趣味それぞれ

 適当にぶらついたら神社に辿りついた。ここは恭也さんと美由希さんのロードワークのコースだったり、夜の鍛錬場だったりするところで、たまにその姿を見つけたりする。

「もしかしたら、いるかもしれないな」

 そう思って境内に続く石段を上がっていく。結構急なのでこれもまた、運動とでも思えばいいだろう。

「………?」

 石段を半ばまで上がったところ。境内に近づいてきたところで、僅かな魔力の波動に気がついた。ほんのわずか、石段を上がる前には気付けなかったほど、規模が小さいものだが間違いなかった。

「この感じからすると、攻撃系の物じゃない。だとすると、結界か……?」

 波動から展開されている魔法を推測するが、規模が小さくて読み切る事が出来ない。
 何にせよ、確かめる必要がある。僕は魔法を展開している者に悟られぬよう、慎重に石段を上がっていく。

「………」

 境内が見える所まで上がった所で足を止める。境内からは魔力の反応が感じられなかったが、それでも用心して誰もいないことを確認する。

「………やはり、いない。魔力の反応は………」

 反応に近づいた事で先ほどよりも波動を探知出来る。消えかけた足跡を追うようにその反応を辿っていく。

「………森の中、か」

 それも奥の方。恭也さん達が鍛錬をしている辺りの場所だ。木々と言う遮蔽物が存在し、茂みも多いから物音が立ちやすい。迂闊に近づけばすぐに気付かれてしまうだろう。

「だと、すれば」

 僕は待機状態のS2Uを取り出す。起動はまだしない。気付かれず接近できるかわからないなら、一気に距離を詰める。その限界ギリギリまで気配を気配を気取られないようにするためだ。

「………」

 ジリジリと森に近づいていく。そうして、あと一歩でその領域に入ろうというところでスタート前の短距離走の選手のように大きく息を吸い。

「───────────!」

 一気に駆け出し、森へと侵入する。何度か足を踏み入れた事があるが、ここは木の根や茂みで足場が整っているとは言い難い。五歩ほど歩を進めたところで足の裏が地につく寸前の高さで飛行魔法を展開する。これなら足場は悪くても関係ないし、地面を蹴って方向を転じる事も可能だった。
 気配を辿る。波動は動いていない。もう十秒もしないうちに接近する事が可能だろう。S2Uを起動させるとほぼ同時に目標に到達、抜き打ちをするようにS2Uを構える。

「動く───────────?」

 動くな、と言おうとして言葉が止まる。
 1つは、目標がそう言う前にまったく動いていなかった事。
 もう一つは。

「……何をしている、ロッド=ブラム」

 その顔が一応知った顔だったからだ。

「…………」

 寡黙で知られる狙撃主は答えない。ただ、僕が来る前から構えていた姿勢───ライフル型のデバイスを構えた姿勢のまま黙ったままだった。

「………もう一度聞く。何をしている」
「………鳥を見ていた」

 もう一度、僕が問いかけるとロッドは仕方なく、と言った感じで口を開いた。その態度を示すように姿勢と視線はさきほどから動いていない。

「鳥……。バードウォッチングと言う事か?」

 そこまで言って前にはやてから聞いた話を思い出す。ロッドの趣味はバードウォッチングで望遠鏡代わりにデバイスを使っていると言っていた。
 その時は、何を馬鹿なことをと笑ったがその現実が僕の前にある。

「………」

 黒ずくめの男がライフル構えている姿は、物騒すぎて全く笑えなかった。

「……それじゃ、さっき感じた魔力の波動は?」

 僕の問いに、またもロッドは答えず代わりに通信機を通して何かの術式を送ってくる。これは先ほど展開していた魔法の術式なのだろう。僕は目を細めてその術式を解析する。

「……これは空間結界?いや、対象は術者のみ……、それに遮断の術式が………」

 解析を終えると僕は呆れたようにロッドを見た。
 送られてきた術式は一言で言えば気配を遮断する魔法───気配のみを遮断する結界だ。空間を遮断して現実への影響を防ぐ結界と違って、外から視認可能、おまけに魔力を展開しているから魔力探知も可能と言うような代物だった。
 詰まる所、この魔法は気配は遮断できるけど目視も出来るし探知も出来るという、非常に使いどころが限られる───例えば、魔力を探知できない鳥とかにしか有効で無い───魔法という事だった。
 加えて言うなら、ロッドはリンカーコアに障害があるため、射撃魔法以外の魔法はデバイスの補助無しには使用する事が出来ない。この魔法もなんらかのデバイス──一体誰に作らせたのか──を使って展開しているに違いなかった。
 つまり、ロッドは趣味の為にデバイスを駆使しまくっているのだった。

「………まぁ、違反の域は出ていないんだが、そのライフルはなんとかならないのか。見られたら通報されるぞ」
「……刀を持った男女もいる。問題ない」

 ……見られてますよ、恭也さんと美由希さん。というかあの二人相手に気付かれなかったのか。確かにあの二人は魔法は使えないけど、視認は出来ると言うのに。
 それで、ある事に気がついた。あの二人がここに出歩く時刻。それは夜も深けた頃。つまり───────────。

「………ロッド。君はいつからここに?」
「二日前」

 どれだけいるんだ。そんなツッコミも飲み込んでしまうほどの想像斜め上っぷりだった。

「…………」
「…………」

 互いに言葉がなくなる。彼のほうは僕に用事は無いだろうし、僕も書ける言葉が見つからない。

「じゃー、僕はこれで…………」

 来た道を引き返す。結局、話している間、ロッドの姿勢と視線が動く事はなかった。





 ・進む

 ・ロッドのその後が気になる

 ・一つ前の選択肢に戻る


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