リリカルなのは SS

Song to you forever after
リンネ 成長期

 ※ この作品は5/13 リリカルマジカル2 で配布したおまけ本の内容となります。
 1 語り部

 私の名前はリンネ。
 その名前は、初めて出来た友達がくれた名前。
 今までとこれから。その長い時を共に過ごしていく名前。
 これは、その名前と共に歩んできた思い出の話。







 2 ペットにあらず

「いいか?リンネ。これから君は人の社会の中で生きていく事になる。その際には、人の姿をしていた方が何かと都合がいい。だから、人型の姿を取る事が自然と思えるまで慣れる必要がある」

 クロノの言葉にリンネが頷く。普段のリンネの世話は生物課の局員がしているが、知識や教養と言った教育はクロノが行っている。これは彼がリンネの発見者であり、法を司る公正な執務官である事もあって、誰からも反対は出なかった。

「つまり、人に会う時は人の姿の方がいい?」
「そうだな。僕やなのはの前ならともかく人前に出るならその方がいいだろう」

 リンネがクロノの言葉を自分なりに解釈したところで、部屋の扉が開かれる。二人が視線をそちらに向けるとそこにはなのはの姿があった。

「なのは」
「こんにちは、リンネちゃん」

 そう言ってなのはがリンネの頭を撫でる。リンネも応じるように撫でやすいよう頭を下げる。そのいつものやりとりをクロノが微笑ましく眺める。そこで、ふとなのはが手に何かを持っていることに気づいた。

「なのは。それは?」
「あ、リンネちゃん。今日、プレゼントを持ってきたんだ」

 リンネが首を傾げる。そのリンネになのははそのプレゼントを掲げるように前に示した。

「………首輪?」
「うん!これでお散歩の時、リールをつけられるよ」

 クロノの声が硬い事に気づく事無くなのはが笑って頷く。つい先ほど、人の社会での暮らし方を教えていたクロノはこめかみをポリポリと掻きながら渋い声で言う。

「なのは。ペットじゃないんだから………」
「え〜?でも、アルフさんだってザフィーラさんだって子犬フォームの時はリールつけてるし………」

 それは向こうの世界で暮らすためにそうしているのであって、と思うのだが、その辺りの境目をリンネに教えるのはまだ早いと思っているクロノはそのリンネの前でなんと言ったらいいものかと頭を悩ませる。

『クロノ執務官。よろしいでしょうか?』

 そこで、生物課の管理室から通信が入る。なんだろうと思いつつ、クロノは通信に応じる。

「なんだ?どうかしたか?」
『リミエッタ執務官補佐がお見えになっていますが』
「エイミィが?ああ、そういえばリンネの事を見てみたいと言っていたな。わかった、通してくれ」

 通信が切れたところで視線を戻すと、なのはは既にリンネに首輪を渡しており、リンネが不思議そうにそれを眺めていた。そのリンネになのはがそれは首に巻くんだよー、と手振りを交えて教える。
 そうして、リンネはその姿のまま、おもむろに首輪を首に巻いた。

「って、それは」
「お邪魔しまーす」

 クロノがそれを正す前にエイミィが部屋に入ってくる。

「…………」

 そのエイミィの目には首輪を巻いた少女が一人。それを慌てて外そうとしている執務官が一人(エイミィ視点)。

「クロノ君!教育の名の下に調教プレイとは!この鬼畜っ!!外道!エロの悪魔!」

 その誤解を解くのに、小一時間ほど要しました。








 3 獣でも女の子

「リンネ。少し汚れてきていないか?」

 白い獣姿のリンネにクロノが言う。その雪のように白い毛は確かにどことなく濁ってしまっているように見えた。

「そうだな。この際だから洗うとしよう」

 そう言ってクロノは生物課の局員に風呂桶と洗剤を用意してもらう。これから何をされるかまだわかっていないリンネは少し怯んだ様子で後ずさる。
 それをクロノが捕まえて桶に入れるとお湯の温度に驚いたリンネが桶の中で暴れだす。

「こらっ。大人しくしろ」

 ジタバタするリンネを押さえつける。抵抗していたリンネだったが、やがて諦めたように大人しくなり、クロノは早めに済ませてやろうと手早く身体を洗っていく。

「これでよし」

 そうして、濡れた体をタオルで拭いて水分を取ってやり、ドライヤーで乾かしてやると白い毛は新雪のような白さを取り戻していた。

「こんにちはー」

 丁度、その時になのはが部屋に入ってくる。リンネがそれに合わせて姿を人型に変えるとなのはの方に駆け寄っていった。

「あれ?リンネちゃん、なんだかいい匂いだね?」
「クロノに身体を洗われた」
「───────」

 『人型』のリンネにそう言われてなのはが固まった。

「頭のてっぺんから尻尾の先まで隅々と」
「─────────」

 沈黙するなのはにクロノが不穏な気配を感じ取り、冷や汗をかきながら声をかける。

「な、なのは?誤解しているようだが────」
「意外と気持ちよかった」
「ク、クロノ君のエッチーッ!!!!」

 それから、クロノがボロボロになった後、リンネを洗うのはなのはの役という取り決めが出来た。








 4 草原

 リンネが緑の草原を駆ける。出会いの場所に似たその場所でリンネは故郷に帰ってきたかのようにはしゃいでいた。
 ここは海鳴市の草原。クロノとなのはは許可を得て、二人だけが知っている秘密の場所にリンネを連れてきたのだった。

「楽しそうだね、リンネちゃん」
「ああ、連れて来た甲斐があった」

 その様子を微笑ましそうに見る二人。駆け回るリンネにクロノはふとある情景を思い起こし呟いた。

「……父さん達から見た僕ってあんな感じだったのかな」
「リンネちゃんが昔のクロノ君なら、私達はリンディさん達かな?」
「────え」

 その言葉にクロノが固まる。その反応になのはが自分がさらっととんでもない事を言った事に気づいて同じように赤くなって固まった。

「──────」
「──────」

 赤くなりながらも互いに視線を外さない。手を重ね、肩を寄せ合い、段々と顔が近づいていく。

(じー……) 
 
 それをじっと見ている白い獣の視線。

「「───────────」」

 それに気づき、巻き戻しのようにゆっくり離れていく二人。

「そ、それじゃ帰ろうかっ」
「そ、そうだなっ」

 乾いた笑いを浮かべる二人をリンネは不思議そうに見ながら、首を傾げるのだった。








 5 思い出はかく語りき

「と、そんな二人だった」

 そう淡々とリンネは昔の思い出を語ると、話を聞いた黒髪の少年と栗色の髪の少女はなんとも複雑そうな顔で尋ねる。

「ええと、要約するとクロノって人はリンネさんに調教プレイと言うのをやらせて、リンネさんを隅々まで洗って、人目を憚らずいちゃつく人だったと?」
「なのはさんって人は、調教プレイって言うのを促すような事をして、リンネさんに嫉妬して、人目を憚らずいちゃつく人だったんですか?」

 ちなみに二人の子供達にとって、リンネは人型である事の方が自然であり、当時のリンネの事も人型だったと自然に思っている。そう思われているとは思っていない、というより重要な事ではないと思っているリンネは少し考える素振りをして。

「概ね間違っていない」

 そう友達の事を肯定した。



 歴史とて当事者達の主観によって語られていく。語られた歴史は死者となった当事者達には覆すことは出来ない。
 当事者の主観で語られる思い出もまた同じ。いや、より顕著であると言わざると得ない。

 まあ、何が言いたいかと言うと、本人達がいたら否定したくなるような事も語り部の主観のまま、聞き手に語られてしまうと言う話。





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