リリカルなのは SS

                    聖夜のヒーロー

 クリスマス。それは子供達が夢見る夜。多くの希望が望まれる夜。
 これは、その聖夜に多くの夢を叶えようとする一人の少年のお話である。













「やあ、皆。僕の名はサンタクローノ。今夜はクリスマス。なので、今日は頑張ってプレゼントを配ろうと思う」

 誰に向かって自己紹介しているのかわからないその少年は赤を基調にし白で縁取ったバリアジャケットを身に纏っていた。なんというか2Pカラーっぽい。

「で、なんで僕も付き合わされるわけ?」

 そういうのはクローノの従者である別に鼻は赤くないがいつも皆の恨まれ役の陰獣ユーノである。

「ってなにこの説明!?」
「彼は陰獣。女湯に忍び込んだのがばれて追いかけられて泣いていた所を拾って以来、僕の従者になっている。今日こそ、君の侵入技術が役に立つぞ」
「なにその設定!?っていうか、どんな世界ここ!?」
「さあ、話している暇も惜しい。さっそく、プレゼントを届けに行こう」

 そう言ってクローノはユーノを綱で繋ぐ。ギギギと鈍い動作でユーノが振り向くとそこには一瞬、かまくらかと思わせるほどの白い袋とそれを載せられるだけのサイズのソリがあった。

「さあ、いこう」
「まてぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!明らかに質量比がおかしいだろ!?こんなの引かせるなよ!?」
「なんだか、さっきから文句ばかりだな」
「当たり前だぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 叫ぶユーノ。それを咎める声が響いた。

「騒々しいぞ、お前達」

 そこに現れたのはサンタ帽を被った蒼い狼だった。

「ああ、ザフィーラクロースじゃないか」

 その狼に親しげに声をかけるクローノ。

「何その名前!?というか君達の関係は!?」
「彼はザフィーラクロース。僕と同じく子供達にプレゼントを配る仲間さ」
「さも当たり前のように説明された!?」

 もう何がなんだかわからないユーノは頭を抱える。それからぽつりと呟くように尋ねた。

「というかさ。ソリ引くなら彼のほうが適任じゃないか?」
「何言っているんだ。仲間である彼にそんな事はさせられないよ」
「僕ならいいのかよ!!」
「もちろん」
「断言された!?」

 結局、ユーノは泣く泣く飛行魔法でソリを引くのだった。










 クローノとユーノが最初にやってきたのは月村邸だった。

「さすがだ、陰獣。月村邸のセキュリティーをこうもあっさり突破するとは」
「単に、結界張って忍び込んだだけじゃないか・・・・・・」

 ともかく、彼らの目の前には静かに寝息を立てるすずかの姿があった。

「こう無防備に寝られていると、こっそりベッドに忍び込んで寝起きドッキリやりたくならないか?」
「犯罪だから。もう不法侵入してる段階で犯罪だけどそれ犯罪だから」
「まあ、仕方ない。プレゼントがなんなのかを見てみよう」

 そう言って枕もとの靴下から欲しいプレゼントが書かれた紙を取る。

『本』

「すずからしいね。じゃあ、あげようよ」
「待て、ユーノ」

 袋からプレゼントを選ぼうとするユーノをクローノが止める。

「どうかしたの?」
「すずかは裕福な家の子だ。メジャーな本なら簡単に買えるし、図書館にも通っている。大抵の本なら読んでいると考えるのが妥当だ。そんな彼女が欲しがるような本を君は選べるか?」
「う、う〜ん・・・・・・・・・」

 確かにクローノの言うとおりだ。今取ろうとしたのも、最近話題になっているメジャーな本だった。有名な本ならすずかも読んでいる可能性は高かった。

「じゃあ、どんな本をプレゼントするのさ?」
「そうだな、僕なら彼女が今まで読んだことのない類の本を選ぶ。それをきっかけに新しい種類の本を読み出すかもしれないからな」
「なるほど」
「というわけで、僕がプレゼントするのはこれだ」

 クローノが一冊の本を取り出す。

『濡れた(以下規制)』

 ユーノが力いっぱいその本を叩き落とす。

「何をする」
「何、如何わしい本あげようとしてるんだよ!!官能小説だろ、それ!!」
「馬鹿か君は!?彼女は原作で真昼間っからえっちな本を読んでイベント突入した忍さんの妹だぞ!?なんていうか、美しいものが汚れていく様を見てみたくない!?それは清純派の彼女にこそ相応しいだろ!!」
「見てみたいけど、そんな時点で清純じゃねえぇぇぇぇぇぇっ!!」

 結局、色々と協議した結果。すずかにはミッドチルダの童話の日本語訳が贈られた。









 次にやってきたのはバニングス邸だった。子供一人には大きすぎるベッドでアリサは無邪気に眠っていた。

「こう、安らかに眠っている子を見ると布団を引っぺがしたくなるな」
「君、本当に子供達の夢を叶える気があるの?」

 ユーノの突っ込みをスルーしてクローノが枕もとの靴下から欲しいプレゼントが書かれた紙を取る。

『メインヒロインの座』

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 ユーノは語る言葉を見つけられなかった。どうしろっていうんだ、こんなの。というかこれプレゼント?

「ふむ・・・・・・」

 一方のクローノは何か思案するような仕草をしてから頷くと、ごそごそと袋を漁り出した。

「何かいい物があるのかい?」
「ああ、彼女の願いを叶えられるアイテムだ。ところでユーノ。何故、アリサはメインヒロインじゃないと思う?」
「え?えーと、魔法少女じゃないから?」
「違う。彼女がメインヒロインになれないのはツンデレ分が足りないからだ」
「は?」
「というわけで彼女にはこれだ」

 そういってクローノが取り出したのは『贄殿遮那』と『始祖の祈祷書』だった。

「いずれも主役アイテム。これで彼女も立派な釘宮キャラだ。不安要素としてはペッタンコで無い事だが」
「待て。色々と待て。その手のネタはあっちこっちでやってる。ペッタンコキャラ以外もやってる。 立派な釘宮キャラってなんだ。というか主旨ずれてる。あと僕はどれだけツッコミを入れればいいの?」

 それらのツッコミはやっぱり黙殺されるのだった。








 次にやってきたのは八神家だ。

「そろそろ一人くらい襲ってもいいと思うが」
「襲うな!!」

 何故家の者が起きないのか不思議なくらいの声で突っ込む。これも聖夜の奇跡なのだろうか。

「さて、はやての欲しいプレゼントは何かな?」

 そう言ってはやての枕もとの靴下を探る。

『リィンフォースの名を受け継ぐ子』

「はやて・・・・・・」

 それを見たユーノはなんとも言えない気持ちになる。はやてがリィンフォースを長い闇から解放したのもクリスマス。それから永久の別れを告げたのもクリスマス。彼女にとってクリスマスとリィンフォースは切り離せないものなのかもしれない。

「わかりやすいのが来たな。はい」

 そんな感慨をぶち壊すようにクローノが袋からリィンUを取り出した。

「あのさ!何度言ったかわからないけど待てよ!!なんで入ってるんだよ!!」
「ははは。今日はクリスマスだぞ?これくらい造作もないことだ」
「台無しだよ!色々と台無しだよ!!」

 血涙を流すユーノを余所にはやてとリィンUは幸せそうに眠っていた。










 次に向かったのはハラオウン家。髪を解いたフェイトが安らかに眠っていた。

「ここは兄としておはようのキスをするところか?」
「そ、れ、の、ど、こ、が、あ、に、ら、し、い、ん、だ?」

 思わずクローノの首を絞めるがクローノはさわやかに笑っている。かなり不気味だった。

「ではフェイトのプレゼントは?」

 欲しいものが書かれた紙を見る。

『家族が穏やかに暮らせますように』

「・・・・・・なんか、少し勘違いしてるっぽいね。どっちかって言うと七夕みたいな」
「・・・・・・フェイト。君はなんていい妹なんだ。どうしよう。欲情してきた」
「するな!!」
「そんな君にはたくさんプレゼントを上げよう」

 そう言ってクローノはポイポイとぬいぐるみやら服やらを取り出す。部屋は瞬く間にプレゼントで埋め尽くされた。それでも袋の中身はあんまり減ってなかった。

「なんでこんなにたくさん入ってるんだよ。・・・・・・・・・あれ?」

 プレゼントを見回すユーノがおかしなものを見つける。たくさん並んだぬいぐるみ。

「・・・・・・・・・・・・」

 その中に混じってフェイトそっくりな幼女と猫耳を生やした女性が眠っていた。

「・・・・・・あのさ。敢えてもう一度突っ込むけどなんで入ってるの?」
「いや、家族が穏やかに暮らせますようにと書かれているから」
「答えになってないよ!!」
「あ、しまった。プレシアは奥のほうに入って取り出せないな。仕方ないから来年まで待ってもらうか」
「え、ちょっと待って。入ってるの?その袋の中にプレシア入ってるの?」
「・・・・・・・・・・・・」
「なんでそこで黙るの?もうこの際、なんで入ってるのか聞かないから教えてよ。って、あ!なんか袋がもぞもぞしてる!?ねえ、いるの!?ほんとにいるの!?答えてよーーーーっ!!」

 もう精神崩壊一歩手前のユーノだった。









 最後にやってきたのは高町家だ。

「いい加減、手を出さないと男としてどうかと思うがどうだろう?」
「いいから、さっさとプレゼント上げろ」

 もう突っ込む気も失せたのか、口調すら変えて先を促す。クローノはやれやれといった感じで欲しいプレゼントが書かれた紙を見た。

『悪魔って呼ばれないような可愛らしさ』

「よっし!任せろ!僕が君を可愛く可愛がってあげて可愛くしてあげ」
「ほら、いくよ」

 ルパンダイブしかねないクローノをユーノはバインドで引きずっていく。プレゼントは取り合えず、ユーノ好みの服を置いていった。











「今年もいい仕事をしたな」
「去年もこんな事してたのか・・・・・・・・・」

 ストッパー役がいなくて大丈夫だったのだろうかと過去の事ながら心配になる。

「む、戻っていたかサンタクローノ」
「ああ、ザフィーラクロース。おかえり。今年もいい仕事をしたよ」
「そうか。俺のほうはいつもどおりだったが」
「・・・・・・あの、ザフィーラクロースさんは何をしてきたんですか?」
「大したことではない。食にありつけない野良犬に飯をやったり、迷子になった子供を母親の元に届けたりしてただけだ」
「君達、なんで友達なの!?」

 ユーノの突っ込みにさも不思議そうな顔をする二人。もう諦めたユーノは頭を垂れて尋ねた。

「ていうかさ。今更な話なんだけど」
「なんだユーノ」
「なんで今日はそんなにネジ切れてるの、君?」
「ああ。なんだそんなことか。決まってるじゃないか」

 そうして、サンタクローノはさわやかな笑顔でこう言った。
















「シリアスを書いた反動だ」

 それでいいのか、クリスマスSS。




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