リリカルなのは SS

聖夜の集い

「ねー、なのはママー、フェイトママー」
「なぁに、ヴィヴィオ?」
「どうしたのかな?」
「サンタさんってなぁーに?」
「…そっか。もうクリスマスだもんね。サンタさんの事、誰かから聞いたんだ」
「ヴィヴィオ。サンタさんって言うのはね、良い子の所にプレゼントを持ってきてくれる人の事を言うんだよ」
「サンタさん、ヴィヴィオのところに来るかな?」
「うん、大丈夫。きっと来るよ」
「だって、ヴィヴィオは良い子だもんね」
「わーい、早く来ないかなぁ。サンタさん」



































「あどけない幼女の御呼びに応えるサンタ、サンタクローノ!!!」

 ジャッジャジャーン、という効果音と共に現われたのは、雪と共に舞い落ち、聖夜に光臨した我らがサンタ、サンタクローノ。高い煙突の上で何故か、尻を突き出すような低空姿勢で複数のカメラを意識しながらポーズを決めてイェイェイェェーイと登場である。

「ちなみに、スパ〇ダーマンは元サンタで昔の名前はサンタクロースパイダー。その名のごとく、蜘蛛の様な動きでどんな壁だろうと縦横無尽に這い上がり、いかなる建物でもプレゼントを届けたサンタで、後にサンタから独立してアメリカンヒーローになったんだ。衣装が赤いのもその名残だったりするのだ。ここ、サンタ試験に出るから忘れないように」
「真顔で嘘をつくな!!」

 サンタクローノが取り出した『よく出るサンタ試験問題集』を叩き落しながらツッコミを入れるは、我らが淫獣。どんなに立派になっても昔の印象が強すぎて、未だに淫獣と呼ばれる彼は、過去の業が如何に重いのか我々に教えてくれる半面淫獣である。

「いや、何さその造語!?」
「何を空に向かって叫んでいるんだ淫獣。まるでそこに的確な地の文があるかのようじゃないか?」
「わかってて言っているだろ、君!!」
「まあ、そんな事はさておき今日はクリスマス。サンタが一夜の夢を叶えて子供達の未来を切り開く日だ」

 なにか微妙に最終回直前のような言い回しでサンタクローノが眼下に広がる町を見下ろす。星のように広がる町の灯が少しづつ消えていき、サンタが子供達の下へ訪れる時を秒針のように告げていた。

「で、何。今年も色々と子供達の教育上によろしくない事をするのかい?」
「何を失敬な。僕はいつだって少女達に夢と希望とフラグを振りまく生涯サンタだぞ。そんな事をしたつもりは一切無い」
「つもりが無いだけなんだよ、君の場合!!」
「故に今年もたくさんの夢と希望とフラグをばら撒こう………と言いたい所だが」

 そこでクローノは心底大きなため息をついて、残念そうな顔をしながら、愚痴るようにして淫獣にあることを告げる。

「実はこの度、僕は提督に就任してね。サンタクローノ提督になったんだ」
「え、そうなの。えーっと………おめでとう?」
「ありがとう。で、まあ非常に名誉な事なんだが同時に新人教育もしなくてはならなくてね。例年の通りとはいかなくなってしまったんだ」
「新人?」
「うむ、さっそくだが紹介しよう。カマンッ(巻き舌気味)!!」

 その呼びかけとばっさばっさという風切り音が空に響き、それと共にひゅるるるう〜というような落下音が響いてくる。

「上………?って、むぎゅるっ!?」

 その落下してきた何かは見事淫獣の上に着地する。適確に頭を踏み潰された陰獣は解読不能な叫び声を上げて、煙突の上に積もった雪に顔を埋めさせた。

「すいませんっ。サンタキャロース遅れました!」
「うむ、今の登場中々得点が高い。花丸を上げよう。それと陰獣、スカートの中を覗こうとしないでそこをどけ」
「いや、首ごと踏まれてから!顔上げられなかったから!」

 にゅるりとなんとか靴の下から頭を抜けさせた陰獣が思いっきり抗議の声を上げる。その声にクローノは悲しみを逸らすように空に視線を投げた。

「痴漢はやっててもやってないって言うよね……」
「いやいやいや!やってない人はやってないって言うから!!やってないからやってない言うから!!」
「まあ、それはさておきよく来たね。サンタキャロース」

 そう語りかけるクローノの前に現われたのは、バリアジャケットをそのまんまサンタ衣装に替えたような服を着たサンタ界期待の新人である。ちなみに最初の風切り音はキャロースの相棒である使役トナカイのフリードナカイのものである。

「それでは早速だが、サンタとして働いてもらう。いいな」
「はい、頑張りますっ」

 元気よく答えるキャロースを見て満足そうに頷いたクローノは、キャロースの肩に手を置いて内緒話をするように耳元で指令を伝える。

「それじゃ、今から裸にリボンで『プレゼントは私』という状態で、僕のベットの上で待って」
「何を妙な指令を与えているんですかー!!!」

 クローノの指令を遮り、ユーノのツッコミより早いツッコミが、煙突を駆け上がる雷光と共に入れられる。驚いたクローノが振り向くとそこにはサンタの衣装と同じ色の髪をした少年がそこにいた。

「む、君はキャロースとコンビを組んでいるサンタエローオをじゃないか」
「え、なんですかその名前は!?」
「何といわれてもなぁ。色々としょうがないじゃないか」
「何が!?」

 エローオの叫びにクローノはどうしたものかと考え込む。

「よし、わかった。候補を挙げるから好きなものを選ぶといい。
1 サンタエロース
2 モンデクロース
3 モンデエローオ さあ、どれだっ!?」
「……サンタエローオでいいです」
「全く我侭な。もういいからこれを持ってプレゼントを配ってくるといい」

 不服そうなエローオに眉を八の字にしながらクローノはキャロースとエローオにプレゼントが詰まった袋を手渡す。

「それでは、機動三課(サンタ)出撃だ!」
「いや、なにそのルビ?」

 クローノの号令を受け、フリードナカイがキャロースとエローオを乗せて聖夜の夜に翼を広げる。

「ねえ、エローオくん」
「いや、キャロ。ナチュラルに呼ばないで。それでなに?」
「一人で身体にリボンを巻くってどうやればいいのかな?」
「やらなくていいからね!?」

 そんなやり取りをするちびっ子サンタを見送りる。心配だが後ろにはこっそりザフィーラクロースが監督役として付いていっているから大丈夫だろう。まだ、犬と思われるみたいだし。

「さーって、しょうがないからサンタクロースバルとランスタクロースの様子を見てくるかなぁ」
「……その無茶苦茶な名前も受け入れてしまうようなイカれた世界で今更だけど、こんなにサンタがいてどうするのさ……」

 大した意味も無い、陰獣が愚痴るように呟いた言葉に、クローノは動きを停止させてぐっと拳を握りこんで虚空を睨みつけた。

「?どうしたのさ」
「ああ、そうなんだ」

 その様子に不思議に思いながら首を傾げる陰獣にクローノは衝撃の事実を告げる。

「今、世界は危機に晒されている!!!」
「え、そんな展開なの、この話!?」

 唐突な展開に愕然とする陰獣にクローノはぽつぽつと世界の状況を語り出す。

「夢を叶える事がサンタの役目。だが、サンタグレアム提督が起こした闇のプレゼント袋事件をきっかけに子供達の夢ではなく、自分達の夢────欲望を叶えようとするサンタが現れるようになってしまったんだ」
「それ、君がその筆頭だよね」
「それは徐々に、だが確実に数を増やしていき、もう歯止めが利かない所まで来てしまっているんだ」
「ほんと、どこに行くんだろうねこのSS……」
「そこで結成されたのがあらゆる状況に対応できる独立部隊、機動三課(サンタ)なんだ」
「…なんて酷い貧乏クジ引いたんだあの二人」
「だが、まだ機動三課(サンタ)の面々はまだ未熟。彼女達が成長するまでは僕が頑張らないといけないんだ」

 陰獣の言葉をことごとく無視して決意を新たにするサンタクローノ。

「なら、おめーを倒せば機動三課(サンタ)はお終ーだな」

 そこに響く、少女の声。驚いて振り向いたクローノの目には入ったのは紅のサンタの姿。

「っ!?君は鉄槌のサンタ、ヴィータクロース!!なら、その手に持つのは鉄のトナカイ『グラーフトナカイ』かっ!?」
「相変わらずトナカイの名前無茶苦茶だね!?」
「ヴィータさんだけではありませんよ」

 続けて響き渡る声。そちらに振り向くと帯状魔法陣の上に乗った髪の長い女性の姿が見える。

「陸上サンタ部隊のギンガクロース!雪を掻き分けるドリル(男の浪漫的な意味で)を持つ君までここに!?」
「……なんか向こうにも何かいるみたいだけど?」

 陰獣の言葉にクローノが視線を向けるとそこには二つの煙突の上に見える二つのシルエット。

「あれはサンタ界唯一の夫婦サンタ、リンディクロースとサンタクライド!見るのは初めてだが何故か全く他人の気がしない!!」
「いや、あれ思いっきり君の両親でしょ!!」
「しかし、二人組みのサンタはあのふたりだけではないのです!!」

 さらにリンディクロースとサンタクライドの反対側、そちらにある二つの煙突の上に同じシルエットながらサイズの違う影が二つ。

「聖夜に吹く祝福の風、リインタクロースB(ブルマ)Uと!!」
「リインタクロースB(ブルマ)T、参上です」
「いや、クリスマスにブルマ関係ないよね!?」
「よく見ろ!いや、やっぱよく見るなセクハラだから。ともかく、彼女達の履くブルマはいつもは深遠なる紺色だが、今日は─────サンタのごとく、赤い!!」
「赤ブルマってクリスマス仕様なの!?

 突如としてサンタ達に囲まれたサンタクローノと陰獣。冬の冷たく、張り詰めた空気がより場の緊張を高めていた。

「まさか、名高いサンタ達がこうも一度に集うなんてね………」

 余りの状況の悪さに笑いすらこみ上げてくる。
 だが、自体はさらに笑えないものに転がっていく事をクローノは思い知らされる。

『ならば、私も参加させてもらうとしようか』
「───────────!?」

 声と共に一人の男の姿を映し出す。その後ろにはこの場にいる者以外にも自分の存在を知らしめるための巨大なモニターが浮かび上がっておりその姿を映し出している。そのモニターに映る男の顔立ちは端整であったが瞳に宿す狂気が何もかもを歪め切っていた。一目で邪悪とわかる表情、危険を感じさせる空気、そんな自分を一切の疑いを持っていない事を象徴するような研究者としての白衣。
 そして──────────────────────頭には真っ赤なサンタ帽。

「サンタクロースカリエッティ!!!」
「最後の文で台無しな上に、ひどい名前だね!?」
『ごきげんよう、時空サンタ局の雄、サンタクローノ』

 陰獣の言葉は最早存在しないものとして(出番的な意味も含めて)、睨みあうサンタクローノとサンタクロースカリエッティ。どうでもいいが、非常に打ちづらい名前である(誤字誘発的な意味で)。

「一体、何をしにきたこの狂気のドクターサンタ!!」
『何、聖夜というこの日に私の研究成果を披露させて貰おうと思ってね』
「研究成果………?まさか!?」
『ご名答。かつて時空サンタ局も戦力強化のために手を染めた計画、サンタ機人「サンターズ」の完成だよ』
「名前だけ聞くと物騒なのかそうじゃないのか、判断に迷うね……」

 サンタクローノは怒りの眼差しでサンタクロースカリエッティを睨みつけながら、指を突きつけて彼を弾劾するように叫ぶ。

「貴様、まさかあの腐れ眼鏡をサンタにするなんて暴挙に出やがったのか!?そんな神と視聴者を恐れぬ行為は僕は裁いてやんよ、ゴルァッ!!」
「口調がおかしくなってるからね、君」

 激昂するクローノ。だが、それをあざ笑うようにサンタクロースカリエッティはクローノを見下ろしながら語る。

『ふっ、そんな機能も役柄も合わない愚かな事をする私では無いよ。例えば、プレゼントを渡すのは壁をすり抜けられるセインタクロースに任せるように能力に応じた役割を与えているよ。───────────ちなみにサンタクアットロはトナカイをやってもらっている」
「あー、ある意味適材な気もするけど、能力的には間違ってるよね……」
『そして!!」

 サンタクロースカリエッティは見せ付けるように大きく腕を広げると、聖夜に眠る全ての人間に響けとばかりに宣言する。

『次に披露するものこそ、私の研究の最高成果。ぜひ、活目して見てくれ給え!!!』

 その言葉と共にサンタクロースカリエッティを映し出すモニターに下に転移魔法陣が現われ、一人の少女が出現する。
 そう、彼女こそがサンターズ筆頭、サンタクロースカリエッティが生み出した五体目のサンタ機人。

『我が愛娘、チンククロースだっ!!!!』
「が、眼帯銀髪サンタだとおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」

 ものすっごい誇らしげなサンタクロースカリエッティに、ムンクもかくやな絶叫を上げるサンタクローノ。ちなみに当のチンククロースはかなり恥ずかしそうにしている。

「ぐふ………、さすがマッドクロース。とんでもないモノを出してきたな……」
「なんで君、片膝ついて吐血してるのさ……」
「だが、僕は負けられない。少女達の夢を叶えるためにもっ…………!!!」

 震える膝を奮い立たせ、全身を覆う虚脱感を気力でねじ伏せ、落ちそうな瞼を瞳に宿す炎で跳ね除け、凍てつく聖夜の雪を溶かしつくさんとばかりに魔力を漲させる。
 その根源は、彼の願い。聖夜に夢を託した少女達の望みを叶えるという彼の望み。
 そう、少女達の夢が響き続ける限り、サンタが屈する事など、有り得る筈が無い!!


















『ねー、なのはママー、フェイトママー』
『なぁに、ヴィヴィオ?』
「どうしたのかな?」
『サンタさんってなぁーに?』
『…そっか。もうクリスマスだもんね。サンタさんの事、誰かから聞いたんだ』
『ヴィヴィオ。サンタさんって言うのはね、ヴィヴィオをお嫁に貰ってくれる人だよ』
『わーい、ヴィヴィオ、サンタさんのお嫁になるー』













「しゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!漲ってきた!!」
「いや、冒頭とセリフ変わってるし!」

 全力全開、レベル7なサンタクローノ。だが、その尋常で無いオーラを見てもサンタクロースカリエッティの不敵な笑みは崩れない。

『ふっ。それでこそサンタ界の主人公。ところで一つ言っておく事がある。───────────私はサンターズを全員倒せないと甦る設定だったが、別に私を倒すだけでいい』
「ああ。僕も三期では結婚していた気がするが、そんな事は(このサイトでは)なかったぜ!!!」
『ふ───────────』
「うおおおーーー!!いくぜーーーーーーー!!!」

 サンタクローノがサンタクロースカリエッティに突進する。



 サンタの勇気が聖夜を救うと信じて──────────────────────────────!!

  (ご愛読ありがとうございました。次回のサンタたちの活躍にご期待下さい)

























「ねぇ、エリオくん」
「どうしたの、キャロ?」
「クローノ提督からもらったプレゼント袋、時々もぞもぞ動いてるけどどうしてかな?」
「さ、さぁ。何か入ってるんじゃないかな?」



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