リリカルなのは SS
Song to you forever After
なのは改造計画

 それはクロノとなのはが休日をあわせて出かけた日の事。
 二人が町に出かける時は、大半はクラナガンを主としたなのはの世界とは違う次元世界の町が多い。これは地元である海鳴市とその近辺に出かけると、不審な集団(身内)が付いてくる事と、なのはの世界においてクロノとなのはは恋人としては年齢が若干不釣合いであり、事情を知らない人間に見られるとなのはに迷惑がかかることを考慮しての事である。
 そんな訳で、クラナガンにやってきた二人は、あちこち店を冷やかした後、小腹が空いてきたので移動式のクレープ屋に立ち寄る事にした。

「いらっしゃいませー!何をご注文でしょうか?」
「なのは。何にする?」
「んー……。この間はイチゴを食べたから今日はチョコバナナにしようかな」
「それじゃ、彼女にはそれを。僕はサラダで」
「……クロノ君。またそういうの?」
「美味しいんだがなぁ」

 クレープ=甘いもの、という少女味覚のなのはがクロノのセレクションに若干の難色を示しつつ、クレープが出来上がるまでにこれからの予定について話し合っていると、クレープを作る手を止めないままに店員が尋ねてくる。

「仲良しですねー、お二人さん。ご兄妹ですかー?」
「……え?」
「いや、恋人同士だが」
「あいやー!それは失礼!お詫びに彼女にはバナナ増量、彼氏にはレタスを一枚増やしておきますねー」

 僕の方はサービスになっているのか、と内心疑問に思いつつクロノがクレープを受け取り、チョコバナナクレープをなのはの前に差し出す。

「……なのは?」
「……あ、うん。ありがとっ」

 クレープを受け取らずにぼーっとした様子のなのはに声をかけると、はっとなってようやくクレープを手に取る。

「それじゃ、行こうか」
「うんっ」

 そうして、二人は何事もなかったようにクレープ片手にクラナガンの店をあちこち冷やかすのだった。










「って事があったんだ………」
「そ、そうなんだ……」

 クロノとのデートから数日後。いつもの仲良し五人組がアリサの家に集まって、お泊り会を開いた席でなのははその時の事を話した。話している間、周りを暗くして大きな縦線を五、六本背負ってズーンとなっているなのはにフェイトは私、義兄妹だけどそんな事言われた事一度も無いなぁと胸中複雑になりながら返答に窮していた。

「私とクロノ君って不釣合いなのかな……?」
「そ、そんなことないよ」
「歳の差とか背の差がありすぎるからかな……?」
「そ、そんなことないよ」
「それとも私、妹キャラだからかな……?」
「それはないと思うよ」

 なのはのぼやきにいちいち返答するフェイトにはやてとすずかはどうしたものかと顔を見合わせていると、その横ですっと立ち上がる一人の人物。

「事情はわかったわ」

 その人物、アリサ=バニングスは拳を握り、決意の炎を瞳に宿し宣言する。

「その悩み、私が解決してみせるわ!!」

 その姿にはやては苦笑を、すずかは笑顔を浮かべてどうなることやらと思うのだった。










「さて、なのは。あんたはなんで兄妹と見間違えられたと思う?」

 腕を組んで仁王立ちのアリサ。何故か正座をさせられているなのは。そのなのはを囲うようにフェイト、はやて、すずかが座ってアリサの話を聞く。

「えっと、妹キャ」
「それはない」

 言い切る前にセリフを遮られ、割と精神的ダメージを負うなのは。

「いい、なのは?あんたがクロノさんと兄妹に見間違えられたって言うのはね」

 そのなのはに構う事無く、アリサはズビシッ!と事の核心と共に指を突きつける。

「ズバリ!!あんたが子供っぽいからよ!!」
「ううっ!?!?」

 アリサの言葉にリンカーコアをぶち抜かれ、仰け反って呻くなのは。周りを囲む三人の耳にもグサリと言う効果音が聞こえた。

「そのあんたが、実年齢より大人っぽく見えるクロノさんと並んでたら、そりゃあ親戚の買い物に付き合う従兄弟のお兄さんとかに見えても仕方ないってものよ」
「い、従兄弟なの!?それなら実の兄妹、もしくは義兄妹よりも離れ気味だよね!?」
「そこに活路を見出そうとするな」

 僅かな希望に縋るなのはを一蹴するアリサ。その言葉にもう既に半泣き入っているなのはに苦笑してアリサは言葉を続ける。

「だからね、あんたがする事はクロノさんと釣り合う様に自分を磨く事よ」
「自分を………?」
「そ。甘えてばっかりじゃなくて、ね。それが女の甲斐性ってものでしょ?」
「そしたら、クロノ君喜ぶかな?」
「論点はそこじゃなくて。……まぁ、自分のために頑張ってくれてるんだから喜ぶんじゃない?」
「…………うん」

 胸の前で両の拳をグッと握って自分を磨く決意を固めるなのは。が、すぐに顔を上げてアリサを見る。

「それで、具体的には何をすればいいのかな…?」
「そこは任せなさい。……鮫島っ!」

 アリサが指を鳴らすとスライドするように執事の鮫島さんが姿を現す。と同時のその後を追うようにずらりと様々な衣装が立ち並ぶ。それから一礼すると現れた時のようにスライドするように去っていく鮫島さん。それをぽかんと見送るなのは。

「はい、それじゃ次。すずかっ!」
「はい」

 アリサがもう一度指を鳴らすと、申し合わせたようにすずかがなのはの背後に回って、なのはを羽交い絞めにする。

「って、え!?あ、あのアリサちゃん?な、なにを?」

 そこでようやく気を取り戻して、オロオロ………しようとしてすずかに動きを封じられ首だけを左右に振るなのは。そのなのはを尻目にアリサは鮫島さんが置いていった衣装を手にとって選別していた。

「とりあえず、形からって事で。まずは着る物から選ぶわ」
「えーと、それと私が羽交い絞めにされているのは何の関係がー……?」
「ふ………」

 目に付いた衣装を一つ手にとってなのはににじり寄るアリサ。

「言ったでしょ?私に任せなさいって」
「にゃ、にゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 スポーン、となのはの着ていた服が宙を舞った。









 そんなわけで第一衣装。ロングスカート+ブラウス。

「うう、一人で着替えられるのに……」
「細かい事はいいの。それで解説のはやて。どうかしら?」
「うーん。大人っぽくなったと言うよりは背伸びしてお姉ちゃんの服借りてきたって感じやねー」
「そうね。次っ」

 第二衣装。スーツドレス。

「どう?はやて。落ち着いた雰囲気を出してみたけど」
「親戚の結婚式にきた子供っぽいな」
「そうね。次っ」

 第三衣装。Tシャツ+ジーンズ。

「どう?はやて。飾らない色気をだそうとしたけど」
「なのはちゃんじゃ元々の色気が足りんからなぁ……」
「そうね。次っ」

 第四衣装。ピンクのフリフリドレス。

「どう?はやて。可愛らしさを強調してみたけど」
「なんか、余計に子供っぽくなったような気がするんやけど。お金持ちの五歳児が着てるような」
「あー、そうね。わかるわかる」
「じゃあ、アリサ着た事あるの?」
「…………」
「…………」
「次っ!」
((((着た事あるんだ………))))

 第五衣装。ゴスロリ。

「どう?はやて。マニア心を狙ってみたわ」
「これ、隣で歩くクロノ君がきつい気がするなぁ……」
「そうね。次っ」

 第六衣装。ナース服。

「どう?はやて。癒し系路線でいってみたけど」
「リリカルナース懐かしいなぁ」
「そうね。次っ」

 第七衣装。メイド服。

「どう?はやて。御奉仕路線でいってみたけど」
「なのはちゃんは喫茶店の娘やし、ウェイトレスの方が似合うんじゃ?」
「そうね。次っ」

 第八衣装。ウェイトレス。

「どう?はやて。進言にしたがってみたけど」
「桃子さんの方が喜びそうやね………」
「そうね。次っ」

 第九衣装。バニー服。

「どう?はやて。色気が足りてないのを分かってて敢えてやってみたけど」
「ちょっとポロリが期待できて男心をくすぐるかもなぁ」
「そうね。次っ」
「あの、アリサ」

 次の衣装(巫女服)を手に取ったアリサにストップをかけるフェイト。

「なに、フェイト?衣装はまだまだあるんだから」
「あの、なのはがもう無抵抗なくらいにぐったりしてるし、もうただのコスプレになってきているんだけど」
「あ」

 言われて、打ち捨てられた人形のように横たわっているなのはを見下ろし、無言のまま衣装を戻すアリサ。

「あはは、悪ノリして途中からクロノ君が喜びそうな衣装選びになってたなぁ」
「え、そうなの!?」

 本人がいたら拳骨の一つも飛び出しそうな事を言うが、残念ながらそれを否定してくれる人材はここにはいなかった。

「………そうなんだ」

 そして、考える気力もなくはやての言葉を鵜呑みにして、精も根も尽き果てているのにノロノロとアリサの仕舞った巫女服に手を伸ばそうとするなのは。ああ、愛とはかくも偉大なものである。

「あーはいはい。頑張ろうとしてるところ悪いけど、主題が逸れてきてるからこれはまた後でね」

 なのはの手をぺしんと叩いて引っ込めさせるアリサ。それから顎に手を当てて考え込む。

「うーん。方向としては間違って無いと思うんだけど、だとすると………」

 ポクポクポク、チーン。
 そんなSEを鳴らして何を思いついたかぽんと手を叩く。それから、並んでいた衣装を引っ込めるとその奥にあった衣類を引っ張り出す。

「すずかっ」
「はい」

 またもパチンとアリサが指を鳴らすとまたもなのはを羽交い絞めにするすずか。

「ええっ、また!?」

 何かされる危機感と言うトラウマ的な反射で正気を取り戻すなのは。が、取り戻した時には既に動きを封じられているのであんまり意味はなかった。

「ファンデーションはファッションの基本。まずは外ではなく内から固めるべきだったのよ」
「そ、それと私を羽交い絞めにするのに何の関係がっ!?」
「言った筈よ。拒否権は無いと」
「言ってない!それは言ってないよ!?」
「あ、その前にいまどんなのつけてるのか確認しないと」
「いーやあぁぁぁぁぁぁぁ………」

 なお、当サイトは健全サイトなので、アリサがどのようにしてなのはの下着を確認したかは割愛かつ読者様方のご想像にお任せします。

「ほーら。やっぱりお子様な下着だったじゃない。だから兄妹に間違えられるくらい子供っぽいのよ」
「うぅぅ…………」

 なお、なのはがどんな下着を着用していたのかは割愛かつ読者様方の(以下略)。

「けど、見ただけじゃサイズがわからないわねぇ………。そんなわけではやて!」
「はい来たっ」

 すちゃっ、と敬礼して立ち上がるはやて。その姿に顔を青ざめさせるなのは。

「さあ、はやて。シグナムさん達の下着を選ぶ際、触って確かめたという貴方の手腕を見せる時が来たわよ」
「うん、任せといてや」
「さ、触ったって何をー!?」

 手をワキワキさせて近づいてくるはやてにジタバタともがくなのは。けれど、すずかががっちりと脇を固めているのでまるで身動きが取れない。今度もっと体力強化をしようと、関係の無い事を考えて現実から逃避しかけたなのはにはやての手が伸びる。

 ぺたん。

「…………」
「…………」
「…………はやて?」
「あ、うん。なに?」
「いや、どうかしたの?」
「な、なんでもない。なんでもないー。…………ごめんな、なのはちゃん」
「ええ、何そのリアクション!?」
「それでどうだったのよ?」
「いやぁ、公式一位の壁は厚かったというか薄かったというかー」
「割と本気でひどいよ、はやてちゃん!?」

 そんな紆余曲折を経て、なのはの下着を選んでいった訳なのだが、その際にぽつりとフェイトが黒の下着を手に取りながら気がついたように呟く。

「でも、下着って服の下にあるんだからこだわって選んでも仕方ないんじゃ………」
「まぁ、そりゃそうね」
「え、ちょっと待って。それじゃ今までの無意味なの!?」
「無意味とは言わないけど根本的な解決にはなってないかな。見せるわけじゃないんでしょ、なのはちゃん」

 すずかの言葉にがっくりとうなだれるなのは。

「なんか、後半割と問題発言だった気もするけど、あんたのせいで台無しじゃないフェイト」
「ええ、わたしのせいっ?」
「うん」

 断言されてしまい、なんか本当に自分のせいでなのはを落ち込ませしまった気になってしまうフェイト。

「ほら、だから何か代案出しなさいよ。さっきから何もして無いんだし」

 アリサに言われて何かいい案がないかと考え込み、やがて思いついたことを口にしてみた。

「えーと、それじゃあ…………」










 数日後。
 この間は町に出かけたから、今日はのんびりしようという事でクロノとなのはは草原で待ち合わせることにした。
 草原で待ち合わせる時、クロノはいつも約束の時間より早い時間にやってくる。普段は堅物で仕事の最中、欠伸の一つも見せずいつ休んでいるのやらと言われているクロノだが、この草原だけは例外で待ち合わせのときは早めに来て横になるのだった。
 草原の風と緑の香りに抱かれながら、意識が沈みきる境界のまどろみを楽しむように薄く目を閉じる。こうしていると、眠っていながらも風や香りといった周りの事を感じられるのだった。
 そうして、近づいてくる気配に気付きながらもクロノは目を閉じたまま、彼女を待つ。

「クロノ君」

 少し、遠慮がちにかけられる声。その声を目覚ましにして、クロノはうっすらと目を開ける。飛び込んでくる光に目を眩ませながら、瞳に最初に映る彼女の影を見る。

(………?)

 そこでふとクロノは違和感を感じる。高く昇った日を背にした彼女の姿はまだ目が眩んでいて見えないけれど、そのシルエットだけは見ることが出来た。
 その姿が、クロノの知る彼女のものと違っていて。

「………なのは?」

 だから、目が光に慣れて、彼女の姿が見えても、思わずそう聞き返していた。

「うん。おはよう」

 座ってクロノの顔を見下ろしていたなのはと目線を合わせるように上体を起こす。それからしげしげとなのはを見てから戸惑ったように尋ねる。

「なのは。その、髪…………」
「うん、髪型変えてみたんだ」

 そう言うなのはの髪は両に結われていた髪を片側に纏めた様な髪型をしていた。ただ、それだけだというのに随分と印象が変わり、見慣れた少女がまるで別人ではないかと思うほどだった。

「似合わない、かな?」

 が、そう聞いてくる声と心配そうな曇った表情はクロノが良く知る少女のそれであり、一瞬なのはを見惑った事に苦笑を浮かべてから、それを笑みに変える。

「似合ってるよ」
「ほんと?」
「ああ」

 そう言うとなのははほっとしたように満面の笑みを浮かべる。

「…………」

 その笑みを見ながら、クロノは揺れる結われた髪を見る。
 結われた髪が風に吹かれて流れるように揺れる。それにしても、髪型一つでこうも印象が変わるとは驚きだった。それだけにその象徴であるかのようなその髪が気になってしょうがない。
 そう思っていると、無意識になのはの髪に手を伸ばしていた。

「ク、クロノ君?どうしたの?」
「ああ、いや。別に………」

 そう言いつつもクロノはなのはの髪を撫でる手を止めない。

「……気になる?」
「……ああ。自分でも何故か分からないくらいに」
「そ、それならどうぞっ」

 何故かピンと背筋を伸ばして姿勢を正すなのは。何故に、と思うクロノだが、許しが出たのでまずはそちらを優先する事にする。

「…………」

 柔らかな髪の感触。日の暖かさを吸った様にほのかに宿る温度。それらを何度も確かめるように指で梳き、髪の先を指で挟み擦るようにしてその柔らかさを感じ取る。
 それをクロノは何度も何度も繰り返す。

「…………」

 飽きる様子の無いクロノだが、一方のなのはは割りと手持ち無沙汰だった。背筋を伸ばしたままのこの体勢もちょっとつらいし、どうしたものかと考える。

「♪」

 すると、なのははくるりとクロノに背を向けて、すとんとクロノの足の間に腰を下ろした。

「っと?」
「こっちの方が触りやすいよね」

 言いながら、クロノの胸に背を預ける。クロノの体温とトクントクンと僅かに早まった心臓の鼓動が心地よかった。

「……そうだな」

 そうして、またなのはの髪を撫でるクロノ。その感触にくすぐったそうにしながら、クロノに寄りかかるなのは。髪を梳きながら、気付かれないようになのはの髪に顔を埋めて、その感触と香りを感じる。
 そんな風にお互いを確かめ合うよう事に耽りながら、二人は草原で過ごすのだった。











 翌日。

「それでどうだった?なのは」
「うん。似合ってるって言ってくれたよー」

 突然変わったなのはの髪型に、クラスメートは驚いたが概ね好評だったので、言いだしっぺのフェイトはほっとしつつなのはの戦果を尋ねると幸せそうな笑みと共に答えが返ってくる。

「やー、でも確かに大人っぽくなったなぁなのはちゃん」

 既に見た後だったが、改めて物珍しそうになのはの髪を撫でるはやて。

「これならもう、兄妹なんて言われないんじゃないかな」

 背中を押して励ますように言うすずか。

「あー、そうそう。それでどうだったの、周りの反応は?」

 すずかの言葉に本題を思い出したアリサがなのはに問う。

「え?」
「だから、周りの視線。兄妹に見られたく無いから、髪形変えてみたんでしょ?」

 その言葉になのははつー……と冷や汗を流しながら、周りに視線をゆっくり回して一周して戻ってきたところで思い出したように言った。

「ふ、二人っきりだったからわかんない…………」
「………」
「………」
「………」
「………」

 なのはの言葉に唖然とする四人。その中でいち早く再起動したアリサがつかつかとなのはに歩み寄り、ぎゅーと両頬をつまんで引っ張った。

「なに、それ?それじゃ意味無いじゃない。周りなんて関係ないんじゃない?二人がいれば世界は回るんじゃない?ええ、どうなの?どうなの?言ってみなさいなー!!」
「いひゃいいひゃい、ほれひゃひゃなふぇふぁいほぉ、ふぉりさひゃんー!(訳 いたいいたい、これじゃ話せないよアリサちゃんー!)」

 仲間が一人春を満喫しつつも、仲良し五人娘は今日も仲が良かったのであった。












 同時刻 アースラ

「クロノくーん。なんだかさっきから手持ち無沙汰そうに手が宙を撫でてるけどどうかしたのー?あ、もしかしてあたしのアホ毛が引っ込む呪いー?」
「気にするな。それとそんなものは存在しない」





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