遠足と噂のあの人大魔王

 海鳴市にある桜台登山道。
 かつてのなのはの魔法の練習場所であり(今でも利用する時があるそうだがそう多くは無いらしい)、地元民からは気軽な散歩コースとして老若男女問わず利用され、親しまれている場所。
 僕としてもいくつかの事件で関わった事もあり、あの草原に行くために必ず通る場所であるから、この場所に対する思い入れは大きいものがある。
 それを差し引いても、自然を感じる事が出来るこの場所は気軽に散歩するには丁度よく、そんな気分だったのでふらっと寄ってみたのだったが。

「よし、それでは昼食にしよう。ゴミは残していかないように注意するように」
「「「「「はーい!」」」」」
「このおにぎり、もーらい!」
「あ、そのから揚げ僕のだぞ!」
「この玉子焼き、おいし〜」
「マキシムおじさん、よろしかったらこれを……」
「あー、ずるいー!」
「あたしも、あたしもー!」

 何故か、その場所で友人の部下が引率して異世界の子供達が遠足していた。

「む、これはハラオウン提督。妙なところでお会いしましたな」

 僕の姿に気がついたエレナ=エルリード執務官直属部隊『ナイツ』のマキシム=アイオーンは敬礼をした。

「……何をしているんだ、君は。というかこれは何なんだ」

 それをいいからと言ってやめさせると抱いた疑問を真っ先に尋ねる。

「見ての通り、遠足ですが」
「わざわざ管理外世界でか?」
「見聞を深める、という意味では管理外世界の方が適していると思いまして。魔法の無い世界への理解は必要な事だと認識しています」
「まぁ、それはそうなんだが………」

 ちらりとマキシムが連れて来た子供達を見る。見聞を広めるというよりは自然を満喫して遊んでいるという方が正しい気がした。

「あの子達は、君が面倒を見ているという孤児達か?」
「はい。と言っても寄付金を出す事と、月に何度か遊び相手を務めるだけですが」
「それだけでも十分な事だろう。そういえば、その節でフェイトが世話になったとか」
「二、三助言しただけです。大した事はしておりません」
「それでも礼は言わせてもらうよ」

 そう言ってしばらく子供達を眺める。ここにいる子供達は皆、悲しい事があったからここにいる子達だ。けれど、今ここにいる子供達は皆笑っている。心の傷が癒されたから、笑っていられるのだろう。それはとても凄い事だと思えた。
 ………僕は笑う事が出来なかったからな。

「ところで、ハラオウン提督」

 感慨に耽っている所に声をかけられる。そのため、幾分反応に遅れながらその声に答える。

「ああ、なんだ?」
「聞いた話ですが、なんでもここは高町教導官の鍛錬場所だとか」
「ああ。最も、最近じゃ本局の施設を使っているからそんなには利用していないようだが………?」

 と、そこで何故か子供達がご飯を食べる手を止めて、こちらをじっと見つめていた。
 ………なんだ?

「ねぇー」

 子供達の内の一人が問いかけてくる。その目には純粋な好奇心しか宿っていなかった。

「高町ってあの高町?」
「………僕の知る限り、君達の言う高町に該当する人物は一人しかいないから多分そうだ」

 その途端、悲鳴とも歓声とも取れる声があちこちから上がる。

「高町ってあれだろー?マキシムさんのアイアスをぶち破ったっていう」
「管理局の白い悪魔だっけ?」
「あれ、僕大魔王って聞いてたよ?」
「誘導操作弾で教え子を追い立てるのが趣味なんでしょ?」
「熱狂的な取り巻きが50人はいるって聞いたけど」

 なんか物凄い言われ方をされるなのは。正直、子供達の言葉とはいえ冷や汗が流れるのを止める事が出来ません。

「マキシム、これは………」
「………どこぞの口の軽い男が面白おかしく話しすぎた結果です」

 深い後悔の様な物を感じさせながら眉間に皺を寄せるマキシム。その間にも子供達のなのは話は続けられる。

「防御魔法を使えないロッドさんに砲撃魔法を撃ったんだって」
「その時の恐怖が忘れられなくてロッドさんは無口になったとか」
「捕まえられた犯罪者はその名前を聞くだけで悲鳴を上げるとか」
「夢にまで出てきて、発狂した人もいるんでしょ」
「必殺技はシールドウイング、カラミティエース、ディバインフェニックスの攻防魔三大奥義って聞いたよー」

 聞けば聞くほど背筋が冷たくなっていく。子供って怖いもの知らずだなー。

「あー、君達」

 さすがにまずいと思って口を挟む。子供達が注目する中、なのはの弁護をする。

「君達がどんな話を聞かされたかは知らないが、なのはは君たちが思っているような子じゃないぞ」

 その言葉に、子供達はぱちぱちと瞬きしてからひそひそと話し始める。

「あの人、ああ言ってるけどどう思う?」
「馬鹿、言わされてるに決まっているだろ」
「じゃあ、あの人も高町の部下なのかな?」
「多分、そうだよ。きっとああいう風に言うよう命令されてるんだ」
「可哀相………」

 何故か同情の視線が向けられる。いや、そんな目で見られましても。

「……私も何度か訂正したのですが、一度根付いたものを取り除くのは難儀なものでして」

 子供達に慕われているマキシムの言葉でも通じないのか。だとすれば、僕が言ったって通じる筈も無いだろう。
 …………すまない、なのは。僕は無力だ。
 願わくば、この子供達となのはが顔を合わせません様に。
 無力な僕はそう祈るしかなかった



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