リリカルなのは SS

海鳴戦隊バニングスレンジャー
『海鳴戦隊の危機!?強敵現る!』

「バニングスレッド・アルフ!!」
「バニングスブルー・ザフィーラ!!」
「バニングスグリーン・ユーノ!!」
「バニングスブラック・アリア!!」
「バニングスピンク・ロッテ!!」
「「「「「我ら、海鳴戦隊バニングスレンジャー!!!」」」」」

 ドーンという爆発と共に名乗りを上げる海鳴戦隊。

 「や、やべぇ!海鳴戦隊だ!!逃げろ!!!」

 名乗りを上げただけでたちまちに逃げ出す暴徒達(野良犬集団)。その暴徒に襲われていた野良猫は現われた救いの手に礼を述べて、深く頭を下げて去っていく。

「隊長、鎮圧終了しました」

 それを見送ってからザフィーラが背後に声をかける。すると、物陰からその様子を見守っていた彼らの隊長が姿を現した。

「ええ、ご苦労様。それにしても、名乗りを上げただけで逃げ出すなんてこれぞ正義の王道って感じじゃない?」

 そこにいたのはアリサ・バニングス。何を隠そう、彼女こそが海鳴の平和を影から守る海鳴戦隊バニングスレンジャーの隊長、バニングスマスターその人である。

「どっちかっていうと触らぬ神に祟り無し、って感じだったけど……」
「これも日ごろの私達の努力の結果ってやつね。うんうん」

 ユーノの言葉を流して、満足そうに頷くアリサ。そうして、高らかに宣言する。

「いい、皆!この調子で海鳴の平和を守っていくのよ!!」

 だが、彼女はまだ知らない。
 海鳴戦隊に未だかつて無い脅威が迫ってきている事に。







「…………」

 海鳴市に降り立ったその人物は、桜台の丘から遠く町並みを眺める。久しぶりに降り立ったその地に深い感慨が沸いてくるのがわかる。
 が、それらを押し込めて彼女は町並みなら視線を外し、ある方向に向ける。
 遠視を駆使して見たそこにいるのは一人の少女と五匹の小動物。

「いくぞ」

 その姿を見つけたその人物は背後に声をかけると、そちらの方へ駆けていった。







「よーし、皆集合したわね」

 海鳴公園に集合したメンバーを前にアリサが腕組みする。隊長はやる気満々だ。指揮官の士気が高ければ、部下であるバニングスレンジャーの指揮も否応無しに上がっていく。それを感じ取ったアリサが指を天に差して高らかに言う。

「よーし!今日も今日も海鳴の平和は私たちが守るわよー!!」

 その言葉に手を掲げて答えるバニングスレンジャー。

「────いや、その必要は無い」

 そこに、突如背後から声をかけられる。

「っ!?」

 驚いて振り向くとそこには五人の人影。マントで姿を隠しているため、男女の区別もつかないがこれだけは言える。
 怪しい事、この上ない。

「誰!あんたたち!?」
「ふっ………」

 アリサの言葉を鼻で笑ったその人物は一歩前に進み出るとマントを脱ぎ捨てる。それに続けて後ろの四人も同じようにマントを投げ捨てた。

「ナイツレッド!!」
「ナイツブルー」
「ナイツイエロー」
「ナイツブラック」
「ナイツピンクっ♪」
「粉砕戦隊!!!ナイツンジャー!!!!!」

 ドーンという効果音とともに名乗りを上げる集団。ちなみに高らかに宣言したのはリーダーと思しきレッドのみである。

「ナ、ナイツンジャー………?」
「……あれって」
「……ああ」
「あの………」
「えーと、そのさぁ………」
「何してるの?エ」
「何を言う、私はエレナ=エルリードなどではない。ナイツレッドだ」
「「「「「いや、言い切って無いし」」」」」
「何者なの!あんたたち!?」

 バニングスレンジャーの突っ込みをさらりと流したナイツレッドはアリサの問いに腰に手を当てて堂々と名乗る。

「我らは、『五人いるから戦隊が出来るな』と唐突に気がついたので、気まぐれに次元世界の平和を守るため結成された粉砕戦隊ナイツンジャーだ」
「次元世界の平和っ!?」
「そう。そしてまずは手始めにここ海鳴の平和を守りに来たのだ」
「なんか言い方が悪役っぽいぜ、隊長」
「隊長ではない、リーダーだ」
「海鳴の平和って………それなら私たちがいるじゃない!!」
「そう、海鳴の平和を守る戦隊は二つも要らないな」

 そう言ってナイツレッドはびっとバニングスレンジャーを指差して告げる。

「ゆえに、どちらが海鳴の平和を守るのに相応しいか、雌雄を決しに来たのだ」
「やり方がエリートぶった味方みたいだぜ、隊長」
「隊長ではない。リーダーだ」

 ナイツブルーのツッコミを流すナイツレッド。そのナイツレッドの言葉にアリサが憤慨して言う。

「私たちが、相応しく無いって言うの!?」
「ああ」

 あっさりと肯定するナイツレッド。

「どう相応しくないって言うのよ!?」
「ならば、言ってやろう」

 ナイツレッドがまずはアルフを指差す。

「まずはお前だ。レッドと言いつつ、どっちかっていうとオレンジでは無いか」
「うっ!?」
「次にブルー。青がリーダーなのは実例が無い訳ではないがそれは王道ではない」
「む」
「さらにグリーン。無個性」
「そんなっ!?」
「極めつけはブラックとピンク。レギュラーメンバーが基本的に欠席など戦隊にあっていいのか。否、いいはずが無い(反語)!!」
「まぁ、あたし達イギリス在住だしねぇ」
「仕方ないわよね」
「どうだ。こんな不安定な戦隊に海鳴の平和が任せられるものか」
「くっ!」

 ナイツレッドの言葉に悔しそうに歯噛みするアリサ。それを嘲る様に笑いながら、ナイツレッドは背後を振り返る。

「その点、我らにはまるで穴が無い。まずはピンク!」
「はーいっ」

 軽いノリで一歩前に出てきたナイツピンク。

「いいか、よく聞くがいい。このピンクはな」
「あー、ちょっといい?」

 ナイツレッドの言葉を遮って手を上げるバニングスグリーン(無個性)。その汚名を返上するかのようにいい加減突っ込むべきところにツッコみを入れる。

「あのさ、これどういう時系列なの?そっちのピンク、眼鏡かけてないし貴方達もいるから四年後っぽいけど、うちの隊長は小学生だし………」
「愚か者がっ!!」

 かっ、と目を見開くナイツレッド。

「時系列、世界観くらい超越しないで正義のヒーローなど出来るか!!でなければ戦隊同士の競演、改造人間と光の巨人の共闘、黒い方の次期創生王候補と太陽の子、悲しみの王子と怒りの王子が四人一同に会する事など出来様筈が無い!!」
「は、はい。すいません………」

 あまりの剣幕に萎縮するユーノ。話の腰を折られたナイツレッドはおほんと咳払いすると話を元に戻す。

「さて、ピンクと言えば紅一点。いわばお色気担当。その点、我らのピンクはお色気たっぷりだ」
「どうたっぷりだって言うの!?」
「自称未亡人だ」
「未亡人ですっ♪」
「───────────」

 あまりの事に開いた口が塞がらないアリサ。

「どうだ、お色気たっぷりだろう。おまけに言葉が背徳的だ」
「それ、ヒーローとしてどうなの?」
「次にブラック!!」

 ツッコミを入れるも取りつく島無し。さっさと次のメンバーの紹介に移るナイツレッド。

「…………」
「見ろ。完膚なきまでに黒いだろう」
「………それだけ?」
「それだけだ。次にイエロー!!!」

 そう言って巨漢の男を指差すナイツレッド。指差されたナイツイエローは無言で前に踏み出す。

「その人が黄色?なんか、イメージ合わないんだけど」
「ふっ、甘いな。黄色が黄色たる由縁がなんなのか、戦隊に関わる身で知らぬわけでは無いだろう」
「ま、まさかっ!?」
「そう、その通り。だがこいつは従来の黄色を超越している。いわば、スーパーイエローと呼ぶべき黄色なのだ」
「な、なんですって!?一体それは!?」
「それはっ!!」

 ナイツレッドが必殺技を繰り出す時のように、気合を入れて、海鳴の海に響き渡るように言った。

「この男は!!カレー好きなだけでなく、美味しいカレーを作る事が出来る自給自足イエローなのだあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
「なんですってえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
「隊長。自分にカレー好きの設定はありませんが………」

 自信満々に言うナイツレッド。驚愕するアリサ。そんな二人にナイツイエローの言葉は届くはずもなく、話は進む。

「くっ、なんてことなの。恐るべしナイツンジャー……!」
「ふっ、そう言うのはまだ早い。まだメンバーは残っているのだぞ!」

 そう言ってナイツレッドが背後にいる最後のメンバーを紹介しようと、指を刺そうとして空を切る。そちらには誰もいなかった。

「………む?」
「よー、リーゼのお姉さま方。この後、どうよ?」
「んー?どうって言われてもねぇ」
「いやいや、この町によ、いいキャットフード売ってる所知ってんだ。今なら二割引でお買い得だぜ?」
「え、マジ?ならいく!」
「さすが、そうこなくっちゃよ!いやぁ、仕官学校時代からの憧れだったリーゼのお姉さま方とご一緒できるとは光栄光栄」
「ん?あれ、あんた、私達の講義出てたの?」
「ああ。ありゃあ、わかりやすかったぜ。おかげで他の奴らを一歩も二歩も出し抜けた」
「ほっほ〜。中々見所あるじゃない」
「それもお姉さま方のおかげだって、んじゃ早速」
「仕事中にナンパするなと言っているだろうが!!」
「へぶぅっ!」

 パイルバンカーで吹っ飛ばされるナイツブルー。二転三転と転がった先でピクピクとしているのを確認してからナイツレッドが向き直る。

「という事で今のがブルーだ」
「しょ、紹介になって無いんだけど……」
「と言うわけでこれが我がナイツンジャー。貴様達はこの布陣を超えられるかな?」
「あれ?アンタの紹介は無いの?」

 同じ赤の立ち位置同士という事を気にしていたアルフが尋ねる。その言葉にナイツレッドは少し考えてから後ろにいるメンバーに尋ねる。

「おい、お前ら。向こうは私の紹介を所望している。答えてやれ」

 そう言われたナイツンジャーの四人は口々に言う。

「破壊大帝」
「もう少し落ち着かれた方がよい方だ」
「壊し屋」
「単純で物をすぐ壊す面白い人です」

 ガコンガコンガコンガコンッ!!!

 計四発のパイルバンカーが放たれる。誰に向けられたものかは最早、語るまでも無い。

「紹介になっていないだろうが!」
「いえ、端的ですが十分に説明になってます」

 内輪もめに走るナイツレッドにユーノが声をかけるが聞き入れならない。さっきから無視されてばっかりだなぁと思いつつ、その役を捨てれば出番がなくなるとわかっているので、やめない辺り涙ぐましい事この上ない。

「さて、どうだ。我らこそ海鳴を守るに相応しい戦隊だろう」

 どっからそんな自信が出るのか知らないがやたら自信満々のナイツレッド。その言葉にアリサは俯いて答える。

「………ええ。そうかも知れないわね」
「アリサッ!?」
「どんな根拠!?」

 思わぬ言葉に驚くアルフとユーノ。最も、驚きの理由は前者と後者で明らかに違うが。

「薄々わかっていたのよ。この戦隊、ちぐはぐだって。ブラックとピンクは基本的に休業だし、グリーンは淫獣だし、頑張っているのはレッドとブルーだけだって。そして、隊長といいつつ何も出来ない私。だから、仲間割れを起こしてバラバラになりそうな時もあった」
「司令官………」

 ザフィーラが沈痛な声で言う。いま、凄く納得いかない事を言われた様な気がするユーノも雰囲気に負けて黙りこくる。

「それでも!!」

 アリサが顔を上げる。そこにある顔には少しの暗さも無い、いつも通りの海鳴戦隊の隊長の顔がそこにはあった。

「この海鳴を守る気持ちは、来たばかりのあんた達なんかに負けはしない!!」

 そう言ってアリサは賽を投げるようにナイツンジャーを指差した。

「交渉決裂か。穏便に済ませたかったがいたし方あるまい」
「望んだ展開の間違いじゃねぇ?」
「だが、お前のこの地に対する思いは伝わった」

 ナイツブルーの言葉をさらりと流すナイツレッド。やれやれと視線を移すとユーノと目があった。大変ですねーそっちも、と同類を見つけたかのような目をするユーノ。それは同感だが、相手が男じゃなぁ、とうんざりするナイツブルー。残念、友達にはなれなそうだ。

「故に、ここで雌雄を決してくれようぞ!!」
「かかってきなさい!!」

 臨戦態勢に入るバニングスレンジャーとナイツンジャー。正に一触即発。双方に何か動きがあれば即この場は戦場となるだろう。その均衡を破るタイミングを互いに計っているその時だった。

「ストップなのです!!」

 突如、両者の間に割って入る影があった。

『っ!?』

 現われるはずも無い乱入者にバニングスレンジャーとナイツンジャーの双方が思わず臨戦態勢を解き、割り込んできた者の姿を凝視する。

「ここでの戦闘は危険なのです!この勝負」

 そうして両者の視線を集めたその幼女は。

「海鳴の守護天使ヤテンホワイトが預かるのです!!」

 どっかで見た事あるような登場の仕方をしてそう告げた。

「えーと………」
「何をしているのだ、リイン」
「リインではないのです。ヤテンホワイトなのです!!」
「ヤテンホワイトだと!?おのれ、一体何者だっ!?」
「もしもーし、隊長。ベタな反応過ぎて正体語っていいものか迷うんだけど」

 突然現われた幼女に反応に困る一同。それを代弁するようにアリサが代表して海鳴の守護天使(自称)に問う。

「で、あんた一体何しに来たわけ?」
「海鳴の平和を守りに来たのです!海鳴の平和を乱すなら神でも悪魔でも大魔王でも容赦しないのです!!」
「いや、だから………」

 と、そこでヤテンホワイトに視線を向けていたナイツレッドが思いも寄らぬ事を言い出した。

「………皆の者、引くぞ!」
「え、なんでよ?」

 心底意外そうな顔をするナイツブルーにナイツレッドは胸倉を掴んで血を吐くようにして言った。

「あんな愛らしい者の前で戦えるか………っ!」
「あー、さいですか」

 半ば呆れて、でも物凄く納得するナイツブルー。

「じゃーそういう訳で皆さん、お達者でー」

 どこからともなく取り出した取り出した杖を掲げるナイツピンク。その柄尻で地面を叩くと魔法陣が出現し、光と共に消えていく。

「今日のところはこれで引こう。だが覚えておけ!海鳴の平和を守るのは我々だと言う事を!!」

 悪役のような言い方で正義の宣言をして去っていくナイツンジャー。呆気に取られ、しばらく呆然としていたアリサだったが、その視線をナイツンジャーのいた場所からヤテンホワイトへと向ける。

「礼を………言うべきなのかしら?」
「その必要は無いのです」

 この場の戦闘が避けられたのは間違いなくこの幼女の乱入のため。礼を言うべきか迷うアリサの言葉を切って捨てるヤテンホワイト。

「ヤテンホワイトは貴方達の味方をしたつもりは無いのです。もし、貴方達が海鳴の平和を乱す事があれば、その時はヤテンホワイトが貴方達を倒すのです」
「敵の敵は味方、って訳にはいかないのね」
「そうです。ヤテンホワイトはヤテンホワイトのために海鳴の平和を守るのです」
「………は?」

 なんて言ったこのヒーロー幼女。

「そう、全てはメインヒロインの座獲得のため。そのためにはブルマだけではやっていけないのです!手広くやっていく必要があるのです!!」
「ちょ、ふざけんじゃないわよ!!私だってまだヒロインになった事無いのに何言ってんの、このちびっ子!!」
「だから、ヤテンホワイトは貴方達とは相容れられないのです」

 そう言ってヤテンホワイトの身体がふわりと浮いていき、空へと飛び立っていく。

「忘れてはならないのです。ヤテンホワイトが姿を現した時、それは貴方達が道を踏み外した時だと言う事を。そして、その時こそヤテンホワイトがヒロインになる時なのです〜」

 そうして、ヤテンホワイトは昼間だけど夜空へと帰っていった。

「とんでもない事になったわね……」
「まぁ、確かに色々と……」

 ヤテンホワイトが去っていった空を睨みながら呟くアリサ。その瞳を閉じ、やがて決心したように瞼を開けると隊員達へと向き直る。

「皆、これから今までにないつらく厳しい戦いになるわ。それでも付いてきてくれる?」
「何言ってんだい、当たり前だろっ!」
「どこまでも付いて行きます」
「僕でよければ」
「ま、乗りかかった船だしねぇ〜」
「最後まで付き合うよ」
「……ありがとう、皆」

 その迷いの無い言葉に、胸を温かくしながらアリサが腕を天に突き上げる。

「海鳴戦隊バニングスレンジャー!!私達の戦いはこれからよ!!」
「「「「「おおーっ!!」」」」」









 突如として現われたライバル、粉砕戦隊ナイツンジャー!!

 さらに現われた第三勢力、海鳴の守護天使ヤテンホワイト!!

 彼らの出現でバニングスレンジャーの戦いは激化していく!!

 しかし、彼らに敗北は許されない!

 彼らの手に海鳴平和がかかっているのだから!!

 海鳴市に平和が訪れるその日まで!

 戦え、バニングスレンジャー!!
 負けるな、バニングスレンジャー!!






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