リリカルなのはSS
Song to you forever After
Another END
帰るべき場所
「アースラ、着艦準備に入ります」
「本局の受け入れ準備、完了」
「着艦まで、5,4,3,2、1」
「着艦完了しました」
「よし、総員に順次下船するように伝えろ。ご苦労だった」
そう言って一息ついて深く背もたれに寄りかかる。これで一段落ついた。
「やー、三ヶ月の巡回任務お疲れ様ー」
「それはお互い様だ」
ねぎらいの声をかけてくるエイミィに苦笑を浮かべる。彼女も同じ任務に就いていたし、ねぎらいとしては口調が軽すぎた。
「それじゃ、後はやっておくから先に上がっていいよ」
「そうはいかないだろう。艦長が部下を置いて先に船を下りるなんて」
「つっても、やる事って言えば引継ぎとかそういうのだけでしょ?艦長いてもいなくても変わらないよ」
「そうは言ってもだな……」
エイミィの言葉が間違っていないとは言え、艦長としての義務感から食い下がる。それを見越していたのだろう、エイミィがとっておきを出す。
「早く会いたいんでしょ?さっさと顔を見せてきなって」
そう言われては口を噤む他無い。完全に見透かされている事に苦笑しながら頭を掻くと、席を立った。
「それじゃ、先に下船させてもらうぞ。エイミィ」
そう言って艦長席から転送ポートへと足を向ける。転送先を手馴れた操作で設定したところで、後ろから声をかけられる。
「それじゃ、いってらっしゃい。高町=クロノ=ハラオウン艦長」
その言葉に返答する間も無く、転送は開始された。
降り立った世界は曇りの無い青い空で出迎えてくれた。その青さに目を細めながら、帰ってきたことを実感する。
「帰ってきた、か」
この世界で過ごすようになってから、まだそう長い年月が経った訳ではない。いや、時間だけで言えば、この世界で過ごした時間より、任務で過ごした時間の方が遥かに長いだろう。
けれど、いやだからこそだろうか。こうやってこの世界に戻るたび、帰ってきたと感じていた。
歩を進める。歩調が普段より早めだという自覚はあったが、緩めるつもりはなく、帰り道の光景に対して僅かばかりの謝罪をする。
やろうと思えば、転送先を帰る場所に設定する事も出来る。しかし、彼女との約束事からその場所から僅かに離れた場所に転移して、そこからその場所に歩く事に決めていた。
そうして、その場所に辿り着く。
『おかえりなさい、って出迎えたいから』
門の戸に手をかける度、その言葉を思い出す。思い出す度、その言葉を心待ちにしている自分がいることを自覚しながら、戸を開ける。
そうして戸を開け、玄関に向かおうとした所で庭から声が聞こえてきた。
「えやー!」
「とぉー!」
「ほらー、お洗濯物の邪魔しないー」
その声に彼女達が庭にいる事がわかった。だから、そちらの方に向かって出迎えてもらう事にする。
庭の方へ行くと鍛錬用の木刀を振り回している息子と娘、その二人を注意しつつ洗濯物を抱える彼女の姿があった。
「あ、おとーさんだ!」
「おとーさーん!」
クロノの姿に気付いて、持っていた木刀を放り投げて抱きついてくる子供達。それを笑顔で受け止めながら、彼女の方に顔を向ける。
……彼女が空から落ちたあの日からもう十年近くが経った。
あの日以来、消えてしまった魔力は結局戻る事はなく、彼女は管理局をやめざるを得なかった。
そうして、僕と彼女は同じ場所にはいられなくなった。
けれど、ずっと傍にいる。そう、約束したから僕はきっとこの場所に帰ってくる。
「クロノ君、お帰りなさい」
何故なら、この場所こそが。
「ただいま、なのは」
僕の帰るべき場所だから。
Fin
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