リリカルなのは SS

仮面ライダー(夜)天王

 時空をかける電車『アースライナー』。
 そのアースライナーに乗って、時空の運行を守る少女がいた。
 少女は自分の世界を守るため、その時空の運行を乱そうとする敵と戦っているのだ。
 その敵の名は『原作』。
 彼らは原作とアニメの世界の分岐点である高町士郎の存在を消滅させる事で、アニメ版の世界で消滅してしまった自らの存在や出番を取り戻そうとしているのだ。
 当然、その時にはアニメ版のみに登場するキャラ達の存在は消えてしまう。
 だから少女は、アニメ版の世界、というか自らの存在を守るため仲間たちの力を借りて世界に迫る脅威と戦い続ける。

 人は少女の事をこう呼ぶ。

 ───────────仮面ライダー(夜)天王と。
































「ということで、仮面ライダー(夜)天王リインフォースUなのですー!」
「って待てやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 元気に挨拶するリインに間髪いれず突っ込みをいれるはやて。そんなはやてにリインは可愛く首を傾げながら尋ねる。

「どうしたのです?はやてちゃん?」
「どうしたもこうしたもあるかいっ!え、これタイトル的に私が主役やないんか!?」

 至極最もな話である。しかし、そうなってしまうと作品的に大きな障害が生まれてしまうのだ。

「でもはやてちゃんが主役だと、リインしか融合できないのです。それだと各フォームを表現できないので諦めてほしいのです」
「いやいやいや!設定に無理があるなら無理にやるんやないっ!」

 ちなみにはやてと融合するとウイングフォームに変身する事が出来、他の仲間達とは一線を画す存在であるため、皆からは『クイーン』と呼ばれている。

「び、微妙に優遇されてるけどこれで我慢せえってことか……?」

 自分のいいんだか悪いんだかわからない位置づけに心底複雑な表情をみせるはやて。そのはやてに声をかける者がいた。

「主はやて。余りお気にしないように。例え、どんな立場であろうと我らの忠誠は変わりません」

 そう言ったのは仲間達のまとめ役であるシグナム。リインは彼女と融合する事でソードフォームに変身する事が出来る。

「そうだ、はやてがあたし達の家族には違いないんだ」

 シグナムの言葉を自分なりの言葉で継ぐヴィータ。そのヴィータと融合する事でリインはハンマー(アックス)フォームに変身する事が出来る。

「主、二人の言うとおりです」

 短くも二人と同じ意を告げるザフィーラ。リインは彼と融合するとナックルフォームに変身する事が出来る。ちなみに位置づけ的には『青』に相当しており、理由としては彼が青い事と硬派な色気を漂わせているためである。

「そうですよ〜。だから、そんなに落ち込まないで。ね、はやてちゃん」

 おっとりとしながらも明るくはやてを励ますシャマル。そんな彼女とリインが融合するとガンフォームに変身する事が出来る。

「……え!?な、なんで私がそのポジションなんですか!?」

 無論、消去法である。他のフォームはより似合わないし。

「ま、またですか!?なんで私はいっつも消去法なんですかー!?私はリュウタみたく子供っぽいんですかー!?」
「シャマルが子供っぽかったら、私どないすればいいんやろ……?」

 速攻で落ち込むシャマルとその発言に引きずられてまたも気落ちするはやて。

「いーじゃんか。そこしか役どころないんだから我慢しろよー」

 はやてを落ち込ませた事の避難も込めてヴィータがシャマルを咎める。だが、気落ちしたシャマルの沸点は意外と低くなっており、キッとヴィータを睨んで言い放つ。

「そうです!ヴィータちゃんがこのポジションになればいいんです!私達の中で一番子供っぽいんですし!!」
「落ち着け、シャマル。そうするとお前がアックスフォームをやらなければならなくなるぞ!?」
「いいんです!どうせ、合わないのはガンフォームも一緒ですから!!」
「つーか、誰が子供だー!!」

 そう叫んでシャマルに飛び掛るヴィータ。急に覆いかぶさるように襲ってきたヴィータにシャマルは対抗できず、座っていた椅子から派手に転げ落ちる。そんな二人を止めるべくシグナムが割り込むが、暴れるヴィータの拳が顎にヒットしたところで三人の乱戦に移行してしまう。

「み、皆喧嘩はダメなのですー!」

 リインが必死になって止めるが一向に耳を傾けてくれない。はやては落ち込んだままだし、ザフィーラは我関せずと車内の隅で丸くなっている。意外と薄情なものだ。

「………いい加減に」

 そこに響く声。その声に暴れていた三人はまずいと悟るがもう遅かった。

「するの───────────!!!」

 車内に溢れ出す閃光。それとともに起こった爆発にヴィータ達は黒焦げになって、倒れ伏す。

「もう、何度繰り返せば気が済むんですか!」

 そう言って腰に手を当てて倒れた三人を見下ろす一人の少女。彼女の名はなのはさん。砲撃一つで喧嘩を静める彼女はもっぱら『一番強いのはなのはさんじゃね?』と囁かれている。
 が、そんな彼女でも頭の上がらない人物が一人。

「あらあら、なのはさん。また、車内で砲撃なんかぶっ放しちゃって。そんなに降りたいんですか?」
「えっ!?い、いやこれは思わずと言うか仕方なくと言うか〜……」
「まーまー、オーナー。いつもの事なんだから穏便にー」

 そういって笑顔でなのはさんを脅すのはアースライナーのオーナー、リンディ。そのリンディを押さえてなのはさんを庇うのは乗務員のエイミィ。
 以上がこのアースライナーに乗って時空の運行を守る仲間たちである。










「もう、とにかく皆暴れたりしちゃいけませんっ」

 そう言って場を締めようとするなのはさんを皆が『お前が言うな』という視線で見る。見るだけである。口に出したら痛い目を見るのは自分だからだ。

「そんな事より、お腹がすいたのですー」
「ふむ、言われてみれば」
「なんか食いにいこーぜー」
「じゃあ、皆で翠屋に行きませんか?」

 翠屋とはなのはさんの姉、……ではなく母親の桃子が経営する喫茶店である。姉の美由希でないのは彼女が料理なんか作ったら、すぐに店が閉店してしまうからだ。いや、お姉ちゃんが作る健康食は似たようなレベルだったかもしれませんが。

『い、いいよ!どうせ、原作だろうがアニメだろうが高町家で料理できないのは私だけなんだからー!!』
「いま、何か魂の叫びが聞こえたような」
「私には聞こえんかったけど。それより、はよう行こうか」

 そう言って立ち上がるはやて。それに合わせる様に、車両間を繋ぐ扉が開き慌しく誰かが入ってくる。

「皆、大変だ!原作がまた時空を超えて暴れているぞ!」

 入ってきたのはクロノ=ハラオウン。高町士郎から時空の運行を守るよう頼まれて、クロライナーに乗ってリインと共に戦う仲間である。

「あ、クロノさんですー」
「翠屋行きは中止だな」
「なんだよー。腹減ってるってーのによー」
「致し方あるまい」
「それで、クロノさん。一体原作はどの時空で暴れているんですか?」

 そう問われてクロノは後ろを振り向く、そこにはクロノと相棒として一緒にクロライナーに乗っているフェイトの姿があった。その手には原作が向かった時空の日時が書かれたチケットがあった。

「はい、クロノ」
「ありがとう。……原作が向かった時間は2004年10月2日だ」
「えっと、その日って何か特別な事があったのかな」
「アニメ版魔法少女リリ〇るなのは第一回放送日だ」

 ちなみにこれはこちらの地域の放送日なので、別地域の人だと違うかもしれないけどそこは気にしないで下さい。

「ほんならちゃちゃっと行って片付けよか!」

 はやての言葉に一同が頷く。
 そうして、アースライナーは2004年10月2日へと向かったのであった。









「はぁ、はぁ、はぁっ………!」

 一人の少年が息を荒くしながら森を駆ける。
 少年の名はユーノ=スクライア。この世界とは違う異世界で遺跡発掘を生業とする一族の少年である。
 彼は自分が発掘したロストロギア『ジュエルシード』を事故とはいえ散布させてしまい、その責任を感じてジュエルシードが散らばったこの時空に回収へやってきたのだった。
 が、そこで彼を待っていたのは突然の襲撃。
 なんとか致命傷だけは避けているものの、不可思議な攻撃を放ってくる襲撃者に防戦一方だ。最も、自分が攻撃魔法を得意としていない事は十二分に承知しているが。
 だが、最も不可思議なのはその相手。何故そう感じるのかは自分でもわからない。それを確かめるためにユーノは疲労の汗で拭って滲みそうになる視界を開く。
 相手は自分と同じくらいの歳の少年。黒の装束を身に纏い、それと同じ色の髪の色をした少年。その手にはデバイスと思われる杖が握られている。
 会った事の無い、初めて見る相手。なのに何故か近い将来顔を合わせるようなそんな予感を感じるのは何故だろうか。
 そして、だと言うのにそこにソレが存在する事に激しい違和感を感じる。

「ここまで、だ」

 その少年がユーノにデバイスを向ける。その言葉の意味はユーノもよくわかっている。もうこれ以上、少年の攻撃を凌ぐための魔力は残っていなかった。

「思えば、アニメ版と原作が大きく差別された一因は君にあった。本当は士郎さんを消しに来ただけだったけど、ついでだから消させてもらう」
「あ、アニメ版と原作…!?一体何を言っているんだ!?」
「君が知る必要は無い。一応これ、本編中に話に関わっているので、今の君は一次だ。その君がその意味を知るのは激しくまずい」

 だから何の事だ。そう問おうとするユーノの問いを遮るように、ユーノの周りを白い靄のようなが包んでいく。
 それはイデアシードと呼ばれる種から生まれたゴーストという存在。それは人や動物の持つ記憶をエネルギーに変える能力を持っているのだ。

「君にはレイジングハートだけを置いて退場してもらう。記憶の方は人間だったという事も忘れさせて、フェレットとして生きてもらおう」
「ちょ、何そのもう二度と出て来れない様にする念の入れよう!?」

 そう言う間にゴーストに包まれ、激しい頭痛に負われるユーノ。今さっき自分がかわした会話が白く薄らんでいく感覚。それに塗りつぶされるように意識もだんだんと希薄になっていき、、何もかも全てが埋もれてしまいそうになる。


「むっ」

 その瞬間、少年とユーノの耳に電車の汽笛の音が響く。それに僅かに遅れて空間にレールが伸び、その上を電車が通過する。

「そこまで、なのですー!」

 その電車から一つの影が躍り出る。その影はゴーストに捕らわれたユーノに向かって一直線に向かっていき、こめかみに弾丸さながらの見事なドロップキックをお見舞いした。

「ぐがっ!?」

 ズサーッ!!と吹っ飛びながら地面を滑っていユーノ。と、同時にゴーストからの拘束から逃れ、記憶の変換からも逃れる。

「これ以上はこの仮面ライダー(夜)天王リインフォースUが許さないのですー!」
「来たか、仮面ライダー(夜)天王」
「あ、こんにちわなのですー、クロノさん」
「違う、僕はハーヴェイだ」

 そう、彼こそが原作代表として時空の運行を変えようとしている首謀者。どっかで見た事のある執務官の少年にくりそつな彼のことは便宜上ハーヴェイを名乗っている。

「ならハーヴェイさん!今日こそ、貴方を倒して時空の運行を守るのですー!」

 そう言ってリインはベルトを装着して右手に持ったライダーパスをバックルにかざす。

「変身、なのですー!」
『Gun Form』

 ベルトから発した機会音声と共に、リインの姿が仮面ライダーとしての姿に変わっていく。そのこつ〇ーのMS少女ならぬライダー少女といった模様だった。

「(リンカーコアを)抉るけどいいですよね?答えは聞きません!」

 リインに宿ったシャマルの言葉にハーヴェイが手にした杖───S2Uを構える。

「記憶よ。僕の思い描く形を取れ」

 言葉と共にS2Uの先端が光り輝き、そこから零れ落ちた光が人の形を作り出す。
 これこそ、ハーヴェイがユーノに不可思議な攻撃と称させた彼の能力。自らの記憶を形にする能力である。
 そうして、彼の記憶から生まれた光は。

「あ、どうも。こんにちわー」

 ドジッ娘な巫女さんの姿を形作った。

「え?あ、どうもご丁寧に」
「ええ?いえいえ、こちらこそ」

 挨拶を繰り返しながらペコペコと何度もお辞儀をする二人。その二人は頭を下げたり上げたりを繰り返しているため、お互いが近づいてきていることに気が付かない。

「いえいえいけ、本当にこちらっ!?」
「そんなそんな、ほんとこっちこ!?」

 ガツンッ、といい音をさせて互いの額を激突させる二人。余りの痛みに二人してその場に座り込んでしまう。

「い、痛いです〜……」
「あ痛たたた〜……
「……なんや、これ?」
「……ドジッ娘対決?」

 頭痛を抑えるように頭に手をやるはやての問いにフェイトがポリポリと頬を掻きながら答える。

「あの、………戻ってもらっていいですか?」
「ご、ごめんね。クロ………ハーヴェイ君」

 非情に苦い表情をしながら言うハーヴェイの言葉に心底申し訳なさそうにして元の光の玉に戻るドジッ娘巫女さん。それから、オホンと咳き込みながらハーヴェイが何事もなかったかのように再びS2Uを構える。

「記憶よ。僕の思い描く形を取れ」
「こっちも仕切りなおしなのです!」

 リインがベルトのバックルに指を伸ばし、青色のボタンを押す。

『Knuckle Form』

 機会音声と共にリインの姿がガンフォームからナックルフォームへと変わる。

「貴様、俺に殴られてみるか?」

 変身を完了させ、拳を相手に突き出してザフィーラが言葉を放つ。

「くぅん?」

 一方、その言葉を突きつけられた300年を生きている幼女な妖狐は可愛く首を傾げた。

「…………」

 突き出した拳が何か非情な気まずさを漂わせながら固まる。それでもなんとか首だけを動かしてザフィーラが非難めいた視線を向ける。

「これは、どういう事だ」
「どうもこうも彼女は僕が最も信頼する人物(?)の一人だ」

 その言葉にザフィーラは視線を再び幼女な妖狐に戻す。

「くぅん」
「………」
『Hammer Form』

 ザフィーラが黙って、赤色のボタンを押すとリインの姿がハンマーフォームへと変貌する。

「あ、てめっ、ザフィーラ!逃げんなよ!」
「……あれに殴りかかるのはさすがにまずかろう」
「切り替わったか。なら、こっちも……!」

 ハーヴェイがS2Uをかざすと幼女な妖狐は光の球へと戻り、今度はそれが二つに割れて二人の姿を作り出す。

「おーっす!」
「こんにちわ〜」

 今度は空手家少女と関西系中国少女の登場だった。

「今度は二人がかりか。いーぜ、相手になってや………」

 その時、ぐぅ〜という大きな虫の音がヴィータのお腹から響いた。

「……あたしのお腹が空腹に鳴いた」

 そういって耐えられないと言うように、その場に座り込むヴィータ。

「なんだ、腹が減ってるのか?」
「あ〜、ほんなら」

 ヴィータの様子に相手の二人は顔を見合わせると、ヴィータの目の前に包みを差し出す。

「……なんだ、これ?」
「弁当対決の残り。テーマは懐かしのお弁当だぜ」
「ふっふっふ。これであの時つけられんかった決着をつけさせてもらおか」
「へっへっへ。吠え面かくなよ、カメ」
「そっちこそなぁ。サル」
「なんでしょーか。あの二人が喧嘩しそうになると物凄く止めたくなるんですがー…」

 二人組みとして登場したのに、何故か内部抗争を勃発させた空手家少女と関西系中国少女を見て不思議な感覚に捕らわれるなのは。そんな中、ヴィータは黙々と二つの弁当を平らげていく。

「ふぃー。ご馳走様ー」
「おう、お粗末様」
「で、どっちのお弁当が美味しかった?」
「当然、俺のだよな」
「何言うとんねん、ウチのに決まっとるやないか!」
「ぐぬぬぬ……」
「むむむむ……」
「「どっち!?」」

 二人が借金の返済を迫る勢いでヴィータに問い詰める。当のヴィータは食後のお茶を飲みつつ、のんびりとしながらこう言った。

「はやての方がギガ美味」

 チュドーン!という効果音と共に撃沈する二人。一応、痛み訳でいいんだろうか。

「ええ子やなぁ、ヴィータは」

 そんなヴィータをなでなでするはやて。このアットホームさこそ(夜)天王の醍醐味の一つだろう。

「……どうでもいいが、グダグダ過ぎないか。この戦い」

 これまでの様子を見ていたクロノが苦虫を噛み潰した顔で呟く。それに答えた訳では無いだろうが、ハーヴェイもぽつりと呟く。

「あの二人が退けられるなんて……。もう、余り余裕は無いか」

 そう言ってハーヴェイがまたもS2Uをかざし、自らの記憶を形として形成する。
 今度生まれたのは、二刀の小太刀を構えたダークスーツの女性。眼光は手にした小太刀に劣らず鋭く、彼女の発する気は周囲の空気を圧迫するほどに重い。
 その女性の放つ気にクロノがリインに警戒を促す。

「今度は本気で来るようだな……。リイン、僕も手伝うけど油断しないように」
「はいなのです!」

 その言葉を聞きながらクロノがベルトを装着し、一枚のカードを取り出す。これこそ、クロノが仮面ライダークロノスに変身するために使用するクロノスカードである。このクロノスカードは使うごとに周囲の人間の記憶………ではなく、彼が今まで立ててきたフラグが消失するという正に自らの身を削る恐ろしいカードなのである。

「変身!」

 言葉と共にクロノがクロノスへと変身する。それと共に、また一つフラグが消失したがストライカー行きのフラグである事を願わずにはいられない。

「最初に言っておく。僕は……凄く、弱いから」
「……それは僕のセリフだ」
「わー、クロノさん格好いいのです!リインも負けていられないです!」

 リインは言いながらベルトのバックルに指を伸ばし、今度は薄紫色のボタンを押そうとする。

「待て、リイン」

と、その前にシグナムから声が掛かった。

「なんですか、シグナム」
「いや、そのだな。これから私が呼ばれる訳だが、アレはやらないと駄目なのか?」
「駄目なのです!アレをやらずして(夜)電王は名乗れないのです!!」
「……是非もなし」

 シグナムの呟きを余所に、リインが今度こそ薄紫色のボタンを押す。すると、リインの姿がハンマーフォームからソードフォームへと変身する。

『Sword Form』
「………私、参上!!」

 物凄く恥ずかしそうにしながらも、きっちりとセリフとポーズを決めるシグナム。本当に真面目な人である。そんな姿に周りの仲間達は、必死に笑いを堪えようとして『ぷくく…』と思いっきり失敗している。

「……」

 だが、相対するダークスーツの女性はそんな状況を見ても僅かにも笑いもせず、ただ二刀の小太刀に敵意を込めて構えるのみ。その気を感じ取ったシグナムは瞬時に気を引き締めて、レヴァンティンを構える。

「───────────」
「っ!」

 開幕の機先を感じさせずに、ダークスーツの女性が小太刀を振り下ろす。初動とほぼ同時とすら感じられるその一太刀をシグナムはかわしながら斬撃を放った右とは反対側の左へと回り込み、レヴァンティンを振るう。ダークスーツの女性は左の小太刀でそれをいなすように逸らすと一歩踏み込んで長剣を振るう間合いを潰しながら右の小太刀の柄をシグナムの腹部に叩き込もうとする。
 かわし切れない。そう判断しながらシグナムは柄が腹部に接触した瞬間、身を捻って打撃を逸らして攻撃を避けるとそのまま後方へと飛んで一旦距離を取る。
 が、間髪入れずダークスーツの女性がどこからか飛針を取り出し、シグナムへと投げ放つ。追う様に放たれたそれは後方へと飛んだ体勢では避ける事が出来ず、シグナムはそれをレヴィンティンで叩き落す。
 その着地までの間に起こした行動でシグナムの動作にほんの僅かな遅れが生じる。その僅かな隙に踏み込むようにダークスーツの女性が距離を詰めて小太刀を振るう。
 右と左の小太刀から放たれる二連撃。一振りの剣しか持たないシグナムの二つの攻撃を受ける事はできない。
 ───────────ただし、一振りの剣のみでの話である。

「!?」

 両の小太刀から硬質的な物を叩いた感触が伝わってくる。見れば、シグナムの右手にはレヴァンティン、その逆の手にはその鞘が握られており、それがダークスーツの女性の小太刀を受け止めていた。

「ふっ!!」

 受け止めた鞘で小太刀を弾き、刀を返すようにその先端をダークスーツの女性に打ち放つ。女性は後ろに下がってそれをかわそうとするがシグナムの切り返しのほうが早い。鈍く胸を穿たれ、一瞬呼吸が止められたかのような鈍痛が走る。
 そこへ追撃を入れようとするシグナム。それを見たダークスーツの女性が腕を一閃させる。
 それは長剣を持つシグナムにすら遠すぎる間合い、互いの手に持つ得物では届くはずのない距離。
 それでもシグナムは直感的に踏み込もうとした足を止め、上体を後方へと逸らした。
 次の瞬間、シグナムの前髪の数本が空を舞う。避けられたを確認しながらダークスーツの女性が放った鋼糸を引き戻す。それで相手が放ったものが何なのかをシグナムは理解するが、もし避けるのが僅かにでも遅かったらと思うと、背筋に冷たいものが走った。

「……え、なにこのガチバトル?」

 その様子を見ていたはやてがぽかんとして呟く。その心境は第一期第三話で魔砲をぶっ放したなのはを見た原作から来た視聴者にも似ていた。

「……それはそうと、互角の勝負だ。どっちがわからないから援護しないと。フェイト!」
「うんっ」

 クロノの呼びかけにフェイトがクロノの後ろに回りこみ、そっとその背中に抱きつく。

「って、フェイト!?何をしてる!?」
「こうしないと、変身できないから……」
「な───────────!?フェイトちゃん、ずっこい!!私と代わって!!」

 まあ、そんな事がありつつフェイトはクロノスと一体化しバルデッシュフォームへと変身する。

「最初に言っておくよ。私は……凄く弱いから」
「だから、それは僕のセリフ……」
「ううん、これ三期のセリフだから」

 そんな風にセリフ一つの所有権を巡って言い争いに発展しそうになるが、それはある人物の姿が見つかった事により止まる事になる。

「………見つけた」
「なに…………!?」
「おとーさん!?」

 それはアニメの世界を守るため、原作の魔の手から逃げている高町士郎の姿。その姿を見つけた瞬間、ハーヴェイは行動を開始していた。

「まずは、記憶を………っ!」

 ハーヴェイがS2Uを士郎に向けて、魔力を放つ。意識を刈り取ったところでゴーストを放ち、士郎の記憶を奪う算段だ。

「させん!」

 それを止めようとシグナムがハーヴェイと士郎の間に割って入る。だが、レヴァンティンでは拡散した状態で放たれた魔力を防ぎきる事が出来ない。その隙を突こうとダークスーツの女性が刺突の構えを取る。

「危ない、シグナム!!」

 危険を感じたクロノはタックルの要領でシグナムに飛びついて、ハーヴェイの攻撃をかわし──────シグナムという障害がなくなった魔力が士郎に向かっていく。

「!?」

 そのクロノの行動にハーヴェイは困惑を覚え、その動きを止める。その隙にハーヴェイの魔力をかわした士郎はその場から立ち去って、この世界から離脱する。

「………何故、士郎さんを顧みずシグナムを助けた?士郎さんがいなくなったらアニメ版のキャラは消えてしまうと言うのに?」

 つまり、あの場でシグナムを助けたとしてもそれによって高町士郎の存在が消えてしまったらそれはシグナムの存在の消失を意味する。否、シグナムだけではない。その他のアニメ版のキャラすら消えてしまうのだから、命と言うものを天秤にかけるとするならどちらを選ぶかは明白であろう。

(確かに命を数で扱うような人間ではないが………いや、それを差し引いても行動に躊躇いがなかった)

 困惑は疑念を呼び、ハーヴェイにこれ以上の先頭の続行を躊躇わせた。

「……ここは引くとしよう」

 そう言ってハーヴェイはダークスーツの女性の姿をかき消すと、身を翻してその場から姿を消す。

「逃げてしまったのです……?」

 そのあっさりとした引き際に戸惑うリイン。

(この子、怪我をしてる……)

 そこに聞いたことのある声が聞こえてくる。どうやら、この世界のなのはがユーノを見つけたようだった。

「ゆっくりしている場合じゃないな、僕達もアースライナーに帰ろう」

 そうして、リイン達は2004年10月2日の世界からアースライナーに戻るのだった。











 数日後

「それにしてもなんだったのだろうか?ハーヴェイの行動は?」

 ここ数日は原作の動きもなく、アースライナーで時間を過ごしているとふとシグナムが数日前の戦闘の事を口に出した。

「知らねーよ、あんな奴の事なんて」
「でも確かに不自然な逃げ方でしたね……」
「何か理由があったのではないか?」

 ヴォルケンリッターが思い思いに意見を述べ、あーでもないこーでもないと議論に突入しはやてが聞き手に回りながら話をまとめる。が、途中で口論が喧嘩へと発展し、それをなのはさんが止めると言ういつもの光景

「クロノさん?」

 その間にも深刻な顔をしているクロノにリインが呼びかけるが、返答はなかった。

「────ともかく、何故彼がそこで身を引いたのか。疑問は残りますが、今の段階では、答えは出ないようですねぇ」

 そう言って、リンディがエイミィが入れたココアに砂糖を入れながらそう結論を述べる。

「────なら、その疑問に答えようか」

 その言葉と共にドアが開き、一人の少年の姿が現われる。

「なにっ、お前はハーヴェイ!?」
「待つんだ。今日は君達と戦いに来たわけじゃない」

 レヴァンティンに手をかけたシグナムをハーヴェイは手で制する。それに怪訝な顔をしながらもシグナムがハーヴェイに問う。

「では、何のようだ」
「この戦いの真実を明らかにするために」
「真実だと………?」
「そう、真実だ」

 言いながらハーヴェイがゆっくりと車両の中を歩いていく。そのまるで敵意を感じられない動きに一同は逆に動く事が出来なかった。

「この戦いは、出番のなくなった原作キャラがその出番を取り戻すため、士郎さんの存在を消そうとした事から始まった」
「だが、高町士郎さんの存在はアニメ版と原作の境目────分岐点とも言うべき存在です」

 ハーヴェイの言葉を唯一気圧される事なく聞いていたリンディが継ぐ。

「そう、だからもし士郎さんが消えてしまって原作の世界が訪れたら、アニメ版のキャラ達は消えてしまう」

 それを肯定するように一度頷いてから、しかしハーヴェイは次の言葉と共に首を横に振った。

「だが、違ったんだ」
「違った?」
「………疑問を抱いたのはこの間の戦闘の時だった」

 そう言ってハーヴェイは自分と同一の存在であるクロノへと顔を向けた。

「何故、彼は何の躊躇いもせずシグナムを助けたのか?もし、あそこで士郎さんの存在が消えてしまったら、何もかもが終わってしまうと言うのに?」

 その言葉にクロノは答えず、ぐっと唇を引き結んだ。

「彼は知っていたんだ───────────例え、高町士郎の存在が消えても全てが終わるわけでは無いと」
「なんやって!?」
「そう、アニメ版と原作の真の分岐点は士郎さんじゃなかったんだ」

 その衝撃の事実に一同が凍りついたところで、ハーヴェイが自分が入ってきたドアとは反対側のドアのところに行き着く。その背中になのはさんが語りかける。

「じゃ、じゃあ!アニメ版と原作の本当の分岐点ってなんなの!?」
「───────それこそが、この戦いの真実」

 そう言ってハーヴェイはゆっくりと振り返り、その真実を突きつけるようにソレを指差した。

「原作とアニメ版の真の分岐点、それは───────────


































 エイミィ、君だ」
 「げえ、あたし!?」

 いきなり、驚愕の事実を突きつけられて飲んでいたコーヒーを盛大に吹くエイミィ。

「ちょ、ちょちょちょちょちょっと待てーい!?何ゆえにそうなるのか!?」
「いやだってほら、君がいなかったら僕キャラ変わってなかっただろうし。そうなったら主人公属性も薄れず、なのはとのフラグも消えなかったんじゃないかなーと」
「いやいやいや、そんな事は、って何故に貴方達はあーそうかもー、な顔で頷いておるのか!?」
「その影響でなのはが年相応になってたら、魔王とか呼ばれなかったかもしれないし、その作用でなのはが原作寄りになれば、原作キャラもその影響でその存在を確立する事も出来る。まさに万事解決」
「ええ、なにその影響の及ぼし方!?ちょ、なのはちゃん、なんでレイジングハートこっち向けてるの!?」
「えーと、だとすると何でクロノさんはそれを黙っていたのでしょーか?クロノさんにとってもいい話なのに?」
「いい話って!?命の価値を数で図るのはナンセンスって誰か言ってなかったっけ!?」
「……でも、それは確実な未来じゃない。それなら今ある世界を───────皆を守ろうと思った。それで僕が犠牲になるならそれでもいいと思ったんだ」
「クロノさん………!」
「ちょっとキラキラした目で見てるけど、言ってるのは自己犠牲に見せかけたあたしとの結婚否定だからね!?」
「だけど、僕はもうその真実を知ってしまった。だから、今を戦って未来を変える!」
「な───────────!?ハーヴェイがクロノ君の名台詞を取って場をまとめようとしてる───────────!?」
「わかりましたです!リインもお手伝いするのです!!皆、てんこ盛りでいくのです!!」
「最初からクライマックス!?ええ───────────い!殺られてなるものか、こうならばスラコラサッサーイ!!」












 こうして、エイミィとリイン達の時空を跨いでの逃走劇が始まった。
 原作キャラたちの出番は?
 リイン達との共存は?
 クロノとハーヴェイ、同一の存在である彼らの行き着く先は?
 なのはが成るのは魔王か天使か?

 全ての答えはここにある。

 劇場版 『仮面ライダー(夜)天王 さらばエイミィ リリカル・カウントダウン』

 20008年10月4日、公開予定



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