リリカルなのは SS

                   外伝 ミッドチルダ騎士団

 それはここではない次元世界『ルカリリワールド』の物語……………。






「ここは迅速に攻めるべきだよ!」
「あかん!ここは慎重に守りに徹するべきや!」
「二人とも、喧嘩はダメー!!」

 軍議中の会議場に物々しい言い争いがされている。その雰囲気の悪さといったらドア越しどころか窓を通り越して外に伝わり、その下にある中庭には虫一匹近づけない有様である。
 ここはルカリリワールドのミッドチルダ王国のクラナガン城。現在この王国は近隣のベルカ王国と戦争中であり、今後どのように戦っていくのか。その軍議の真っ最中である。だが、方針は平行線を辿り進展を見せていなかった。
 方針は交戦派と防戦派の二つ。

「敵の勢いは増すばかり!ここで止めないとそのままやられちゃうよ!」

 交戦派の主論者は騎馬部隊隊長のフェイト。
 彼女の言い分は、現在劣勢にある自分達が受身に回ればいい様にされてしまう。だから、こちらから打って出て戦況を盛り返すべきだという意見。

「それはわかっとる!せやかて無理に攻めればそれこそ思う壺や!」

 防戦派の主論者は法術部隊隊長のはやて。
 彼女の言い分は、劣勢にあるからこそ敵の勢いを止めて反撃の機会を待つべきであり、勢いのある敵に真っ向からやられてしまうという意見。

「ふ、二人とも。落ち着いてー!!」

 それを宥めているのは戦士部隊隊長のなのは。
 彼女はどちらも言い分にも一理あり、だからといってどちらの味方をするわけにもいかず、中立の立場を取っていた。
 そういう訳で均等に意見が分かれてしまった方針ははどちらにも天秤を傾けず、白熱さを増したまま均衡を保ってしまっていた。
 そもそも本来軍議を取り仕切るのは三部隊を統率する騎士団長の役割なのだが『すいません、もう勘弁してください』という置き手紙とともにアレックス団長は王国から姿を消してしまい、それから騎士団長の座は空席のままである。

「あらあら、困ったわね」

 あんまり困ったように見えないが、今の状況にリンディ女王は困っていた。
 三部隊の隊長は皆、騎士団長に足る器だ。しかし誰かが団長になるということはその部隊の隊長がいなくなってしまうということ。それでは結局、その部隊の統率が取れない事になる。現状、部隊の中で彼女たちに変われるような人材はいなかった。
 団長が不在のままではならない。さりとて部隊長を変えることも出来ない。そうして仲違いをする三人の隊長にリンディは困っていたのだ。
 つい、この間までは。

「フェイトちゃん、お話を聞いてー!!」

 なのはがグラーフアイゼン(代用品)をフェイトに向かって振り下ろす。

「邪魔しないで、なのは!!」

 フェイトがレヴァンティン(代用品)をなのはに向かって斬り落とす。
 ハンマーと剣が激突する。ああ、こりゃまた給料から天引きかなぁと第三者に回って冷静になったはやてがこれから起こる被害の事を考えて目を瞑り─────。

「ストップだ!!」

 その声に目を開いた。

「「!?」」

 レヴァンティンが黒の杖に受け止められ、グラーフアイゼンの柄が銀の手甲を装着した手で受け止められる。全力ではなかったとはいえ、自分達の攻撃に割り込み、同時に受け止めた何者かをなのはとフェイトは驚愕の目で見る。
 そこにいたのは黒の法術衣の着た黒髪の少年。

「ミッドチルダ王国騎士団長クロノ・ハラオウンだ。話を聞いてもらうぞ」

 どっかで見た登場の仕方で新騎士団長が三人の前に現れた。







「急に団長が決まるなんて………」

 フェイトは城の近くの森で膝を抱えていた。理由は言うまでも無い。急に決定したクロノの言う団長のためだ。
 旅の者だと言う彼は優秀らしく、テキパキと方針を決めて各所に指示を送り出した。どれも的確だったので口は挟めなかったがそれでも新参者への不信感は拭えない。

「この先大丈夫かな」
「心配しなくていいぜ。おめーはここまでだ」
「!?」

 背後に振り向く。そこにはバルデッシュを肩に担いだ紅の少女がいた。

「闘士ヴィータ!?こんなところに!」
「騎士部隊隊長フェイト!その首、もらったー!」

 バルデッシュが振り下ろされる。それをフェイトは辛くもかわす。

「………やっぱこれ使いづれーよ。早くアイゼン返してくれ」
「ヴィータ!ちゃんと役に徹して!」

 敵が敵に注意するという微妙な状況の下、フェイトとヴィータの攻防は続く。しかし、フェイトは追い込まれ、幹を背にしてしまい逃げ場を失った。

「もらったー!!」

 思わず目を瞑るフェイト。

「フェイトォォォォォォッ!!」

 叫び声とともに響く甲高い音。はっとなって目を開くとそこには黒の背中が広がっていた。

「クロノ………?」
「大丈夫か、フェイト!?」

 言いながらクロノは受け止めたバルデッシュの柄を掴んで、ヴィータに蹴りを放つ。ヴィータは後方に下がってかわすがバルデッシュを手放してしまった。
 途端に、膝を突くクロノ。

「クロノ!?」
「さすが闘士の一撃。受け止めただけでこれか………」

 クロノは奪い取ったバルデッシュをフェイトに向ける。

「フェイト。僕一人では奴には勝てない。これを使って一緒に戦ってくれ」
「で、でもさっき私、負けそうになったし………」
「大丈夫。力には技だ。君なら出来る」
「…………」

 真っ直ぐな瞳に射抜かれ、フェイトは決心して頷いた。

「バルデッシュ!!ザンバーフォーム!!ジェットザンバー!!」

 振るわれる雷の一閃。

「アイゼン使ってたら、負けなかったんだからなー!!」

 その一撃を受け闘士ヴィータは敗れ去ったのだった。






「準備が整い次第、進軍する」

 クロノが軍議の席でそう宣言した。その言葉にはやてが立ち上がって反論した。

「ちょ、そんな。急過ぎや!いくらなんでも無茶や!」
「僕もこの間まで進軍は控えるつもりだった。だが、状況が変わった。攻めるなら今だ」
「状況が変わった、ってなにかあったの?」
「先日、敵の戦士部隊隊長ヴィータが倒れた」
「!?」

 唐突の戦果にはやては思わず言葉を失う。

「今、敵の戦士隊は隊長を失い動揺しているはずだ。この機を逃す手は無い。もし、攻め手が詰まればそこで引けばいい。僕としても無理に攻めきるつもりは無い」
「………クロノ君が倒したの?」
「違う。倒したのはフェイトだ」

 皆の視線がフェイトに集まる。だが、フェイトは静かに首を降った。

「違うよ。クロノのおかげで勝てたんだよ」
「それは違う。僕は少しばかり手を貸しただけだ」
「そんな事ないよ」
「そんな事だ」
「ううん、クロノがいなかったら勝てなかったよ」
「それを言ったら君がいなかったら、ヴィータは倒せなかった」
「………あー、そのへんにしとこか」

 はやても憮然とした言葉にクロノが少し間を置いてわざとらしく咳払いした。明らかに照れ隠しだ。それを見てフェイトは嬉しそうに苦笑した。

「ともかく、出撃は五日後。それまで各隊準備を急いでくれ」
「はい!」

 力強く答えるフェイトにはやては憮然とした視線を送っていた。







「この先、大丈夫なんかなぁ………」

 城の近くの草原ではやてはため息をついていた。
 急に現れた騎士団長の進撃宣言。各所に指示が行き渡り、準備が整うまであと三日。防戦派だったはやてはこの進軍とクロノへの不安を隠しきれないでいた。

「それにフェイトちゃん、なんかおかしいし」

 自分と同じようにクロノに対して不信感を持っていたはずのフェイトはいつのまにやら彼の副官のように付き添うようになった。そのフェイトの急な変心も不安要素の一つだった。

「でも決まったものに反対するわけにもいかんし……………!?」

 そこに走る一陣の風。それをはやては咄嗟に張った防御魔法でなんとか防ぐ。

「迂闊だな。この時期に一人で行動するとは」
「あんたは騎士シグナム!それとその乗狼ザフィーラ!」

 その名を呼ばれ、シグナムとザフィーラは小刻みに震えだした。

「シ、シグナム?ザフィーラ?」
「役どころとはいえ、主に向けて剣を向ける不忠……………お許しを!!」
「あー………ええから役に徹して」

 言われてシグナムは天を仰いでから、はやてに向き直ると手にしたシュベルトクロイツを突き出した。

「では主はやて。この一撃にて散ってください」
「だから役に徹してってば………」

 呆れるはやてを余所にシグナムの放った一撃がはやてを襲う。防御魔法を展開するが堪えきれず吹き飛ばされるはやて。

「とどめだ!」
「待て!!」

 とどめの一撃を見舞おうとしたシグナムをその一声が止める。

「これ以上、はやてに手出しはさせない!」
「クロノ君!?」
「ほう、貴様が新騎士団長か」

 その姿を認めるとシグナムはザフィーラの首を返して、クロノに迫る。対するクロノはシグナムの鋭い攻撃を紙一重で捌き続ける。

「くっ!」

 だが、鋭さを増すシグナムの攻撃にクロノの身体は徐々に傷ついていく。そのため動きが鈍くなったところをシグナムのすくい上げる様な一閃がクロノの持つS2Uを弾き飛ばした。
 その喉元にシグナムがシュベルトクロイツを突きつける。

「腕はいいようだな。だが、どうやらヴィータから受けた傷が癒えていなかった様だな」
「えっ!?」

 はやてが驚いてクロノを見つめる。

「ク、クロノ君。なんでそないな無茶を………」
「僕はミッドチルダ騎士団の騎士団長だ」

 喉元にシュベルトクロイツを突きつけられながら、クロノの言葉に一切の揺らぎは無い。

「だから、何があっても君を守る」
「ク、クロノ君…………」
「いい覚悟だ。…………惜しい男が亡くなるな」

 シグナムが頭上にシュベルトクロイツを掲げる。

「!」

 瞬間、その動きに反応したはやてが魔力弾を放ち、シグナムの手からシュベルトクロイツを弾き飛ばした。

「なにっ!?」

 弾き飛ばされたシュベツトクロイツがはやての手の中に納まる。

「ミルトルティン!!」

 はやてがシュベルトクロイツをシグナムに向けて石化魔法を放つ。

「これが不忠の報いか………!」

 最後まで役に徹し切れなかったシグナムは石になって敗北した。






「敵は戦士隊だけでなく、騎馬隊の隊長も失った。これ以上のチャンスはない」

 出陣前夜、最後の軍議でクロノは力強く宣言した。その言葉にうんうんとフェイトとはやてが頷く。

「でも本当に大丈夫かなぁ」

 ただ、なのはが一人状況の変化についていけず不安そうだ。

「大丈夫だよ、なのは。クロノがついてるよ」
「そや。クロノ君と頑張ればなんとかなる」

 それに反するようにフェイトとはやてはクロノを後押しするようになのはを諭す。

「僕が安心の要素になるかはわからないが、皆の力を集めればなんとかなる筈だ。だから、力を貸してくれ」
「はい!」
「はいや!」

 力強く答えるフェイトとはやてになのははどことなく寂しい表情を浮かべていた。







 その後、ミッドチルダ騎士団はベルカ城に攻め入った。

「皆、頑張って!!」

 城内に突入した戦士部隊をなのはが奮い立たせる。しかし戦況は芳しくなかった。
 クロノは部隊を巧みに指揮して戦いを有利に進めていたが、中央が開くとなのははそれを機と見て、はやてとフェイトが止めるのも構わず城内に突撃してしまったのだ。しかし、城内の守備は堅く立ち往生する事になってしまった。
 なのはが功を焦ったのは、急に新騎士団長への態度を変えたフェイトとはやてのためだ。最近の二人はクロノの話ばっかりだ。何か友達が取られてしまったような気持ちになり、武功を立てて関心を引こうとしたのだ。
 だが、今そのためになのはは窮地に立ってしまった。焦るなのはの耳に隊員の悲鳴が響く。

「ふふ、皆さん逃がしませんよー」
「あ、あなたは呪術師シャマルさん!!」
「礼儀正しいのは結構ですけど、役に徹してくださいねー」
「シャ、シャマルさんは徹しすぎなのではー!」

 シャマルが手にしたレイジングハートを振り回して、次々と戦士隊の隊員を倒していく。

「これ以上はやらせません!」

 シャマルに踊りかかるなのは。それをあざ笑うかのようにシャマルがレイジングハートから光弾を放った。

「!」
「危ない!!」

 なのはをクロノが横から突き飛ばす。それによってなのはは光弾から逃れたが、代わりにクロノが光弾の餌食になった。

「ぐあっ!!」
「クロノ君!?」

 倒れ伏すクロノ。駆け寄ったなのはがクロノを抱き起こす。

「大丈夫!?クロノ君!!」
「だ、大丈夫だ………ぐっ!」
「ご、ごめんなさい。私のせいで………」
「いいんだ。それよりもすまない」
「え?」
「君の事を見て上げられなかった。だから、こんな無茶をさせてしまった」
「ち、違うよ!クロノ君は悪くないよ!」
「しかし、君の事を見ていなかったのは事実だ。だから、すまない」
「………」
「けど、今度からはそんな事はしない。だから、僕を信じて一緒に戦ってくれ」
「………うん!」

 なのはは力強く頷くと立ち上がってシャマルに向き直る。

「人の目の前でイチャつくなんて………。許しません!」

 シャマルが光弾を放つ。それをなのははグラーフアイゼン(代用品)で叩き潰した。

「え、ええええええええええっ!?」
「力には技、技には魔法、そして魔法には力なの」
「あ、あなたのは意味を取り違えていますー!!」

 後ずさりながらも光弾を放ち続けるシャマル。その全てをなのはは叩き潰しながら歩み寄っていく。
 そうしてシャマルの目の前に来ると、レイジングハートを掴み、シャマルの手から奪い取る。

「返してもらったの」

 そう言ってレイジングハートを持ち直してシャマルの眼前に突きつけ、砲撃を放つ。直撃を受けたシャマルは壁際まで吹き飛ばされて粉塵の中に消えた。

「やったよ!クロノ…………」
「クロノ!大丈夫!?」
「どこが痛いん!?私がさすってあげるで!!」
「う、うーん…………あ、なのは。勝ったのか」
「…………」
「なの、いっ、痛っ!?なのは、何故つねるんだ!?」

 その時、突如広間に光が走る。そちらを振り向けばそこはなのはがシャマルを吹き飛ばした場所。

「ふふふ、これで終わりと思いましたか?」

 そこには正体を現したメデューサシャマルがいた。

「これが私の正体です!!」
「…………………」
「…………………」
「…………………」
「…………………」
「そ、そんな同情の眼差しで見ないで下さいー!!私だってやりたくてやってるわけじゃないんですからー!!」

 泣き叫ぶメデューサシャマル。

「あー………、皆。可哀相だからさっさと退場させてあげてくれ」
「「「はいっ!」」」

 そうして結束を深めた三人はメデューサシャマルを倒してあげた。







「こ、これは!?」

 メデューサシャマルを倒した四人はとうとう王座の間へと踏み込んだ。そこで彼らは見たものは。

「た、助けてなのですー!!」

 王座がリィンU姫を飲み込み、モンスター闇の書の闇ダンテ(以下、闇ダンテ)に変貌するところだった。

「皆、リィンU姫を助けるんだ!」

 クロノが先陣を切る。なのは達も遅れずにクロノについていく。
 戦いは熾烈を極めた。闇ダンテは物理と魔力の四重複合結界を有し、本編より少ない人数でそれを破らねばならず、クロノ達は魔力の限りを尽くさなければならなかった。
 だが、その戦いもついに終わりを迎える。

「今だ!三人とも!!」

 クロノのエターナルコフィンが闇ダンテを封じ込める。

「スターライト………」
「プラズマザンバー………」
「ラグナロク………」
「「「ブレイカー!!!」」」

 三人の誇る最大威力の攻撃が同時に闇ダンテに放たれる。その威力に王座の間は吹き飛び、その光は天を貫いた。

「…………」

 光が収まる。先の攻撃の爆心地に目を向けると。

「きゅー………なのです」

 目を回したリィンU姫が倒れていた。

「「「やったぁっ!!」」」

 ミッドチルダ王国の勝利であった。






「皆、ご苦労様」

 凱旋したクロノ達をリンディ女王が出迎える。

「いえ、クロノ君のおかげです」
「うん、そうだね」
「クロノ君がおらんかったら勝てなかったわ」
「そんな事は無いさ。君達のおかげだよ」

 その四人を微笑ましげに見たリンディ女王はふと思い出したように言った。

「それで実は皆に隠していた事があるの」
「なんです?リンディさん」
「実はクロノは旅に出ていた私の息子なの」
「「「えー!?」」」
「それでこの戦いの第一功者には王家に迎え入れる準備がされているの」
「ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?か、母さん、そんな話は聞かされていません!!」
「うん、だって言ってないもの」
「にこやかに言わないで下さい!!」
「それで誰にする?」
「誰に、って………」

 はっとなって振り返る。そこにはとんでもない殺気を立たせる三人の隊長の姿があった。

「…………」

 ダラダラと汗を流していると、くいくいと服の袖を引っ張られる。下を見ると自分達が助けたベルカ王国のリィンU姫がいた。

「ちなみに誰も選ばなかったら政略結婚でリィンと結婚なのです」
「なんだそりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 こうしてミッドチルダ王国は、王妃の座を争う闘争に向かっていくのだったがそれはまた別の話である。







 だが、彼らはまだ知らない。この戦いを裏で操っていた人物の存在に。

「あー、失敗しちゃったかー。でも次はこうはいかないからねー」

 そう言ってジーク桃子さんは不適に笑った。










「って話を考えたんだけどどう!?」
「どう、と言われても困る」
「何よー。時空管理局のメディア展開の一案としてこのエイミィさんが考え上げた作品だって言うのにー」
「ところで後ろにある台本は光の騎士とか風林火山編とかコマンド戦記とか言うんじゃないんだろうな」
「あ、よくわかったね!さすが付き合いが長いだけあるね!それじゃクロノ君、裁可の程を!」

 問われてクロノはとってもさわやかな顔でこう言った。

「没だ」
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