狐のお嬢様ハント
なし崩しデート編
「それじゃ、クロノさん。ありがとうございました」
「また今度いらして下さいね〜」
ファリンさんが戻ってくるまですずかの護衛を努め、ファリンさんが戻ってきた後も彼女達にしばし付き合ったところで、家に帰る二人を見送る。
「さて」
手を振る二人の姿が見えなくなったところでこれからどうするかを考える。家に帰るか、高町家や八神家にお邪魔するか、どこかをふらふら散歩するか。どちらにしろ、来た道を戻るように駅前を通る必要があった。
「………」
そこで、ふと姿を消したフォックスのことが気になった。先ほど退散したように見せかけてどこかに潜んでいるかもしれないと冗談のように思ったが、案外冗談では無いかもしれない。
彼の諦めの悪さというか、懲りないっぷりは彼に関わった関係者各員からよく知らされている。彼の飛行制御を参考にしようと、一緒に訓練に行ったフェイトは顔を真っ赤にして帰ってくるし、意外と教え上手と聞いてなのはが訓練メニューの相談に行ったら訓練室が半分焦土と化したし、はやて達の捜査に協力すると言ってついていったのに帰りにその姿がなくその事を聞くとヴォルケンリッターが害虫を潰したかのような顔をしたりした。
そのいずれの後にフォックスの病院行きの報告を受けているのだが、それ以降も彼は自重する事無く、彼女達にちょっかいを出し続けているらしい。ちなみに一度何があったかを詳しく聞こうとしたら顔を真っ赤にしながら鬼の形相で睨まれたので聞けなかった。
見舞いがてらにフォックスに尋ねてみたら、
「それはだな、お嬢ちゃんたちの下」
と言いかけたところで、どこからともなく現われた三人がフォックスをボコボコにして、怖いくらいの笑顔をこちらに向けてきたのでそれ以来怖くて聞けていない。────ピクピクしながらなのは、フェイト、はやてを指差して白・黒・ピンク、とか言っていたが僕は何も聞いていないです。
「……まぁ、そんな訳で一応様子を身に来てみたのだが」
呟きながら、頭痛を堪えるようにこめかみの辺りに手を当てる。自分の眉間に皺が刻まれているのが鏡を見なくても分かった。
何故なのかは言うまでも無い。
「悪いようにはしないって。全部俺持ちだから損はしないぜ?」
速攻で全く懲りた様子の無いその姿を見つけてしまったからだ。
「おまけにあれは」
それだけでも頭が痛いというのに、フォックスがナンパしている相手を見たら苦虫を噛み潰したような気分になる。
「あー、もうしつこいわね。いいって言ってるでしょ」
と言うのも、その相手がまた身内の関係者だったりするからだ。
「今度はアリサか………」
一体どんな巡り合わせなのか。その意味を神に問うてみたい気がしたが、さし当たってはやる事があった。
「おい、こら──────────」
言いながら、二人に近づく。すると、こちらと向かい合っていたフォックスが僕の姿を見つけて顔を引き攣らせまま硬直し、その様子を訝しんだアリサがこちらを向き、僕を見て顔を明るくさせ─────。
「じゃ、あたし彼と待ち合わせだからっ」
くるりと身体をこちらに向けると、僕の腕を取って引っ張っていった。
「え?」
「そういうわけだから、次はもっと相手を選びなさいねー」
「あ、ちょっと」
声をかけるもアリサは取り合わず僕をずるずると引きずっていく。
「………」
困ってきょろきょろと視線を巡らすとフォックスと目が合った
(ニヤリ)
見〜ちゃった〜、見〜ちゃった〜、と言わんばかりの笑みを浮かべるフォックス。何を考えているかはわからないが何故かそれだけで背筋が冷たくなった。
「もう、早く行きましょっ」
そんな僕に気付く事無くアリサは力いっぱい僕の腕を抱いてその場を去るのだった。
「あ〜、助かったわクロノさん。ありがとっ、ってどうしたの?」
「いや………」
フォックスから十分に離れた所でアリサが僕の腕を放す。無事に危機を乗り切った彼女はほくほく顔だったが、僕の微妙に沈んだ顔を見て眉を顰める。
「なに?さっきの事気にしてるの?でもあの場合は、あれが一番手っ取り早いでしょ?」
「まぁ、確かにそうなんだが」
それが知り合いだった場合、その限りでもない。それを説明しようかと思ったがあまり意味が無いことだと思ったのでやめておいた。
「で、君は一人で何をしてるんだ?鮫島さんもいないようだが」
きょろきょろと辺りを見渡す。いつもアリサの傍に控えている彼の姿は見当たらない。もしいたとすれば、フォックスが絡んできた時に既に姿を見せていただろうが。
「あたしだってまたには一人のときもあるわよ。今日は遊びに来てるんだし」
「遊びに?」
「そ、映画を見にきたの」
そう言ってクイクイと向こうを指差す。見れば確かにそこには映画館がある。どうやらフォックスから離れつつ目的地に向かっていたようだった。
「フェイトとかは誘わなかったのか?」
「今日見るのは結構あたし趣味な奴だからね。付き合わせることも無いかって」
そういうものか、となんとなく思っているとアリサが先ほどのように僕の腕を取った。
「……なんだ?」
「ついでだから、映画付き合ってよ。暇なんでしょ?」
「暇という訳でもない身なんだが」
「用事が無いのは確かでしょ?」
「何が狙いだ?」
「大人の懐の広さかしら」
「たかる気が……」
やれやれと思いつつ、腕を掴んでいるアリサの腕を解くと映画館に向かう。なんだかきょとんとしているアリサに肩越しに声をかける。
「いいさ、付き合おう。君にはフェイトが日ごろ世話になってるしな」
「……冗談のつもりだったのに。言ってみるものね」
「先を見通せないようじゃ、まだまだ子供だ」
僕の言葉にちょっとむっとした顔になるアリサ。どうも妹とその友人達は歳の割には子供らしくないがこういうところは歳相応だった。その事に苦笑しながら僕は受付でチケットを注文しようとしてアリサに尋ねる。
「で、何を見るんだ?言っておくと、僕はこの世界の映画の事は詳しく知らないから教えてくれないとわからない」
その言葉にアリサはちょっと考えるような仕草をして、ちょっと悪戯めいた笑みを浮かべる。
「じゃ、クロノさんが選んでみて」
「は?」
「ほら、そこに看板あるでしょ?その中から好きな奴選んでみてよ」
「いや、君は見たい映画があって来たんじゃないか?」
「実はどれも見たくてね〜。来るまでに決めるつもりだったけど決まらなくて。だからお金はクロノさんが出すんだしクロノさんが決めてよ」
「そうは言ってもなぁ………」
看板を見上げる。書いてある絵とタイトルでなんとなくジャンルはわからないでもないがそれ以上の情報は無いので読みきる事など出来るはずも無い。
つまり、どれも同じような物なので考えるより直感で選ぶ他無いようだ。
「だったらそうだな」
僕が選ぶのは───────────。
・右の看板の映画
・せっかくだから真ん中の赤い看板
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