リリカルなのは SS
Song to you forever After
師匠参観

「人ごみの中〜♪」

 なのはが浮かれた様子で鼻歌を歌いながら歩いていく。目指す先はハラオウン宅。今日はクロノも休日なので一緒に過ごすのが目的だ。
 お土産にと持ってきた翠屋のケーキが入った箱が少し中身が心配になるくらいに揺れる。クロノが甘いものが苦手なのは知っているが、甘さが抑え目の物を選んで買ってきている。その辺りの相手の微妙な好みの匙加減はもう大体理解していた。
 その箱の中身のケーキは5つ。二つは無論、自分とクロノの分だが残りはリンディとフェイトとアルフの分といって持ってきている。が、実際にそれらは一緒に食べるのではなく、本当にお土産として残していく分だ。

「Feeling Heart〜♪」

 そう、なのはが通い慣れたハラオウン宅に行くだけで浮かれまくっているのは、フェイト達はみな仕事で出払っており、ハラオウン宅にはクロノしかいないからだ。
 何かとつけてからかわれる二人だが、そのからかってくる相手はお互いの自宅やら仕事先におり、本来憩いの場所である自分の家は二人でいるとたちまちに騒動の元になる。
 そういう理由で二人っきりになれるのはどこかに出かけたときだけといっていい。それもゆっくり過ごせるといえばあの草原くらいなものだ。
 しかし、今日はクロノの家には彼しかいない。たまには家でゆっくりしようと言うクロノの言葉は大賛成だった。

「ハートは〜、いつも〜、全力全開〜♪」

 微妙なアレンジを加えながら、なのははハラオウン宅に辿りつく。勝手知ったる家ではあるが一応礼儀としてインターフォンを押す。クロノは朝からいると言っていたのですぐに出てくる筈だった。

「…………?」

 しかし、少し待ってみても何の反応も無い。もう一度インターフォンを押してみるが結果は同じだった。

「どうしたんだろ?」

 もしかして連絡も入れられないほど急な用事でも出来たのだろうか?多忙なクロノの事だから十分ありえることだった。

「?」

 そう思っていると中から何かドタバタした音が伝わってきた。どうやら誰かが家の中にいるようだ。なら、何故インターフォンに応じないのか?
 一瞬泥棒かとも思ったがハラオウン宅にはこの世界の住人には理解不能の魔法の罠が仕掛けられていたりする。だとするとその可能性は低いような気がする。しかし、それだと余計に誰か中にいるのかわからなくなった。

「………」

 恐る恐るノブに手をかけると、あっさりとドアが開いた。つまり、鍵はかかっておらず、クロノがそんな無用心な事をする筈が無い。これでクロノが留守という線も消えた。
 だとすると、クロノはこの家にいるにも関わらずインターフォンに応じられない状況になっているという事だろうか?
 ぐっと家の中を駆け出したくなる衝動を抑えて、思考のそれを魔導師のものに切り替えていく。もし、そんな状況になっていたとしたらそれはかなり不測の事態といえるものだった。

『こら!いい加減離せ!!』

 そこにクロノの怒声が響いてきた。これで彼が家の中にいることは証明された。

『ふふふ、生意気な〜』
『あ、ばっ、馬鹿!何をする!?』
『逆らうからだぞ〜』

 さらにクロノ以外のものの声が聞こえてきた。声からするとどうやら女性のようだった。

『いま、インターフォンが鳴っただろう!?なのはが来てるんだから帰れ!』
『つれないなぁ〜。けどいいのかな?』
『な、何がだ』
『ここであたし達が帰ったとして、そんな状態を見られたらどう思われるかな〜』
『う………』

 一体どんな会話なのだろうか?どうやら自分の名前を知っているようだったからクロノは顔見知りの人物と話しているようだが、一向に思いつかない。
 しかも、女性。本来自分と過ごす筈だった休日に女性を連れてきている。

「………」

 女性。休日。自分=恋人。現場。ばったり。そんな思考が一瞬過ぎり、すぐに頭を振って否定する。
 いや、まさか。クロノ君に限ってそんなことはあるはずが無いじゃないか、にゃははははは。

『まぁ、確かに知らない人が見たら浮気現場っぽいわね』

 と思っていたら別の女性の声がした。

「──────────────────────」

 そこが我慢の限界だった。
 ドタドタと廊下を駆け出し、ドバンという勢いでリビングの扉を開ける。

「クロノ君!!何してるの!!!!」

 ぐわっ、と目を見開いて辺りを見回す。

「あ、なのは!助けてくれ!!」

 そこには何故か上着のボタンを外されかけた状態で、待ち望んだ援軍を確認するかのような目でなのはに視線を向けるクロノと。

「お、やっほ〜、なのは〜」
「お久しぶり」

 その彼に猫だけど馬乗りになっているリーゼロッテとその様子を眺めていたリーゼアリアの姿があった。








「いや〜、ちょっと日本に用事あってはるばる英国からやってきたからさ〜」
「愛弟子の顔でも見ておこうかなって思ってね」

 リーゼアリアはフォークを行儀よく使い、リーゼロッテは手でそのまま掴んでなのはの持ってきたケーキを頬張る。本来はこの家の住人のために買ってきた物だったがクロノとなのはだけが食べて客人である彼女たちだけ何も無いというものおかしな話なので致し方ない。ちなみになのはの持ってきたケーキは五つでいまの人数分を引くと一つ余るが、それはクロノの家族の内、一番の年長者で保護者なはずの母親がおもちゃを強請る子供のような目で物欲しそうにしていたので譲られたがその話は関係ないので割愛する。

「や〜、美味いねぇ、このケーキ。フランスとイタリアも顔負けだわ」
「ほんとね。父様に持って帰ろうかしら」
「それで」

 自分の家のケーキが褒められているにも関わらず、なのはは笑いもせずに問う。

「何、してたんですか」

 そう言ってなのははわざわざ三人は座れるソファーの真ん中に座ってリーゼ姉妹と真っ向から向き合う。クロノと言えば避難する様にそのソファーの端の方に座って事態を見守っている。

「何って、なに?」
「さっきのアレじゃないの?クロノをいじってたこと」
「ああ、アレ?」

 惚ける、というよりは本当に心当たりが無いといった様子のリーゼロッテにリーゼアリアが指を回しながら答えを言うとリーゼロッテはあっけらかんとからから笑いながら言い放つ。

「あー、あんなんいつものスキンシップみたいなもんだって〜」
「い、いつもの!?」

 なのはがばっとクロノを見るが、顔を背けられたのですぐにリーゼ姉妹に向き直るとダンとテーブルに手を突いて身を乗り出す。

「あああ、あんな、ふ、服脱がせて乗っかる事がですかっ!?」
「いや〜、ちっこかったクロスケがすらりと背ー伸びたから昔と比べて肉付きがどうなったのか気になってさぁ〜。うん、昔とは別な意味で中々いい感じな抱き心地をしてそうだったぞ」
「むむむむ、む、昔って!?」
「ん〜、三年くらい前?」
「割と最近ー!?」

 驚愕するなのはだったが、リーゼロッテはなんでそんなに驚いているのかわからないがその様子を笑いながら手を振る。

「いいじゃんー。ちょっとくらいー。恋人なんだからいつでもたんのーできるでしょー?」
「い、いっつも堪能なんてしてません!」
「え、そうなの?」
「そうです!」
「あ〜、もしかして今日たんのーするつもりだったん?」
「なんでそうなるんですか!?」

 なのはの剣幕がいい加減不思議なものに思えてきながらも、リーゼロッテが推理探偵のように語り出す。

「いやだってさー、今日両親が留守なんだという状況で男の家に上がりこんでくるんだから、もうこれ以上しっぽりむふふな状況も無いじゃん?」
「し──────────────────────!?」

 言われて、言われて見ればそんなような状況だと言う事に気が付き硬直するなのは。五秒ほど固まってからばっと同じように固まっているクロノの方を向いてバタバタ手を振りながら声を上げる。

「ク、クロノ君!?わ、私そんなつもりじゃなかったからね!?」
「あ、ああ。うん。わ、わかってる。僕も同じだから」

 その言葉にほっとするなのは。それとは反対に今度はリーゼロッテの方が目を細めて尋ねてくる。

「え〜、じゃあなのは、何しに来たわけ?」
「…………えーと、ゆっくり?」
「なによそれ〜?そんなんじゃエロいクロスケのエロスを満たす事は出来ないぞ〜」
「ロッテ、なに「ク、クロノ君はエロくなんてありません!」

 クロノの言葉を遮る勢いで何故か豪語するなのは。そこまで断言されるとちょっとクロノとしても困るものがあるのだが、ともかくそう豪語するなのはをリーゼロッテは目を細めて笑う。

「いーや、エロいね!じゃなければ、エロノを初めとする、エロリとかクロリとかロリノとかっていう名称は生まれなかったね!!」
「そ、そんな事誰が言ったんですか!」
「モニターの前の皆さ!!」
「訳わかんない事を言わないで下さい!!クロノ君はエロノ君なんかじゃありません!!」
「いや絶対エロノだね!」
「エロくないです!!」
「エロいね!!」
「……とりあえず、君達エロいとか連呼しすぎだ」

 クロノの至極最もなツッコミもヒートアップした二人には届かない。それから三度ほどエロいエロくないと言いあった後、リーゼロッテがどんと胸を拳で叩いて言い放つ。

「クロスケはエロい!!それはこの身体が知っているのさ!!」
「な──────────────────────!!」

 その様は決定的な証拠を提示する検事さながらに自信に満ちており、なのははばっとクロノを方を振り向く。

「いや、何を言ってるんだロッテ!?」
「なんだよ〜、一緒に風呂入った仲じゃないかー?」
「お、お風呂───────────!?」
「いつの話をしている!?それにいいって言ってるのに勝手に入ってきたのはそっちだろう!?」
「その割には乳離れできない子供みたいにちらちらこっちを見てたじゃん?」
「う、嘘をつくな!!」
「クロノ君、ちょっとどもった……?」
「まあ、それも甘えたい盛りの頃に母親と離れて母性に飢えていると思って、そんなエロスケを満たしてやろうと抱きついたり胸を押し付けてやったりした修行時代。うん、思い返せばあの頃からエロかった」
「母性とエロさを混同するな!!それとこっそりエロスケ言うな!!」
「クロノ君、微妙に否定して無い……?」

 なのはが微妙な疑惑に揺れている所を押し切るように、リーゼロッテはびしっとなのはに指を突きつける。

「どう、クロスケはこんなにも欲求不満!!恋人としてそれはいいのであろうか!否!断じて否!!」
「う………っ!」
「ちょっと待て!誰が欲求不満だ!すり替わってるじゃないか!!」
「もしかして、あれ?デートの時でも恥ずかしいから手を繋げない感じだったりする?」
「ちゃ、ちゃんと繋いでます!!恥ずかしいけど!!」
「じゃあ、腕を組んで歩いたり人目も憚らず抱きついたりは?」
「そ、そんな事してません!!」
「え〜、じゃあキスもまだなのかね〜?」
「それは済ませてます!!」
「あ、そうなの?」
「へー」
「にゃ──────────────────────!?」

 勢いで盛大に自爆った事に気がつき、のた打ち回るなのは。そのなのはの発言に意外そうに顔を緩めていたリーゼロッテが表情を引き締めてなのはを見下ろす。

「ふっ、だがしかし、それでクロスケを満たせると思うな!そう、クロスケはいつだって欲求不満!だからあたしは日々スキンシップを欠かさなかったのだ!」
「ス、スキンシップ?」
「そう、抱きついたりしたのもその一環!それが出来ない内はクロスケとの仲を認めることはできないぞ!」
「いや、いつのまにそんな話になっているだロッテ?」
「で、でも抱きついたりとかなんて………」
「ちなみにチュ〜してやったりもしてるぞ」
「やります!やってみせます!!」

 燃え滾る対抗心で立ち上がるとリーゼロッテに何か言いたそうな顔をしているクロノをこちらにグキッと振り向かせる。

「ちょ、なのは」
「…………………」

 クロノの言葉には耳を貸さない。というか聞いていたら出来るはずも無い。だから、なのははクロノ自身からなるべく意識を逸らすようにして、ゆっくりと顔を近づけて───────────。

「………」
「………」
「って、なんで携帯のカメラ構えているんですか────────!!」

 クロノを投げ捨てる勢いで突き放しながら、シャッターチャンスを窺っていた猫姉妹に叫んだ。

「む〜、駄目だぞー、なのは。これくらいで揺らぐようじゃクロスケは任せられんぞー」

 リーゼロッテがどこか呆れた様子で呟く。それに合わせる様にリーゼアリアが少し渋いと言った様子で話し始める。

「う〜ん、確かにちょっと不安と言うかなんというか……」
「あの、それってどういう……?」
「あのね、なのは。さっきクロノの顔を見に来たって言ったけど、実は貴方にも会いたいと思って来たのよ」
「どうして、ですか……?」

 なのはの問いに思い返すように少し目を閉じてから、リーゼアリアは話を始める。

「知っていると思うけど私達はクロノの師匠だけど、クロノの事はそれよりも前、生まれた時から知ってるのよ。抱き上げてあげたことだってあるし、それこそ子供みたいなものなんだから」
「師匠で母親で猫耳で双子で一粒で四度美味しいってわけなのよ」
「だから、クロノがどんな子なのかはよく知っているつもり」
「身体のほくろの位置から構えた時の重心の位置までなんでもござれ」
「そのクロノを任せる子がどんな子なのか。気になるのも当然なのよ」
「イチャつくのに忙しいのか報告に顔見せにもこないんだもん、寂しい限りだわ」
「さっきのロッテじゃないけど、不安が残るような子にはあんまり任せたくないの」

 そう言ってリーゼアリアは目を細めてなのはを見る。それは外敵から子を守ろうとする動物の親のような色が交じっていた。

「なのは。貴方は大丈夫?」

 その見定める、鋭いわけではないが強い視線になのはは息が詰まった。 リーゼ姉妹はクロノの事を知っている。多分、その抱いている想いも。その願いも。その歪みも。だからこそ、その全てを任せられるものでなくては安心する事が出来ない。

「私、は………」

 自分は、果たしてクロノの相応しいのか。そう、問われているような気がした。知っているからこそ、安易に答えることができず、思いを口にすることが出来なくなってしまう。

「リーゼ」

 そんな問い詰められるなのはを助けるようにクロノがソファーに座り直しながら口を挟む。

「心配してくれるのはいいが、あんまりなのはを追い詰めるな」
「けど、クロノ。私達は……」
「大丈夫」

 クロノの言葉は強くは無い、けれどリーゼアリアに追求を躊躇わせるほどその静かな声には確かな響きがあった。

「僕はなのはの事が好きだから」
「───────────」

 それは日常のように、当たり前のような事を話しているかのようで。

「だから、大丈夫」

 そう言って向けられた表情は、かつて自分達では引き出すことが出来なかった、子供が心から見せる曇りの無い笑顔。

「………そう」
「………ありゃりゃ」

 そんな顔で言われてしまったら何も言う事が出来なくなってしまい、リーゼ姉妹は苦笑しながら腰を上げる。

「それじゃ、リンディ達もいないし今日は失礼するわ。邪魔しちゃ悪いし」
「クロスケー。羽目を外しすぎるなよ〜」
「いいから。行くならとっとと行ってくれ」

 苦笑を濃くしてリーゼ姉妹がリビングを出て行く。その二人に軽く手を振って見送ったクロノがなのはに視線を向ける。

「なのは?」
「───────────」

 微動だにしないなのはにクロノはリーゼ姉妹に振っていた手をなのはの前でヒラヒラさせる。それでようやく焦点があったなのはがクロノが首を傾げながら自分の事を見つめている事に気がつき、とたんに慌て出す。

「あああ、ああの、ククク、クロノ君?」
「どうした、なのは」
「えっと、その、あのっ」

 言いたい事がまとまらない。だから、自分がこれほどに動揺する事になった言葉を引き寄せるように呟く。

「あの、リーゼさんに、す、好きって………」
「あー……、うん、言ったな」
「は、恥ずかしくない………?」
「いや、まあ。そういう風に改めて問われると恥ずかしいが……」

 ぽりぽりと頬を掻きつつ、視線を逸らして、けれどしっかりと呟く。

「だけど、本当の事だし」
「──────────────────────」

 高熱に浮かされるようにくらくらする。胸は膨らみきったようにいっぱいで、早鐘のように鼓動している。こんな風に自分への想いをはっきりと、しかも人前で伝えられたのだからしょうがない。どうしようもない。
 けれど、だからこそ。

「で、でも」
「?」
「あんな風に言ってくれたのって今までなかったよね……?」

 クロノが自分の感情を人に語ることは少ない。それが、どんな感情であれ、自分の中で押さえてしまう人物だ。だからこそ、自分の感情を伝えるのが苦手だったり、口に出したりすると恥ずかしそうにするのが自分の知るクロノだ。そのイメージの齟齬がどうしてか気になった。

「そういえばそうだな」

 問われて、初めてその事に気が付いたようにクロノは顎に手を当てる。それから少しだけ考えて、すぐに探し物が見つかったように語り出す。

「君との事をあんな風に聞かれたのは初めてだったからな。だけど、はっきり言わないといけない事だと思ったからだな」
「そ、それにしたってはっきり言ったよね?」
「ああ、それは多分前より自信が出来たからだと思う」
「自信?」

 クロノが無意識にだがそこにある感情の感触を確かめるように胸の辺りに手を添える。そこにあるのは確かな感触。それをリーゼ姉妹たちに言った時よりもはっきりと口にする。

「君が好きだって事に」
「────────クロノ君」

 笑顔と共に向けられた言葉に、すっと胸の中の何かがすり抜けたような気がする。それは自分の中の気持ちと繋がって、自分の感情を今まで以上にはっきりさせてくれた。
 それを、少しでも形にしたくなった。

「クロノ君」
「なんだ?」
「ロッテさんとチュ〜したってほんと?」
「ぐっ!?い、いや、それはだな、なんというかロッテの悪ふざけと言うか、彼女なりのスキンシップというか、どちらにしろ僕の意志を反映したものでは────────」

 先ほどの話を蒸し返されてクロノは途端に慌て出す。その事に関してはなのはを前にすると実情が何であれ後ろ暗いものを感じずにはいられないからだ。
 だから

「……私も」
「?」

 何故なのはがその話を蒸し返したのかなんて考えられる筈もなかった。

「スキンシップ、してもいいかな?」
「──────────────────────」

 その言葉に頷く事は、リーゼ姉妹に自分の気持ちを語ることよりも遥かに労力を要した。

「………」

 なのはがソファーに座るクロノの膝に手を置き、ゆっくりと顔を近づけていく。クロノとしても、こんな風になのはから求められるのは初めてで微動だにせず、ただ向かい受ける事しか出来ない。
 そうして、あと少しでなのはがクロノに触れようとしたところで。

「ちわーっす。リーゼ達が遊びに来てるって聞いた、け、ど…………」

 ガチャリと乱入者が入ってきた。

「……………」
「……………」
「……………」
「……………ごゆっくり」

 音もなくドアを閉めてエイミィが立ち去る。慌ててクロノが追おうとするが、肩に置かれたなのはの手に押されてバランスを崩し、なのはに押し倒されているような体勢になってしまう。

「あの、なのは?」
「………うん」

 見上げる位置にあるなのはの顔を見ながら話す。なんだら微妙に焦点があっていない気がする。

「いま、エイミィが来たんだが」
「うん」
「今の状況を見られた気がするのだが」
「うん」
「止めないと、色々とやっかいな事になりそうだが………」
「うん」

 言葉とは裏腹になのはは動こうとしない。むしろ、もっと自分に密着しようとしてる。それを跳ね除ける事はクロノには出来る筈もなかった。

「────スキンシップ、した後でね」

 そう言ってなのははクロノに覆い被さって、頬にキスをした。






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