとぽつりぽつりとなのはが語り出した。

「管理局で働くようになって、魔法の訓練だけじゃなくて、体力もつくように頑張ったんだ。それでね、どのくらい伸びたかなって思って期待してたんだ」
「………」
「でもね」

 そこでなのはは一旦言葉を切った。

「その前に図った時とあんまり変わってなかったの」
「そう、か」
「フェイトちゃんやアリサちゃんやすずかちゃんは前よりも伸びてて、私だけ変わってなくて。…………やっぱり私運動オンチで頑張っても直らないのかな」
「そんな事はないだろう。恭也さんや美由希さんも凄い運動神経の持ち主だ。なら、その兄妹の君だって資質はある筈さ」

 以前、二人の稽古に立ち合わせてもらった時があったが息を飲んだ。魔力も何の加護を受けずに鍛え上げた身体能力のみで常人では反応すら出来ないだろう動き。魔力を使わないで彼らに立ち向かえば自分なんて子供も同然だろう。だからその血筋のなのはに資質がない訳はないだろう。
 けれど、なのははそこで首を横に振った。

「あのね、お兄ちゃんとお姉ちゃんって本当の兄弟じゃないんだ」
「なっ…………」
「お兄ちゃんはお父さんと別のお母さんの子供で、お姉ちゃんは従兄弟なんだって。でも二人ともちゃんと御神流っていう流派の子供で、私だけ半分なんだ」

 その言葉には隠しきれない寂しさがあった。
 なのははなのは、運動が苦手でもしょうがない。家族や友人にそう言われた事もある。励まされる反面、兄と姉と違うのだということを思い知らされる言葉でもあった。
 自分は自分。自分『だけ』が兄妹とは違う。運動が出来ない、剣術もやらない。そんなところからなのはは自分だけが家族の中で浮いているという孤独感を感じていた事もあった。

「私だけ資質がないから努力しても無駄なのかな、ってそう思ったんだけど。それで思い出した事があるの」
「それは?」
「前にね、リーゼさん達とお話した時に言ってたんだ。クロノはそんなに才能がある方じゃなかった、って」

 思わぬ人物達の名前にクロノが言葉に詰まった。それから若干忌々しげにその二人に対する文句を言う。

「あの二人、僕の知らないところで余計な事を………」
「でも、クロノ君はとっても努力して魔法も運動も出来る人になったから。だからクロノ君に教えて貰えれば…………」
「出来るようになる、そう思ったのか」

 その言葉にクロノは洞窟の天井に遮られた天を仰いだ。

「なら、そうと言ってくれればよかったのに。何故言わなかった?」
「…………」
「迷惑がかかる、そう思ってサバイバル教習という名目で訓練してもらおうとした。そんなところか」
「………うん」

 返ってきたのはこの上なく力ない声だった。その声を聞きながら、クロノは一つ一つ言いたい事を思い浮かべる。どれを言うべきでどれが言わなくてもいいことなのかを考え、結局全部伝えることにした。それほど口の立つほうではない。そうした方が伝えたいことが伝わると思った。

「なのは、色々と言いたい事がある。聞いてくれるか?」
「うん………」
「まずは一つ。訓練するならまずは基礎からだ。それが身につかない内にこんな訓練をしても身を壊すだけだ」
「………」
「次に一つ。確かに僕には才能がなかった。けれどそれでも力がつけられたのは諦めなかったから以上にリーゼ達が正しい訓練を付けてくれたからだ。君は諦めることはしない。だから君に必要なのは正しい訓練だ。サバイバル教習なんて無茶じゃない」
「………」
「それと最後に一つ。もし、それで僕の手を煩わせる事を迷惑だと思うならそれは思い違いだ」
「でも………」
「一緒に頑張ろう。そう約束しただろう?」
「!」
「さっき僕は君の荷物を持とうとした。けれど君はそれを断った。それじゃ不公平だから。でも一緒に頑張るっていうのは肩を並べるだけじゃないと思う。くじけそうな時に手を引いてあげる事も一緒に頑張るって事じゃないかな?苦労を分かちあう事が出来るのだから」
「分かち合う………」
「君の手を引くことが大変だとしても、それでいつか君が肩を並べてくれたのなら、それは一緒に頑張った事にはならないか?」
「クロノ君………」
「だから、頼ってくれていい」
「……………うん」

 相手の姿は見えない。けれどお互い笑っている。二人はそんな繋がりをなんとなく感じた。
 その時である。

「な、なんだっ!?」

 突如、振り回されるような揺れが洞窟内を襲った。パラパラと上から石の欠片が降り注ぐ。

「きゃっ!?」
「なのは!?」

 なのはの悲鳴にバランスの取れない揺れの中、這いずる様にして向かっていき、なのはの身を守るために覆い被さった。
 次第に収まっていく揺れ。それが完全に止まったところでクロノは顔を上げた。

「また次元震の余波か………?」

 だとすれば、また救援が来るまでの期間が延びてしまうのだろうか?

「なのはー!!クロノー!!」
「二人ともいたら返事してやー!!」

 そう思った時、聞き覚えのある声が響いてきた。

「そうか、今の揺れはアースラが転移してきた事による空間反動か。こっちだ二人ともー!!」

 事態を理解したクロノが大声で呼びかけると、足音が駆け足で寄ってきた。まもなく、先ほど自分が隠れていた岩陰からフェイトとはやてが姿を現した。

「二人とも。よく来てくれた。助かったよ…………?」

 笑って礼を言うクロノだが現れた二人が目を見開いて驚愕の表情でこちらを見ている。
どうしたのだろうと思ってその視線の先に目をやる。

「……………」
「……………」

 その視線の先は自分の下。身に纏ったタオルが肌蹴そうになり、顔を赤くしているなのはがいた。

「だだだだ、どうえぇぇぇぇぇっ!?」

 意味不明な悲鳴を上げながら飛び退るクロノ。

「ク、クロノ君!!二人っきりなのをいい事にこないな事に及ぼうとするなんて………この狼―!!!」
「ちち、違う!!誤解だ!!それに誰が狼だ!!どっかの童話じゃあるまいし!!」
「な、なのはも!!て、抵抗しなきゃ駄目だよ!!たたた、食べられちゃうところだったよ!?」
「た、食べられるってなにー!?」
「い、いいから話を聞」
『クロノ』

 クロノの弁明の遮るように念話が繋がる。相手はリンディだ。

『責任、取りなさいね』
「だから誤解だって言ってるでしょうがぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 人住まわぬ深緑の世界。その世界に響くクロノの叫びがサバイバルの終了を告げていた。






 なお、クロノが今回の事の侘びとなのはの体力トレーニングの相談のために高町家を訪れ、色々と大変な目に合ったのはいうまでもなく。なのはの方も数日間学校に姿を見せない間に駆け落ちの噂が立っており、その誤解を解くのに多大な苦労を負う事になったのだった。



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