リリカルなのは SS
Song to you forever
第五話 暗闇の決意
今、自分の前には二つのものが対峙している。
一つは自分がよく知る魔導師の少女。もう一つは眠りから覚めた巨大なロストロギア。
その少女、なのはは自分にロストロギアの主砲を止めるようにと言った。それは正しいことだ。あのロストロギアを攻撃力は常軌を逸している。その主砲ともなれば放たれるだけでどれだけの被害をもたらすか、考えるだけでも恐ろしい。何としても止めなくてはならなかった。
『───────』
だと言うのに、その主砲に向かい合う少女から目が離せなかった。
あの主砲が放たれればなのはは間違いなく死ぬ。それを阻止するなら、一秒でも早く主砲に向かい、その発射を止めなくてはならない。それが全ての災厄を防ぐことにも繋がる。
『───────』
けれど、彼女の死を想像した途端、身体は凍てついたように動きを取る事が出来なかった。
その間にも時は過ぎる。その間になのはの魔法が完成する。煌く星のような閃光が解き放たれ、瞬く間にロストロギアを貫かんと加速し、着弾しようと言うその時だった。
ロストロギアの主砲が放たれる。発射の衝撃のみで辺り一面を吹き飛ばした太陽のような奔流が星明りをかき消すようになのはの魔法を飲み込んでいく。
なのはは必死に抵抗するが、まるで意味を成さない。そうして、奔流が星を食いつくし、なのはをも飲み込もうとしたところで。
『なのはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』
凍てついた身体が解き放たれた。魔力放出で力を失ったなのはの手を掴んでその奔流から逃れる。
掴んだ手から伝わる体温から存在を感じ取り、安堵が胸に広がる。
『お兄ちゃん』
そこで、有り得ない幻聴が響いた。
『───────』
下に振り向く。さきほどまでなのはがいたその場所にこの任務で出会った少年がいた。少年だけではない。その家族も、その仲間も、多くの人がクロノを見上げていた。
少年は笑って自分を見上げている。希望に満ち、尊敬の念を持って自分を見つめている。その眼差し、その笑みのまま、少年は言葉を紡ぐ。
『あのね、僕も大きくなったら───────』
その全てを言い終える前に、奔流が少年を飲み込んでいった。
「ぁっ!!」
弾かれたように上体を起こす。息は既に荒い。目覚める前から呼吸は正常なものではなくなっていた。その原因となった夢を拭い去とうとするようにクロノは額を手で押さえるが、ほとんど意味を成さない。こみ上げる吐き気を唾を飲んでなんとか堪えた。
あの日、以来ずっと見続けている夢だ。眠るたび、幾度と無くあの時の光景が蘇る。そのため、クロノは眠れない夜を過ごし続けていた。
「─────ぁっ……」
その悪夢は幻痛すら伴ってクロノを蝕む。頭を押さえている手とは逆の手で胸元を押さえる。ドクンドクンとなる心臓は余りに早い。押さえなければ破裂して血を吐き出すのではないかと思うほどだ。
それほどの責め苦。けれど逃げる事など出来はしない。何故なら、それは自らの選択によってもたらされた、罪の意識だからだ。
「────ぁ……ぁっ」
痛い。
つらい。
叫びたい。
泣き出したい。
それらの衝動をクロノは必死に押さえ込む。衝動を解き放つことで少しでも楽になることを彼は許さなかった。それは自らに課す罰。背負い込むことが、せめてもの償いにするように、その全てを飲み込んだ。
そう、全ては自分の咎。自らが選んだ選択ゆえの苦しみ。故に当然の回帰。それを吐き出すような真似だけは出来なかった。
しかし、敢えて自らに問う。何故自分はこれほどに苦しい選択を選んだのだろうかと。
「────────は」
僅かに自嘲めいた呻き。既に知っている答えを敢えて問うた自分に対する嘲笑だ。
それはいつだったか見た、黒の夢。
『お前は悲しみをなくすために戦ってきたのではない』
人の命を数で計るのは、人の身には過ぎたる事。けれど、敢えてそれをするならば、多くの人が死ぬより一人が死ぬ方がずっと悲しみが少ないだろう。
それでも、それを選ばなかったということは。
『お前は自分が悲しみたくなくて他人を救ってきただけだ』
たくさんの他人を救えないことよりも、高町なのはという少女が救えないことの方が悲しいと思ってしまったからだ。
「────────っ」
多くの悲しみをなくしたいと願ってた。けれど、それが偽りであると突きつけられた。明確な意思もなく、多くを救う選択を選ばず、ただわが身の可愛さに一人の少女を選んでしまった。
その少女を選んだ手の手首をもう片方の手で強く握る。
この手が多くを救う選択をしたら、多くを救えただろうか。その保証はどこにもない。いや、あのロストロギアの強大さに救いを求める手を取りこぼしてしまう可能性のほうが高かったとも思える。
けれど、それでも救えたかもしれないものに手を伸ばさなかった言い訳になどにはならない。
だから、後悔し続ける。救えたのかもしれなかったと。
だから、悔やみ続ける。多くを救えなかった事を。救おうともしなかった事を。
だから、苦しみ続ける。
だって、知っているから。たった一人の人が死んだだけでたくさんの人が悲しむ事を自分は知っているのだから。
だから、自分は自分を責め続ける。自分が選択したことで沢山の人が死んでしまった事でそれよりもずっと多くの沢山の人が悲しみを負う事になってしまったのだから。
「────────…………」
だけれども。
そんな苦しみの中でさえ。
『私は、クロノ君やフェイトちゃんやユーノ君。他の皆と同じ場所にいるよ』
夜空の下。
この道を選んだ彼女のことを心配する自分の手を繋いでくれた事。
『クロノ君、いっつも忙しそうだもんね〜。もうちょっとゆっくりしてもいいと思うよ』
思い出に似た草原。
その場所で、穏やかに風を受けて過ごした事。
『クロノ君の、大切な場所でしょ?』
幼き日の草原。
その場所を守るために、共に頑張り、これからも一緒に頑張ろうと約束した事。
『よろしくね、クロノ君』
休日の喫茶店。
彼女の手助けになればと慣れない仕事を一緒にした事。
『駄目だよー。クロノ君、お客さんなんだからしっかりお相手しないと』
初めて入った彼女の部屋。
彼女の匂いのするその場所でとても緊張したこと。
『クロノ君の馬鹿ぁっ!!』
雨の降る町。
一人で背負い込み、約束を違えて悲しませたこと。
『また一緒に行こうね』
約束の休日。
破った約束を取り戻すため、約束をして出かけた事。
『うん、約束だよ』
桜を待つ草原。
そこでまた、約束を交わした事。
そんな他愛も無い一つ一つが。
どうしようもないほど、自分の中で大切なものになっていた。
「──────なの、は」
その中の彼女の笑顔はとても眩しかった。可愛らしかった。ずっと見ていられるのならば見ていたいと思った。
「…………」
だけど、今の自分の中の彼女は悲しみに染められてしまっている。
「─────────────」
痛い。それがどうしようもないほどに痛い。
そんな事は許されない。沢山の命を見捨てて、彼女を救うことを選んだというのに。自分の罪のために、彼女が悲しむなんて許されてはならない。
許されない。だから痛い。
その痛みを、拭い去りたかった。
「………そのためなら」
─────この身の何を犠牲にしても。
暗闇の中、クロノは暗い決心を抱いた。
「三番艦、四番艦、そして今度は七番艦、がか」
「ええ、リヴァイアサンを発見後、交戦。いずれも少なくない被害を受けたにも関わらず、逃げられました」
リンディは部下から受けた報告を現アースラ艦長であるロウ提督に報告する。両者はその情報に深刻なものを顔に浮かべた。
「時空管理局が誇るL級艦が立て続けに三艦も落とされるとは。交戦内容は如何様なもので?」
「三番艦、四番艦、七番艦。いずれもアルカンシェル換装後、リヴァイアサン捜索任務に当たり、対象と交戦。敵の攻撃を受けながら、アルカンシェル発射まで耐えていたのですが、発射直前でリヴァイアサンは転移魔法で離脱しています」
「発射直前で?」
「ええ、ユーノ司書によればリヴァイアサンは周囲の魔力を感知して行動するとのこと。おそらく、アルカンシェルという自分を破壊させる事が出来る魔力を感知して撤退したと思われます」
「敵を倒すための武器が、なんとか命だけは守ったと。なんとも皮肉なものですな」
「全くです」
「………して、如何しますかな」
口元を組んだ手で隠すようにしながら、ロウはリンディを見る。その視線を受けてリンディは僅かに苦しそうな表情をした。
「この結果を見ると、アルカンシェルによる破壊は望めないと見た方がいいでしょう。加えて、リヴァイアサンは自己修復機能も備えています。攻撃による外からの破壊は難しいかと」
「外は駄目。となると、内からしかないですな」
「……ええ」
それを口にした途端、胸のうちが重くなった。あれだけの火力を持つロストロギアの砲撃を潜り抜けてその内部に入り込むなど並大抵のことではない。きっと少なくない犠牲が出るだろう。その重圧がリンディを覆った。
けれど、私達はそれを選び、皆にさせなければならない。より多くを救うために。
「失礼します」
そこで艦長室に入ってくる者の姿があった。リンディとロウが振り返るとそこにはクロノの姿があった。
「どうしたかな、クロノ執務官」
「リヴァイアサンとの交戦時における戦略案件を持ってきました」
「おお、丁度いい。今その事を話していたところだ。君の意見も聞いておきたいな」
クロノは自分が考えた戦略を二人に伝える。それはリンディとロウが達した結論をより具体的にしたものだった。
「ふむ………なるほど。これなら………」
「最も現実的な方法だと思います。これ以上の手段は犠牲を考えないものにしかないでしょう」
「………よろしい。細かいところはこれから詰めなくてはならないが、君の案をアースラの対リヴァイアサンの基本戦略としよう」
それから二日後、アースラのアルカンシェル換装完了と共にその案はアースラ配属に配属された局員達に伝えられることとなる。
ブリーフィングルームに集められたなのは、フェイト、ユーノ、アルフ、はやて、ヴォルケンリッター。それとアースラに配備された武装局員数十名。その前でクロノはリンディとロウの二提督と話し合った作戦を説明していた。
「……以上の事から、アルカンシェルによる殲滅は出来ないものと言える。現にリヴァイアサンと交戦した三艦隊は被害を受けるだけ受けて、発射前に逃げられている」
その言葉になのはは身を固めた。先ほどから俯いたままだ。それに気付いてはいるが、クロノは構わず説明を続ける。
「そういう訳で外からの破壊は難しい。なのでまず、内側から相手を切り崩す」
「内側?」
アルフの疑問の声に答えるようにスクリーンに画像が映しだされる。何かの断面図のようだ。それが何かを理解すると皆が僅かにざわめいた。
「リヴァイアサンの内部構造図だ。無限書庫にあった資料に残っていてね。古代から破壊されずに残っていたのならば、構造に変化は無いだろう。これで僕らはリヴァイアサンの内部がわかるわけだが、その僕らが狙うのは」
クロノはリヴァイアサンの下部の一点を指す。リヴァイアサンの下部は動力計を扱っており、フロアが細かく区分けされているがその中でもその一点は広めの空間を取っていた。
「ここ。リヴァイアサンが古代文明崩壊から逃れ、艦隊からも逃れる要因となっている転移装置だ」
あ、と皆が呟く間にクロノは矢継ぎ早に作戦の概要を話し始める。
「作戦はこうだ。リヴァイアサン発見後、戦闘要員は皆アースラから出撃。各員、所定の位置についたら待機し敵の攻撃が始まるのを待つ」
「攻撃を………ってすぐに攻めないの?」
「敵の攻撃力は高い。特にあの主砲に巻き込まれたら確実にやられる。だから、まずあれを撃たせる」
さらりと言ったクロノの言葉に皆が凍りつく。何故そんな真似をするのか、その疑問を溶かすようにクロノの説明を続ける。
「あの主砲は強大だが、それだけに一度発射すると次の発射まで時間がかかる。そして、一発ならディストーションシールドで防ぐ事が可能だ。現に主砲の直撃を受けた七番艦はこれで撃沈を免れた」
その事に皆は僅かに安堵する。それを見てから、作戦の説明は続く。
「けれど、二発目は耐えられないだろう。だから、敵の主砲が発射されたと同時に、戦闘要員はリヴァイアサンに向かって突撃。二発目が発射されるまでに敵の主砲を叩く。これによってアースラの安全を確保したあと、内部に突入。突入後は、先ほど言った転移装置に向かい、これを破壊しリヴァイアサンの転移機能を封じ込む。そして、局員が内部から脱出した後、アルカンシェルによって殲滅する。これが今回の作戦だ」
そこまで言ってクロノは皆を見渡し、何か質問はと尋ねる。すると、シグナムがすっ、と手を上げた。
「クロノ執務官。転移装置の上部にあるのは動力炉だと思われるが、そこを直接叩けないのか?」
「それは僕も考えた。だが、リヴァイアサンの推定魔力はクラナガンの都市機能を賄えるほどだ。そんな魔力に火をつけてみろ。どうなると思う」
「………吹き飛びますね。その役目を担ったものは」
「そういうことだ。何事も犠牲はつきものだが、確実な犠牲を誰かに押し付けるような真似は出来ない」
その後、二三の質問を交えて、部隊構成の話に移った。
「この作戦は、まず敵の主砲を確実に破壊しなくてはならない。破壊した後はそのまま内部に突入してもらうからそちらに多く戦力を割く。前衛部隊にはフェイト、アルフ、はやて、ヴォルケンリッターがついてくれ。武装隊の六割はそちらに回す。残りの武装隊となのは、ユーノは僕と後方で援護に回ってくれ」
名指しされたなのはは俯いたまま、ユーノはクロノに視線を向けたまま身を固くする。ユーノの視線を受けてもクロノの表情は変わらない。執務官としての彼がそこにいた。
「作戦説明は以上だ。アースラはこれから出航。リヴァイアサン捜索任務に当たる」
その言葉で皆が解散する。それを見送るクロノの目に一人の少女が映る。立ち上がらず座ったままの少女はこの作戦説明の間、ずっと俯いたままだった。その傍らには心配そうなユーノもいる。
「…………」
その二人にクロノが歩み寄る。そのクロノに二人は僅かに身構える。その様子に内心で自嘲めいた笑みを浮かべた。
「ユーノ」
二人の目の前に来たところでクロノはユーノに顔を向ける。
「少し、なのはと話をさせてくれないか」
「え………」
「頼む」
ユーノはなのはに視線を向ける。それから、顔を寄せてなのはに一言二言尋ねると、何度もこちらを振り返りながら部屋から立ち去った。
「………」
「………」
二人きりになったしばらく無言だった。なのはが声をかけられないのはなんと話しかければいいのかわからないから。どんな事情であれ、自分のためにクロノは傷ついた。それに自分を助けたために多くの人が傷ついた。作戦の説明の時でも三隻もの艦船が酷い被害を受けたと言っていた。クロノはそれらの責任を自分の代わりに背負おうとしていたのだ。
それも、全部自分を助けようとしたために。そんな自分が彼に何を話しかければいいというのだろうか。
「なのは」
声をかけられ、身を竦ませる。一体、彼は何を言うつもりなのだろうか。罵倒だろうか、慰めだろうか。いずれにしろ、どんな言葉もなのはには恐ろしく感じられた。
けれど、クロノがなのはにした事は思いもしなかった事だった。
「これを」
何かが差し出される。
「…………え?」
俯いた顔を僅かにあげたなのはの目に黒いカードが映る。
「S、2U………?」
それはクロノの半身たるデバイス。それが何故か自分に差し出されていた。
「受け取ってくれないか?」
「ど……どうして………?これから、戦いが始まるのに」
「今度の戦いじゃおそらくS2Uは使わない。だから、君に預かっていてもらいたい」
「なん、で?」
「…………お守りがわりかな」
クロノが膝を折って、なのはの視線を合わせる。そこには揺ぎ無い瞳があった。
「なのは。たくさん言いたい事があると思う。とてもつらいのだと思う。けれど、今だけはそれを忘れてくれないか。あのロストロギアを倒すまで」
「け、けど………」
「一緒に頑張ろう。その約束を守るために」
「─────!」
「だから、そのためのお守り」
もう一度、なのはの前にS2Uを差し出す。
「受け取ってくれないか?」
「…………」
なのはが静かにS2Uを受け取る。
「───────」
受け取った途端、それを胸に抱いた。クロノが自分との繋がりを捨てないでくれている。それを感じ取り、なのはの胸のうちは熱くなった。そうして、その胸のうちで理解する。
自分のせいで多くの人が傷ついた。自分のせいでクロノが傷ついた。そのどれもがつらく、その重圧は身体に重く圧し掛かる。けれどそれよりも自分が何よりも恐れていた事があった。
それはクロノとの繋がりが消えてしまう事だったのだと。
「………頑張ろう、なのは」
「………うん」
僅かな微笑みをクロノに向ける。それを見てクロノは頷いてくれた。とても、暖かい気持ちが胸を包んだ。なのはは自分の内をその気持ちに身を委ねる。
だから、気付けなかった。自分の事に目を向けたなのはにはクロノの瞳が何を思い、何を決意していたかを。
リヴァイアサン捜索開始から三日。アースラは様々な次元世界を捜索したが、今だリヴァイアサンを発見することは出来なかった。それでも艦内は、いつ遭遇してもいいよう、皆それぞれ待機していた。
「見つからないね」
「転移先の法則性が見えないからな。他の艦隊も捜索した次元世界でたまたま遭遇しただけだ。気長に待つしかない」
待機場所の一つでクロノとユーノが話をしている。今は休憩中であり、互いに飲み物を片手に壁に寄り掛かり、緊張した様子の他の武装隊を眺めていた。その中にはなのはの姿もある。
「………なのは、元気になったみたいだね。まだ少し無理してるみたいだけど」
「駄目だと思ったらフォローするさ。君も見てやってくれ」
「………あの時、何を話したの?あれから調子取り戻したみたいだけど」
「大した事じゃない。一緒に頑張って欲しいといっただけだ。それより」
クロノは背を壁から離すとユーノに頭を下げた。突然のことにユーノは目をパチパチとさせた。
「すまなかった、ユーノ」
「な、なんだよいきなり。何を謝ってるんだよ」
「訓練室でのことだ。僕のことで君にまで迷惑をかけた」
クロノが何を謝っているかに気付き、ユーノは気まずそうな顔をする。その表情のまま、ユーノは首を横に振った。
「……僕の方こそ。君の事情を考えずに殴りかかったし………」
「それでも、だ。君は間違っちゃいない」
クロノが頭を上げる。そうして決意を込めた目でユーノを見た。
「今回の事件、何が何でもケリをつける。力を貸してくれ」
「そりゃもちろん力は貸すけど………なんだか、君らしくないね」
そう指摘され、クロノは視線を逸らす。その態度に不審なものを感じ、ユーノがさらに追求しようとしたその時だった。
「「───────!!」」
艦内に警告音が響いた。ついで、艦内に放送が流れる。
『各員に通達!!レーダーにリヴァイアサンを捕捉!!あと十五分で戦闘領域に入るよ!!』
艦内に緊張が走る。それを裂く様にクロノが待機室にいる局員に向かって命令を下す。
「各員、自分の部隊へ!!自分の部隊が揃ったら出撃しろ!!戦闘領域に入る前に皆アースラから出ろ!!」
その号令に皆が駆け足で待機室から出る。それに続こうとするユーノの背にクロノが声をかける。
「ユーノ」
「何?」
「なのはを頼む」
「え?」
何の事かと尋ねる前にクロノがユーノを追い越す。何か釈然としないものを感じながらもユーノはその後に続いた。
それから十分後、全武装隊はアースラから出撃。散開しながらリヴァイアサンへと接近した。
アースラから出撃したクロノは周りを見て眉をしかめた。
(よりにもよってこの場所か………)
そこは首都クラナガンから程近い自然区域。それだけでも眉をしかめるには十分だったが、クロノがそうしたのはそれだけではなかった。
そこはクロノが幼少、家族と共に過ごした草原。
なのはとともに守ったその草原が眼下に広がっていた。
『シグナム。敵の様子はどうだ?』
『まだ動きはありません。やはり、全力まで引き上げていない個人レベルの魔力では反応しないようです』
内心を押し隠しつつ、前方に配置したシグナムに念話を繋ぐ。彼女や他のヴォルケンリッター、フェイトらはトライデント破壊の鍵だ。彼女達との連絡連携は密に行わなくてはならない。
『ロウ艦長』
『うむ、これより作戦を開始する。アースラの魔力炉を限界まで引き上げろ!!』
アースラを稼動させている高出力の魔力炉に火が入る。その重圧によってあたりの空間が振動を始めた。その魔力を感知し、破壊のロストロギアは動きを見せる。
『リヴァイアサン、こちらに接近!!同時に魔力の上昇も確認されました!!』
『全部隊、突撃!!主砲の射線上に入らないようにしろ!!』
号令と同時にリヴァイアサンに向かって飛び立つ武装隊。各々がデバイスに命令を下し、攻撃の態勢に入る。
その時だった。
『あっ!?』
部隊の最前線が、攻撃距離に差し掛かろうとした所でエイミィが驚きの声を上げた。
『どうした、エイミィ!?』
『─────リヴァイアサンから魔力を感知!!パターンから傀儡兵と思われます!!その数───────!?』
『数!?相手の数はいくつだ!?』
『─────百、二百、三百、ううん、もう四百を超えてる!!』
『─────!!』
その報告に驚愕するとほぼ同時に、クロノの視界に空を埋め尽くさんばかりの傀儡兵の群れがリヴァイアサンから展開される光景が映し出された。