リリカルなのは SS

クロックマン



 新暦XXX年。

「ふぅ、洗濯は終わったな。次は掃除だな」

 せっせっと家事に勤しむ少年。彼の名はクロノ=ハラオウン。どこからどう見ても、人間にしか見えないが、ロボット工学の第一人者リンディ=ハラオウンに作られたれっきとしたお手伝いロボットである。

「大変よ!クロノ!」

 そこに生みの親であるリンディ博士が青ざめた顔で駆け込んできた。

「どうしたんですか博士?また、甘いものの食べすぎで体重がへぶぅ!?」
「そんな事よりこれを見なさい!!」

 ロボットの鼻先を拳で潰すという荒業を平然とやってのけたリンディがテレビをつける。涙目になりつつ、クロノはテレビに目をやり、そして驚愕に目を見開かせた。

「これは……町に火の手が!?」
「そう、これは戦闘用ロボットの仕業よ」
「戦闘用って、一体誰がそんなものを!?」
「それは…………」

 言いよどむリンディ。そこでテレビ画面が急に歪み、一人の女性の姿を映し出した。

『はぁーい、私は翠屋のパティシエの桃子さんでーす。店の売り上げがよくってお金が沢山あったから気まぐれに戦闘用ロボットを作って翠屋を全世界的規模で店舗拡大することにしました。皆さん、こぞって来てね〜』

 それだけ言うと画面がツッコミを拒絶するようにぷっつりと途切れ、クロノがもう桃子の姿が映っていないテレビを指差して喚きだす。

「ちょっと、今の何ですか!?なんで店舗拡大で町に火の手が!?」
「そんな桃子さん。私と共にロボット工学を学び、いっつも美味しいお茶とお菓子を作ってくれたお茶飲み仲間の貴方がこんな事をするなんてっ」
「いや、そんな説明的に嘆かなくていいから!!」
「こうなったらクロノ!貴方が戦闘用ロボットになって桃子さんを止めるのよ!」
「どんな結論ですか!?あと本能的にもの凄くあの人のところ行きたくないんですが!」
「それじゃ、レッツ改造手術っ♪」
「いきなり!?僕の意思の尊重は!?」
「改造手術なら忍ちゃんにお任せー。素敵なバスターを作ってあげるね?」
「忍さん!?そんな、何の脈絡も無く出てきて原作ネタを持ち出さなくても!」
「重火器二対、スタンガン、発煙装置に世界時計…ついでにスケジュール&アラーム、スナップショットに自爆機能もついて、とっても便利でお買い得」
「そ、そんないかがわしくも物騒な改造、いやです!!それにお金取るんですかー!?」
「未来の国も最近領収書が落ちにくくてねー」


 こうして、そんな意外と世知辛い世界で、お手伝い用ロボットクロノ=ハラオウンは戦闘用に改造され、クロックマンに生まれ変わったのだった。






 1 カットマン

 初戦ということで定番のカットマンステージにやってきたクロノ(クロックマンは呼びにくいので誰も呼びません)。

「ふふ、待っていましたよクロノ君!」
「………えっと、君がカットマン?」
「そうです!私がカットマンです!」
「……シャマル、いくらなんでも無理が無いか?それ」
「しょ、しょうがないじゃないですかー!他に役どころなかったんですよ!!消去法なんて大嫌いですー!!!」
「まぁ、同情はしておくよ………」
「なら、私に倒されてください!」

 そう言ってシャマルが腕を前に突き出す。嫌な予感がしたクロノがとっさに後方へ飛び退ると、僅かに遅れてさきほどまで自分がいた場所に空間を越えてシャマルの手が伸びてきた。

「こ、これは!?」
「ふふ、これが私の武器クラールヴィント!これに掴まれたら最後、リンカーコアをカットしちゃいます!!」
「そんな無理やりキャラを演じようとするな!!」

 言いつつ、シャマルの攻撃を必死によけていくクロノ。だが、次第に追い込まれていき、ついにリンカーコアを掴まれてしまう。

「しまっ!」
「これで終わりです!!」
「くっ!うおおおおっ!!」

 リンカーコアを掴まれた状態のまま、クロノはS2Uバスターをシャマルに向ける。

「えっ!?」
「あぁぁぁぁぁぁっ!!」

 心臓を掴まれたような不快感の中、クロノはS2Uバスターを発射。勝利の確信を抱いていたシャマルをその確信ごと撃ち抜いた。

「そ、そんな。リンカーコアを掴まれたまま、バスターを撃つなんて………」
「不可能な事じゃないさ………。嘘だと思うなら第二期二話を見るんだ」
「そ、そういえばなのはちゃん、掴まれたままスターライト撃ってましたねー………、がくっ」

 カットマンステージ、クリア!
 敵デバイス『クラールヴィント』を手に入れた!






2 エレキマン

 カットマンを倒したクロノがやってきたのはエレキマンステージ。

「来ちゃったんだねクロノ」
「ああ、来ちゃったよフェイト」
「………クロノ。わ、私はエレキマンだよ」
「いや、とりあえずそう言っておかないとわからないじゃないか」
「誰が?」
「こっちの話だ。僕は説明役の立ち位置でもあるから、こういう発言もしないといけないんだ……」
「大変だね………」
「まあね………」

 なんだか和みそうになってしまっているが相手はボスであるフェイト(エレキマン)。互いに自嘲めいた笑みを浮かべるとデバイスを構える。

「行くよ!クロノ!!」
「っ!」

 フェイトが雷光の如き速度でクロノに迫る。攻撃をなんとか避けつつ、S2Uバスターを向けるが、その速度の前にフェイトを捕らえることが出来ず、全てかわされて行く。

「くっ!速い!」
「そこっ!」
「うわあぁぁぁぁっ!」

 フェイトの攻撃にライフを削られていくクロノ。このままでは勝機は無い。何か手は無いかと傷ついた身体で必死に考える。

「こうなったら、一か八か!!」

 デバイスチェンジ。クラールヴィント選択。

「そ、それはシャマルの!?」
「くらえ、クラールヴィント!!」
「あっ!?」

 空間から伸びたクロノの手がフェイトのリンカーコアを掴み取る。弱点武器で攻撃され、フェイトは堪らず膝を突いた。

「こ、これって弱点とか関係ないんじゃ………」
「そもそも、君のリンカーコア抜いたのリーゼだしなぁ………」

 エレキマンステージ、クリア!
 敵デバイス『バルディッシュ』を手に入れた!






 3 アイスマン

「待っとったよ、クロノ君」
「君がアイスマンか。はやて」
「その通りや、ってなんで名乗る前に知っとんねん!!ちゅうか、女の子やのにアイスマンって、マンってなんやねん!それじゃ男の子っやっちゅうねん!!」
「…………」
「あ、あれ?クロノ君?なんでノーリアクションなん?」
「いや、あえてそこには突っ込まなかったのになぁ、と思っただけだよ」
「うわ、なんか冷めとる!寒、なんか空気が寒くなっとる!!」
「なるほど。だからアイスマンか………」
「いやいやいや!!そうやないって!!私、本編で氷結魔法使ってたやん!!三期やけど!!」
「まぁ、どうでもいいんだが」
「うわーん、クロノ君がつれないー!」

 やけになったはやてがシュベツトクロイツで大出力攻撃を連発する。一撃でも喰らえば大ダメージだとクロノは必死に攻撃をかわしていく。

「ほら、クロノ君!三回喰らったらアウトやで!!」
「くそ!一撃で1/3ダメージなんて反則だ!!」

 懸命にかわすクロノだがその広範囲攻撃にとうとう攻撃を喰らってしまう。これであと二回攻撃を受けてしまえば終わり。ボス戦の前からやりなおしである。

「終わりや!クロノ君!」
「まだだ!」

 デバイスチェンジ。バルデッシュ選択。

「はっ!」
「あっ!?

 跳躍一閃。その機動能力でクロノははやてとの距離を一気に詰めるとバルデッシュを振り下ろした。

「あ、あともう少しやったのにー!」
「いいから、デバイス寄越してくれ」
「………なんか、冷めきっとらん?」
「ロボットだから。マシーンだからな」
「それはマジ〇ガーやーん………」

 アイスマンステージ、クリア!
 敵デバイス『シュベルトクロイツ』を手に入れた!





4 ファイアーマン

「来たか」
「シグナム」
「シグナムではない。ファイアーマンだ」

 さすがにシグナム。生真面目に役割をこなそうとしている。

「主はやての敵、ここで討たせて貰う!」

 いや案外そうでもないようだ。どうやらはやての事はどんなシリーズでも譲れ無いらしい。

「いくぞ!」

 シグナムがその名の通り、烈火の如き猛攻を繰り出す。

「くそ!なんとか距離を!」
「させん!」

 牽制にS2Uバスターを放つが、大した効果は与えられない。このままでは負けるとクロノはデバイスチェンジに全てをかける。

 デバイスチェンジ。シュベルトクロイツ選択。

「アーテム・デス・アイゼス!!」
「ぐっ!?」

 炎ごと凍気の内に封じ込められるシグナム。自分を封じ込めていく氷を見下ろしながら呟く。

「私の敗北、か」
「紙一重の差さ。もう一度やったとしても勝てるかどうか」
「そうか?」
「ああ、出なければ初めて第三期のネタを引っ張ってくるような真似はしなかったさ」
「そう、か………」

 満足そうな笑みを浮かべて凍りに閉じ込められるシグナム。その後にはレヴァンティンのみが残された。

「………すまない、これも戦いだ」

 ファイアーマンステージ、クリア!
 敵デバイス『レヴァンティン』を手に入れた!





 5 ボンバーマン

「待っていたの、クロノくん」
「なのは………、君がボンバーマン?」
「そうなの。なんだかひどいよねー」
「いや、かなり適役だと思うのだが…………」

 そこでクロノは何かに気づいたようにはっとなる。

「そうか、テレビで見た街の火の手!あの破壊工作は君の手によるものだな!」
「え?え?え?」
「くっ!なんて事を!僕は君を許さない!」
「ち、違うよ!皆でやったんだもん!それは確かに私も参加したけどー………」
「諦めろなのは。もうこの時点で皆のイメージは、八割君の手によるものだと思われてるから」
「そ、そんなことないもん!ここでは可愛らしいって言ってくれる人がいるからもう少し少ないよ!」
「………墓穴掘ってないか?色々と」
「う、うわーん!クロノ君の馬鹿ー!!」

 泣きながら去っていくなのは。その拍子に落としていったレイジングハートを拾い上げ、クロノは次のステージに向かうのだった。

「あ、そういえばレヴァンティン使い忘れた」

 ボンバーマンステージ、クリア!
 敵デバイス『レイジングハート』を手に入れた!






 6 ガッツマン

 そうしてクロノは最後のボス、ガッツマンの元にやってきた。

「来やがったな」
「ヴィータ。もう残るボスは君しかいない。引いてくれないか」
「そんな事するかっ!」

 そう言ってヴィータがクロノにグラーフアイゼンを振り被る。とっさにS2Uバスターで受け止めるが、防ぎきれず吹き飛ばされてしまう。

「あたしの攻撃を受け止めたかったら、ザフィーラかなのは位のシールド用意しろ!」
「なら、用意してやる!」

 デバイスチェンジ、レイジングハート選択。

「んなっ!」

 再び繰り出されたグラーフアイゼンの攻撃をレイジングハートのシールドが防ぐ。そのまま攻撃を逸らすと、クロノはヴィータとの距離を取る。

「まさか!?」

 クロノがレイジングハートで何をしようとしているのか。以前、身を持って知っているヴィータは驚きに目を見開く。

「ディバインバスター・エクステンション!」

 ロングレンジから放たれる砲撃魔法。その迫る光の奔流にヴィータの視界は埋め尽くされた。

「………こうして自分で放つとやりすぎだとつくづく思うな」
『いいんじゃないでしょうか?』
「あ、レイジングハート喋った」

 ガッツマンステージクリア!
 敵デバイス『グラーフアイゼン』を手に入れた!





 7 平和への道

「……………」

 見事6大ボスを倒したクロノ。だが、今彼は途方にくれていた。

「翠屋ステージが始まらない………」

 そう、ボスを倒した後のお約束。わかりやすく言えばワイリ〇ステージが始まらないのだった。

「………しょうがないから、一度研究所に戻るか。報告もあるし」

 そう言ってクロノは研究所に戻る。自分を無理やり改造した場所が帰る場所だと言うことを思い出し、げんなりしながら研究所に入っていく。

「あらあらー。そうなんですかー、桃子さん」
「そうなんですよー、リンディさん」

 と、そこでは生みの親がラスボスとお茶を飲んでいた。

「何やってんですか、あんた!?」
「あ、クロノ。お帰り」
「お邪魔してまーす」
「お邪魔してますじゃないでしょ!世界征服はどうしたんですか!!」
「世界征服じゃないわよー。店舗拡大ー」
「どっちでもいいです!それを放っておいて、何で野望を抱く科学者とそれを止めようとする科学者が午後のお茶を楽しんでるんですか!」
「あ、店舗拡大できなくなったから」
「は?」
「だってー。クロノ君がロボット倒しちゃうんだもん。人手が足りなくなっちゃてー。それでリンディさんに相談しに来たの」
「息子がご迷惑をかけたようで………」
「え、なに?僕のせい?」
「だから、クロノ。貴方が責任を持って翠屋にお手伝いに行きなさい」
「ちょ、なにその結論!?」
「お手伝いロボットの本領発揮よっ」
「もう違います!無理やり戦闘用に改造したのはどこの誰だと思ってるんですか!」
「逆改造手術でも、忍ちゃんにおまかせー」
「ちょ、また!?」
「あー、楽しそう。桃子さんも参加していい?」
「なら私もー」
「んー、まず会計機能でしょ。食器洗濯機に、コーヒーメーカー。仕入れ先と警備会社への直通通信。それから防犯機能に重火器二対にスタンガン、発煙機能もつけてみようかなー」
「ちょ、それ戦闘能力変わってないじゃないですか!!ってそんな事言っている間にドリルが三つも迫ってくるうぅぅぅぅぅぅっ!?」

 こうして、一人のお手伝いロボットが犠牲になり、世界の平和は守られたのだった。
 けれど、再び世界に危機が訪れた時、彼は再びやってくるだろう。

 戦え!クロックマン!
 負けるな!クロックマン!




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