リリカルなのは SS

リリカル猛レース

 ドン、ドンと大きな花火がいくつも上がる。見上げた空はこれ以上ないくらい快晴だった。ちなみにこの出だしはリリカル行進曲と同じだが気にしてはいけない。お祭りごとに花火はつき物なのだ。

「さー、本日は快晴!一日は24時間、一年は365日!時間にして8760時間!炎上リヴォルカーズサイト開設一周年記念杯『リリカル猛レース それいけジェット君 リリカルエディション』。ここ、海鳴市を舞台にいよいよ開幕です!!」
「このSSは『元ネタは原作に出てきたゲーム名、と見せかけてSDガンダムOVAより』の提供でお送りさせていただきます」
「思いっきり楽屋裏を披露してくれたのは解説のリンディ=ハラオウン提督!!司会進行、及び実況は毎度お馴染みのエイミィ=リミエッタ!!貴方の町のオペレータ、エイミィ=リミエッタでお送りします。大切な事なので二回言いました!!」
「選挙みたいですね。あと、あからさまに自分をアピールしてたので減俸です」
「げぇ、司馬リンディ!!いつになく非情ですが、エイミィ=リミエッタは引かぬ、媚びぬ、省みぬ!!若さとは振り返らない事さと信じ、語り続けます!!」
「それは二児の母である私への当てつけですか?」
「キジも鳴かずば撃たれまい!!余計な事は言わないでまずはレースの説明に参りたいと思います!!!」

 会場に設置された、一体誰が用意したんだと思ってしまうほど巨大なスクリーンにレースコースが映し出される。

「今回のレースはいたって単純!!巨大なコースに見立てた海鳴市の各所を回っていただき、一番にゴールした選手が優勝です!!」
「こういう場合、各コースの説明をするものだと思いますが?」
「イジメ、カッコワルイ!ネタバレ、カッコワルイ!!先の話をしたらつまらないよ、おかっつあん!!そんな訳でコースの紹介はそこに差し掛かってから紹介したいと思います!!」
「誰がおかっつあんですか?」
「あれ、これもひっそり公式批判!?色んな意味で(苦笑)を交えつつ、選手の紹介へいきたいと思います!!なお、このレースは基本デバイス持ち限定、非デバイス持ちまたは直接戦闘が苦手な方は各選手のサポートキャラとして参加してもらっています」
「……選手、削りましたね?」
「何のことやらサッパリワカメ!!それでは行ってみましょう!!」

 コース上に続々とマシンが入ってくる。エイミィがその一基一基を紹介していく。

「全力全開で頑張ります!」
「エントリーNo.1!不屈の闘志・レイジングハートを駆るはご存知我らが主人公高町なのは!!馬鹿魔力から放たれる特大の砲撃は誰しもが知るところ!!戦場を貫くその砲撃はコースをも貫くのか!サポートキャラクター・ユーノ=スクライアと共に出撃です!!」
「加速はありますが、コーナリングの性能は低め。その短所を長所とサポートキャラでどう補うかがポイントですね」

「速さでは負けたくないな」
「エントリーNo.2!閃光の戦斧・バルディッシュに乗るのはアースラのアイドルフェイト=T=ハラオウン!!加速、スピード、コーナーリングはどれを取っても出場選手中ナンバーワン!!闇を貫き、夜を切り裂くようにゴールを目指します!!使い魔であるアルフを従え、出場です!!」
「近接戦を得意としながらも防御性能は最低クラス。持ち前のスピードで如何に相手の攻撃を掻い潜り、近接戦を制するかが勝負の分かれ目です」

「ほな、きばっていこか」
「はいなのです!」
「エントリーNo.3!王の十字剣・シュベルトクロイツに乗って夜天の王八神はやてが登場!!基本能力こそ低めですが広範囲攻撃を初めとする他の選手には無い特殊能力がウリ!リインフォース選手とともに出陣です!」
「いわばMAP兵器搭載機。彼女の周りに固まっていると皆全滅の危険性すらありますね」

「アイゼンに抜けねーものはねー」
「エントリーNO.5!鉄の伯爵を愛機に鉄槌の騎士ヴィータ!クセの無い性能に相手の防御を打ち砕く貫通力が武器!!相手をブチ貫き、ゴールまでブチ貫く事が出来るか!!サポートキャラクターは、ペットに護衛まで何でもこなす盾の守護獣ザフィーラ!!」
「水準以上の防御力に加えて、サポートキャラであるザフィーラさんの防御力。鉄壁といっていいこの防御力は随一と言っていいでしょう」

「勝負というからには負けられんな」
「エントリーNo.6!炎の魔剣・レヴァンティン、その自らの魂を愛馬に烈火の将シグナムが参上!!遠距離攻撃は最大出力魔法シュツルムファルケンしかありませんが、他の追随を許さない程の近接戦性能を誇ります!!サポートキャラは若奥様風女医、けど料理だけは勘弁なっ。湖の騎士シャマル!!」
「防御も高めなのでゴリ押しが可能。さらにシャマルさんの回復サポートや旅の扉による妨害と搦め手もあり。遠距離攻撃が一つのみと言えど全く油断なりませんね」

「さて、どうなるかな」
「エントリーNo.7!!約束の歌、S2U。その自らの半身と一体となりレースに挑むはクロノ=ハラオウン選手!!各選手の得意分野には一歩劣るもののその基本性能の高さはそれらを補って余りあります!!フラグ立てまくりの執務官は、レースでも勝利のフラグを立てるのか!!」
「なお、サポートキャラは決める時に一悶着あったためクロノ選手のみ無し。代わりにデュランダルの使用可能というダブルデバイスでの出場となります」

「我が道を阻めると思うな!」
「最後となります!エントリーNo.8!誓いと約束、その二つをその手に握ったマシン、プラミス&プレッジにエレナ=エルリードが出撃!!近接戦での能力は高いもののそれ以外は今ひとつ。しかし、それを補うのはサポートキャラクター直属部隊『ナイツ』!!なんと四人ものサポートキャラを率いての参戦です!!」
「その四人の各分野にずば抜けた性能を駆使すれば、どの選手をも凌駕しかねません。マシン以上にサポートキャラの手綱をどう引くのかが鍵ですね」
「以上、7選手によりこのレースの勝敗が争われます!!!!」







「さて、レースの前にレースクイーンのご紹介に参りますと思います」
「あたしが応援してるんだから頑張りなさいよー!!」
「皆、負けないでー」
「まずは海鳴側のスポンサーから、アリサ=バニングス嬢、月村すずか嬢の登場です。聖祥五人娘のプロポーションでは下位を引き離してのワンツーを決めているお二人。そのエロい家系の遺伝からくるすずか嬢のたわわに実った果実もさることながら、エネルギー溢れるアリサ嬢の美脚も見逃せません。ちくしょう、若いっていいなっ!」
「貴方はアイドルになれませんでしたしね」
「木田さんに描いてもらったからっていい気になって!羨ましくなんて、ごめんなさい、超羨ましいです」
「まぁ、あのユニットももう木田さんの物なんで深く語らないでおきましょう」
「勝者の余裕ですか!ええ、もう悲しいからいきますよ!続きまして時空管理局からのレースクイーン、カリム=グラシアの登場になります」
「皆さん、頑張ってください」
「聖王教会から出張って頂きました」
「案外暇なのか、聖王教会。本編では袖の長い服だったので公開される事のなかったのが素肌(主に脚と二の腕)が白日の下に晒されております」
「神に仕える方って何故それだけで扇情的なんでしょうね?」
「いや、何故女同士でそんな事を話し合わなくてはならんのかっ?ところでこのレースクイーンってどこへ向けてのアピールなんですか?」
「ファンサービスです」
「さい、ですか」
「なお、アリサさんとすずかさんのレースクイーンと聞いて九歳の方で思い浮かべた方がいましたら挙手してください」
「なんのためにっ!?」







「各選手、スタートポジションについていきます。前からはやて選手、エレナ選手、シグナム選手、ヴィータ選手、クロノ選手、なのは選手、フェイト選手と並んでおります」
「この順番は選手の能力とくじを用いての選考によって決まっております」
「さー、いよいよスタートが迫っております。スタートは毎度お馴染み、三度訪ねた人を働かせる孔明も店を出店している皆様の海鳴商店街でございます」
「紅茶もコーヒーもケーキも美味しいので是非お越し下さい」
「なんで宣伝してるんですか?」
「頼まれましたので」
「なんという根回し!はっ、これも桃孔明の罠か!?」
「さあ、そんな事をしている間にスタートシグナルが点灯し始めました」
「サイト開設早一周年。炎上の色、静止にして始まりを告げる赤。そのシグナルがいま、鼓動への変換、黄色に変わり………今、開いた空の、開放の青へと変わったあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁlぁぁぁっ!!!」

 シグナルが青に変わると同時に各選手が一斉にマシンを操作する。
 そして、フェイトを除く各選手が申し合わせたかのようにハンドルを一斉に『横』に切った。

「あ、あっと、これは一体───────────!?」

 驚くエイミィの言葉を遮るようにコースの中央を桜色の光が奔る。その光が奔った先でチュドーンと大爆発が起きる。いきなり結界班の苦労が水の泡だった。

「な、なんといきなり開幕から大爆発!!これは一体どうしたことだー!?」
「後方二番目にいたなのは選手が開幕からいきなりぶっ放したようです」
「初回から大放出!!そして、それを読み切った各選手の動き!!なのは選手への認識が痛いほどに滲み出ています!!」

「み、皆。ひどいよっ!?」

「なのは選手、えげつない事しといて憤慨しております!そんなんだから、そう思われるんだよ!!」
「おまけに各選手が砲撃を避けるために空けた隙にフェイト選手と先に進んでおります。転んでもタダでは転びません」
「その後を追うように砲撃を避けた面々も一斉にアクセルを踏み込みます。選手のほうからも開幕の花火も上がり、リリカル猛レース、のっけからクライマックスです!!!」
「そういえばリリカル昔話、金太郎は扱っていませんね」
「俺の扱いにお前が泣いた!!各選手、スタートの商店街を抜け、住宅街へと差し掛かっております!!」
「マシンが通れる道幅あるのかよとか気にしてはいけません」

 先行したなのはとフェイト。それを追う後続選手達。純粋なレースならば、加速性能の高い先行二人との距離を後続がどう詰めるかが見物になるだろう展開。

「なにっ!?」

 だが、それを阻むかのように突如コースのあちこちが隆起し始めた。

「この、ぶち抜いてやるっ!!」

 突然の変化に驚きながらもヴィータはグラーフアイゼンに組み込まれたハンマーで前方を塞ぐ障害物を粉砕する。

「リイン、スレイプニールで軌道修正!」
「はいなのです!」

 他の選手も方法こそ違えど、この唐突に出現した障害をかわしていく。

「あーっと!?これは一体何事だー!?突然コースが隆起し始めて選手達を阻んでいくぞー!?」
「これこそがこの住宅街コースの障害。あれをご覧下さい」

 リンディが指差す先には、なんの前触れもなく何かの剣が刺さっていてもおかしくないような巨大な木が出現していた。なお、巨木と剣と聞いて何を連想するかは各人の自由だ。

「な、なんだあの巨大な木は!?この木、なんの木、気になる木!!」
「第一期第三話に出てきたジュエルシード暴走体(木)です」
「あー、なんか見覚えがあると思ったら懐かしいもの引っ張ってきましたね!」
「そんな訳で、ここ住宅街コースの障害は『変わらぬ街並み、懐かしの思い敵達』となります」
「そのダジャレ、わかりずらいよ!そんな間にも、なんかもう忘れそうになってる敵達が次々と襲い掛かっていくー!!」

 巨鳥が突風を撒き散らしながら地面スレスレを飛ぶ。その風に煽られてエレナのプラミス&プレッジのコントロールが揺らぐ。

「ええい、邪魔をするな!!マキシム=アイオーン、防げっ!」
「承知!!」

 マキシムがアイアスを手に防御魔法を展開させると、それを大きく振りかぶって接近する巨鳥に叩きつける。突風で動きが取れない筈の地を這う物がその吹き荒れる突風すら遮る壁を伴って肉迫してくる事に巨鳥はまるで対応できず、マキシムの攻撃をまともに受けて2、3度バウンドしてから地面に転がる。

「………」
「撃退しましたが……、どうかしましたか?」
「………いや」

 それを複雑な表情で見届けてから、先を急ごうとするも他の後続グループも敵に阻まれて思うように勧めず、エレナの道を塞いでいた。

「ええい、邪魔な!」

 後続だけでなく先行するなのはとフェイトも例外ではない。なのはにスピードで勝るフェイトもジュエルシード×6に阻まれて思うように進めず、スタートの砲撃で一位を守るなのはも見覚えのある敵に遭遇していた。

「なのは、あれ!」

 ユーノの声に顔を振り向けると、第一話に出てきた触手のついた毛むくじゃらの化け物がいた。なんかこう書くとちょっと卑猥だなぁと思う。
 そう(ユーノが)思った瞬間、飛び掛ってくる暴走体(毛)。ちょっと同人誌的展開を期待して「き、キタよっ!」と警告の声がちょっと上ずる。

「レイジングハート!!」
『Protection』

 そんな邪な気配を察してか、いつも以上の出力で主を守るレイジングハート。第一期一話よりも魔力も錬度も格段に上がった防御壁に阻まれ、吹き飛ぶ暴走体(毛)。吹き飛んだ先には電柱があり、暴走体(毛)が激突するとその衝撃でへし折れ、向かいの建物に倒れていく。

「なのは選手、以前よりも鮮やかな手並みで暴走体(毛)を撃退!!見事なカウンターです!!」
「しかし、向かいの建物はひどいとばっちりですね。一体どこの建物でしょう」

『槙原動物病院』

「………」
「………」

「ま、またやったー!!リリカル行進曲に続いて、飽きもせず槙原動物病院を粉砕!玉砕!!大喝采!!!原作でも寮が倒壊するイベントがあったりしますが一体なんの因果なのかー!?」
「とりあえず、今回は(も)なのはさんが原因ですけどね」

「ご、ごめんなさーい!!」

「そして、レース中なのをいい事にそのまま逃走!!それでいいのか、主人公!!」
「さて、そろそろ住宅街を抜けて、次のコースに差し掛かりそうですね」
「起こった出来事に振り向かない!!THE・若さ!!お次のコースは月村邸!時空管理局に自宅の庭を貸して、トランスポータの転送場所を提供してくださった地元の金持ちがコースにも協力してくれました!!」
「ご協力ありがとうございます」

 依然、スタート時の順位を譲らないなのはとフェイトが月村邸に突入する。すると、コース脇から庭先のスプリンクラーみたいなものが近づいてくる。二人がなんだろうと思っていると、突如スプリンクラーが小学三年生の女子の身長くらいまで伸びて砲身のような物に変形して、なのは達に狙いを定める。

『警告…警告…。貴方には不法侵入の疑いがあります。月村邸では新聞・セールスその他の勧誘を一切お断りしています。五秒以内に名前と所属組織を述べてください」』

「おっと、これはどうしたことでしょうか!?敷地内に入った選手に対して、忍さんお手製の迎撃装置が稼動しているぞ!?」
「どうやら、スイッチを切り忘れたようです」
「なんという初歩ミス!!でもドジッ娘と思われないのは何も無いところで転ばないからなのかー!?」
「そういう巫女さんいましたしね」

 一方のなのはとフェイトは通い慣れた月村邸でこんな物騒なものを差し向けられて、狙われている以上の動揺を覚える。

「な、なのは!名前と所属組織を言えっていってるけど!?」
「な、なんだかわからないけど、ここで迂闊に答えちゃいけない気が…」
「フェ、フェイト=T=ハラオウンとアルフです!!」
「ってフェイトちゃん駄目ー!!」
『あなたのデータは登録されていません』
「え、ど、どうして!?」
「なんでかわからないけどやっぱりー!!」
『ただちに退去してください。退去が確認されない場合は威嚇射撃を行います。10,9,3、2,1……』
「は、早い、早い!」
『威嚇開始』
「「きゃー!!」」

「無慈悲なまでの射撃がなのは選手とフェイト選手を襲う!!響き渡る悲鳴、引き攣る表情、恐怖の色!!こういったシチュエーションが好きな人にはたまらない光景だ!!ところで、リンディ提督。何故に迎撃装置はフェイトちゃんの言葉を認識しなかったのでしょうか?」
「二人いると認識できないからです」
「未だ直らない初期エラー!!二人どころか、お供のペットがついているため倍率ドン、さらに倍です!!」
「え、僕未だにペット扱い!?」
「なのはさんの方はそんなに可愛い物ではありませんけどね」
「スルーされた上に、毒吐かれた!?」

 その間にも迎撃装置はその数を増やして、なのはとフェイトを取り囲む。

『威嚇射撃終了。退去の意思なしとみなし、殺傷攻撃へと切り替えます』
「あああ、こんなところで死んだら、わたしは家族みんなに申し訳がー!」

「なんと、今までの攻撃はまだ本気じゃなかった!!これは二大主役の命危うし!!リリカルなのは、完!!!」

「それで誰が私達の代わりを勤めるんですかー!?」
「まさか、エイミィじゃないよねっ!?」

 ジャキンと多数の砲身がなのはとフェイトを狙う。今まさに降りかかろうとする弾丸の危難に二人は目を瞑る。
 そこに、一陣の旋風が二人の背後から吹く。

「おーっと!?迎撃装置がなのは選手とフェイト選手を射抜こうとした正に寸前!!いきなり砲身がカマイタチにでもあったかのように斬り裂かれたぞー!!」

 驚いたなのはとフェイトが後方を確認する。そこには燃え盛る火のような勢いで接近するマシンがあり、そのマシンから射出された連結刃が収容される姿が見えた。

「シグナムさん!?」
「助かったけど、追いつかれた…!」

「先行二人が迎撃装置に手間取っている間に後続が追いついてきたぞ!!追いかけ組の先頭を走るのはシグナム選手!どうやら迎撃装置を撃破したのは彼女のようだ!同時に私の成り代わり計画も撃破された!!」
「コースに何があるかは差し掛からないとわからない。後方はそれを確認する事が出来ますから、必ずしも先頭が有利と言うわけではありませんね」

 迎撃装置の攻撃を避けるためにスピードを落としていたなのはとフェイトの間をすり抜け、シグナムがトップに躍り出る。

「させないっ!」

「シグナム選手、スタートから先頭を走っていた二選手を追い抜き、ついにトップに踊り出る!!しかし、そう易々とはいかせないとフェイト選手が攻撃態勢に入るぞー!!」

 抜かれてしまうとわかると同時にフェイトはシグナムが前に出て、こちらに背を向ける瞬間を狙って砲撃の狙いを定める。放つのはカートリッジを使ってのプラズマスマッシャー。例え当たらなくても、脚を緩める事は出来る筈だ。

「シャマル!!」
『任せてください!!』

「シグナム選手、ここでシャマルさんにサポート要請だ!!」
「彼女の能力は旅の扉、第二期第二話のようにリンカーコアを抜き取る気でしょうか?」

 だが、その程度の狙いが読めないシグナムではない。シグナムの呼びかけにサポート役のシャマルが答えると旅の扉を後方───シグナムに狙いを定めるフェイトに向ける。

『フェイト!』
「大丈夫!こっちの方が───────!?」

 早く砲撃を放てる。そう続けようとしたフェイトが言葉を途切れさせる。
 既に詠唱は完了していた。後はカートリッジのブーストが完了すればプラズマスマッシャーを放てる筈だったというのに落ちた撃鉄から全く魔力の感触が全く伝わってこない。

「不発!?」

「おおっと、フェイト選手のバルディッシュ、カートリッジをロードしたと思ったらなんの変化もみせません。これはマシンの整備不良かー!?」

 ありえない事ではないが、これまで整備を欠かした事は無いデバイスの不調を信じられず、フェイトがカートリッジを確認する。
 すると、一目でわかる、しかし意外すぎる答えがフェイトの目に映った。

「弾倉が空!?」

 弾が込められていないだから魔力が供給される事は無い。至極最もな話しだが、カートリッジはレース開始の時に装填してから一度も使っていない。だから、弾倉が空になっているなど有り得ない事だった。

『フェイト!あれ!』

 アルフの声にフェイトは視線を先に向ける。すると、先を行くシグナムが目で甘いと笑いながら、片手にフェイトのカートリッジをこちらに見せ付けていた。

「────さっきの旅の扉!」

「なんとシャマルさん、さきほどの旅の扉で抜き取ったのはフェイト選手のカートリッジだった!!これでフェイト選手はカートリッジを一度に装填できる六発を奪われ、その分が丸々シグナムさんの懐に入った形になったー!!」
「シャマルさんの旅の扉は相手のアイテムを奪う事にも使えるようですね。これは盲点でした」

 フェイトとの攻防を制し、先頭を行くシグナムはこのまま差をつけようとアクセルを吹かす。先頭を行けば、真っ先にコースに仕掛けられた仕掛けに掛かる危険はあったが、それに臆して足を止めるような烈火の将ではなかった。

『シグナム!』

 何かを探知したシャマルがシグナムに警戒を呼びかける。その声に気配を探ると何者かが潜んでいる気配があった。何者かはわからないが、先のジュエルシードの暴走体のような、自立稼動する障害のようだった。

「っ!」

 そう認識した瞬間に、潜んでいた何かが姿を現す。姿ははっきりと視認出来ていないが、こちらに向けて振るわれる銀の一閃だけは見誤ることなく、その目に捉えるとシグナムは鞘を召喚してそれを受け止めた。
 鋭い衝撃が鞘を伝って手に響いてくる。それに気を取られる事無く、シグナムはレヴァンテインに取り付いた相手を見定めた。
 それは金髪の女性だった。肩袖の無い赤く長い服には、動きやすさを重視してか深いスリットが入っていた。美女といっていい風貌をしていたが、シグナムが見張ったのはその女性が思いもよらぬ武器を得物していたからだ。
 それは自分が見定めたように銀の鋭い刃。それだけなら驚愕には値しない。ならば、何故驚愕したかと言えば、襲い掛かってきた女は触れれば切れると思われるほど鋭い刃を手に『持っていなかった』からだ。
 そう、持っていなかった。首切りの鎌を思わせるその刃は女の手首から生えていた。

「貴様、一体!?」

「自動人形だ!!突如、現われたのは金髪の自動人形!!!一体何の意図があって出てきたのか、唐突に最終生産型自動人形が現われたぞ!!一体これは何を意味するのかー!?」
「意味はありません。ノリです」
「ノリかよ!?しかし、これは原作をやっていない人にはハテナマークを提供するようなものですが、いいんでしょうか!?」
「まあ、お祭り騒ぎですし。気になる方は原作の事を『イレイン』とかで検索してみてください」
「ほぼ答え!!それによく見ると向こうに見える月村邸が火事になっているぞー!!」
「特に意味はありませんけどね」
「意味無いの好きだなっ!ともかく、シグナム選手、トップに出たものの現われた敵の為に思うように進めません!!」

 そして、それはその後ろを走る後続グループも同じ事。シグナムが襲い掛かられたのと同時期に、色違いながらシグナムを襲った自動人形と同じ姿をした五体の自動人形に襲い掛かられていた。

「く、こんのぉっ!!」

 はやてがシュベルトクロイツを左右に動かして取り付いた自動人形を引き剥がそうとする。しかし、自動人形はそれを苦ともしないでシュベルトクロイツに攻撃を繰り返す。

「自動人形、執拗にシュベルトクロイツに攻撃!まるで落ちない頑固な汚れのようだ!!」
「台所の汚れって落ちづらいんですよねぇ…」

「駄目です、マイスター!落っこちてくれないのです!」
「この距離で下手な攻撃したら、私らにも被害が出てまうし、せやかてこのままじゃ!!」

 その間にも自動人形はシュベルトクロイツにダメージを与えていく。このままでは致命傷になりかねない。そうなる前に、ダメージ覚悟で相手を吹き飛ばすしかないか。

「隙だらけだな」

 そう思ったはやての耳に聞き覚えのある声が響いた。

『Stinger Ray』

 はやての目の前で自動人形が横から放たれた光弾に貫かれ、吹き飛んでいくのが見えた。

「自動人形一機撃破!撃破したのはこれまで息を潜めていたクロノ=ハラオウンだ───────────!!」
「美味しいところを持っていくのに定評のある息子です」

「一つの事に固執して、他の事が見えなくなっていた。どうやら単一の命令しかこなせないようだな」
「クロノ君!」
「助かったのですー」

 丁度、並走するような位置にクロノが来たのでリインは隣に飛び移り、クロノに抱きつく。

「こら、リイン。レース中だぞ」
「でも、助けてくれたからありがとうなのですー」
「うん、ほんまや。前の方にいたのにわざわざ下がってくれたんやろ?私達の為にありがとな」
「か、勘違いするな!自動人形を倒すチャンスだっただけで、別に君達のためじゃないんだからな!」
「あはは、うん。わかっとるよー、うん」
「わかってない!なんだそのニヤニヤした顔は!」

「ツンデレイデン!!あの野郎、いつの間にそんな属性まで身に付けやがったのかー!?」
「ちなみに言ってみたかっただけです」

 クロノははやてから離れようとするが、はやてはぴったりとくっ付いてきて離れる事ができない。それにクロノが文句を言うと、はやてが笑って返しクロノがまた文句を言う。すると、はやては落ち込んだ振りをしてクロノを慌てさせる。

「………」
「………」

 そんな喧嘩するほどなんとやらと言うような光景を見ている選手が二人。一見無防備に見えるその二人に自動人形が飛び掛る。

「どいて」
「邪魔」

 なのはが自動人形に展開した誘導操作弾を一発も漏らす事無く全て叩き込み、フェイトがバルデッシュを一閃させて自動人形を斬り落とす。どちらも敵を見向きもしなかった。

「自動人形二体目三体目撃退!あっさりながらも恐ろしい手並みです!」
「人の恋路をなんとやら、でしょうかね?」

「ザフィーラ!!あれの動きを止めろ!」
「応っ!」

 ヴィータの前方に立ち塞がる自動人形を閉じ込めるようにザフィーラが鋼の軛を放つ。白の拘束条に動きを封じられ、なんとか抜け出そうとするがその隙をヴィータは与えさせない。

「ラケーテン、ブーストォォォォォッ!!」

「ヴィータ選手、カートリッジを消費して加速!!そのまま自動人形に突撃していきます!!その姿、まるで獅子の牙!!!」
「マリカーで言うと、スーパーキノコの効果なんですけどね」

「ブチ抜けぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

 グラーフアイゼンが拘束条ごと自動人形を吹き飛ばす。ヴィータのタックルに自動人形は場外ホームランよろしく空の彼方まで吹き飛んでいった。

「………」

 それらの光景を羨ましそうに見るのはエレナ=エルリード。彼女はお預けをくらった犬のような表情で通信を繋ぐ。

「アレク=シュツルムヘイム。先ほどの自動人形はどうした?」
『はい、しっかりと捕まえていました』
「わたしはうろちょろしているから動きを止めろと言ったのだが」
『ええ、ですからこうして捕まえて動きを止めていますよ』
「……どうする気だ?」
『私が関心があるのはデバイスだけなので、ほんとなら管轄外なんですけど、これにはちょっと興味がありまして。ちょこっと解体してみようかと』
「……好きにしろ」

 そう言って不機嫌そうにエレナが通信を切る。

「……私も戦いたかったのだがなぁ」

 先のマキシムに続き、二回目のお預けにエレナはちょっと切なくなりながら呟いた。

「後続グループ、自動人形全機撃破!!残るはシグナムさんと戦っているオリジナルの指揮個体のみです!!!」
「しかし、そのシグナムさん。どうやら苦戦を強いられているようです」

 リンディの言うとおり、シグナムは後続が五体の自動人形と戦っている間、戦闘を続けていたが一向に手傷らしい手傷を指揮個体に与えられていなかった。
 それは指揮個体が持つ他の自動人形には搭載されていない武装のためだった。
 斬り込もうとレヴァンテインを接近させるシグナム。

「くっ!」

 だが、指揮個体の放った武器がシグナムを阻み、接近を許さない。その腕からは長い鞭が伸びており、それに巻きついているかのように雷光が煌いていた。

「あれこそが、指揮個体の持つ『静かなる蛇』!!剣よりも長い間合いを持ち、かつ電流を伴った攻撃は受ければそれだけでダメージになります!!シグナム選手、これは相性が悪すぎる!!」

 攻撃が読めない訳ではない。だが、それだけに複雑な軌道で襲い掛かってくる鞭を一度も受けずに回避して斬り込むのが如何に困難なのかをシグナムは理解していた。

「もうすぐ、次のコースへと繋がる転送ゲートに差し掛かります。それまで、耐えるのも手ですが………」

 それはシグナムも理解していた。理解していながらも、引こうとしないのは騎士としてのプライドに他ならない。このまま、逃げるように先に進むなど選べる選択肢ではなかった。

「こうなれば!」

 もう、次のコースまで時間が無い。シグナムは負傷覚悟で指揮個体へと突っ込んでいく。
 それを待っていたとばかりに指揮個体は静かなる蛇をレヴァンテインの車輪に絡めるような軌道で放った。

「あーっと!これはまずい!!車輪への攻撃!!これを受けては転倒必死!!後続も迫っている今では決定的なロスに成りかねないぞー!!」
「っ!」

 シグナム本人に放たれたのなら耐えられただろう攻撃。しかし、マシン本体、それも一撃で致命的な損傷を引き起こしかねない箇所を狙われ、シグナムは自分が戦闘とレースを同一視してしまっていた事からマシンが狙われるという可能性を除外してしまっていた事に気が付いた。

『シグナム!!』

 シャマルの声が響く。しかし、静かなる蛇は無常にもレヴァンテインのタイヤを叩こうとして──────その、中途で動きを止める。

『え?』

 シャマルが事態が理解できず呆然と呟く。それはシグナムも同じ事だったが、驚くのはシャマルに任せて、レヴァンテインをそのまま指揮個体に肉迫させる。

「紫電一閃!!!」

 レヴァンテインの刃を受け、指揮個体が地に崩れ落ちる。右腕だけが光の輪に拘束され、宙で停止している静かなる蛇に引っ張られるように浮いていた。
 それを確認すると、シグナムの横を二基のマシンがすり抜ける。それでシグナムは何が起こったのかを理解した。

「…手助けをして欲しいといった覚えは無いのです、が……」
「どうだ、はやて!君以外もちゃんと助けたぞ!!」
「うんうん、シグナムがやられてもうたら、私が悲しむからやろー?」
「だーかーらー!!」
「聞いていない、か」

「自動人形全機撃破!!これで心置きなく次のコースに突入できます!」
「このコースで大きく順位が変わりましたね」
「お言葉の通り、スタート時は後続とトップグループのなのは選手とフェイト選手の間に大きな差が出来ていましたが、今やその二選手が後続へと追いやられ、トップを行くのは一級フラグ建築士クロノ=ハラオウン!!その後を追うのはこのコースで助けられてフラグを立てられた八神はやて!!このまま、イベント発生でゴールインしてしまうのか!?」
「なんか、別の意味にも聞こえますね」
「おっと、なのは選手とフェイト選手、突如加速!!三番手シグナム選手に喰らい付いていきます!!その気配を察してか、クロノ選手若干急ぎ気味で月村邸に設置された転送ゲートに飛び込む!!」

 トップで次のコースに突入したクロノの目の前に広がったのは深い谷と森。どこなのかと周囲に確認しつつ、道沿いに進むと待ち構えるように洞窟の入り口へと辿りついた。

「ここは……」

「さあ、先頭のクロノ選手が一足先に辿りついた次のコース、こここそリリカル猛レースオリジナルコース『シュツルムヘイム』!!ここに住んでいたマッドなデバイス研究者が仕掛けた罠がテラ盛りなくらいに仕掛けられています!!!」
「候補としてリヴァイアサンもあったんですが、個別ルートに突入してしまいそうだったのでやめておきました」
「クロノ選手、このコースを走りぬき個別ルートというコースから逃れる事が出来るか!!そのためにも最深部にある転送ゲートへと辿りつかなくてはなりません!!」
「行くしかないか…っ!」

 過去の経緯もあって僅かな躊躇を見せたクロノだったが、迷いを振り切るようにマシンを加速させる。入り口の通路を最速で突っ切るとホールへ突入する。
 その瞬間、横手から射撃魔法が飛んできた。

「なにっ!?」

 咄嗟にS2Uのハンドルを切ってなんとか射撃魔法をかわす。これが罠なのかと発射方向に目をやる。

「は?」

 なんか明らかに時空管理局の武装隊と思われる集団が顔を覆面で覆った一団と戦闘していた。

「これは一体どうしたことだ!!何故か廃墟である筈のアジトで武装隊と犯罪集団がバトってるぞ!!!」
「どうやらお互い捜索に来てかち合ったようですね」
「これもクレアの罠か!!孔明じゃない事を安心していいものか迷います!!」
「ともかく、コースの左右から攻撃魔法が飛び交っていますから、これを避けながら進まないといけません」

 初撃をかわしたクロノだったが、かわした位置がまずく次々と流れ弾の攻撃魔法が飛んでくる。そうして手間取っている所をはやてを抜いたシグナムが追い抜こうとするが、開いたスペースに飛び込んだ瞬間、レヴァンテインがその動きを止めた。

「くっ!?」

「おまけに普通の罠もきっちり仕掛けられています!!クロノ選手が射撃魔法をかわした隙に走り抜けようとしたシグナム選手、設置されたバインドに引っかかった!!」

 その間に、後続グループが先頭グループに追いつく。しかし、先頭グループの状況を聞いていて、罠を警戒して一気に突っ切ろうという選手はいない。
 だた、一人を除いては。

「おおっと!?各選手が罠を警戒してスピードを緩めている中、全速前進するマシンがいるぞ!!それはエントリーNo7、エレナ=エルリード!!これはいくらなんでも無謀ではないかー!?」
「いえ、見てください」
「おや、エレナ選手。不自然なくらいに蛇行しているぞ。これはまるで何かを避けているようだが、これは一体?」
『隊長、そこを右ですよ〜』
「ええいっ、作りすぎだ!!」
「あーっと!!そういえば、エレナ選手のサポートには作った張本人がいた!!そりゃあ、罠も熟知しています!!ずるい!これはずるい!!それを考慮しないレース主催者も何を考えているんだー!?」
「つくづくリヴァイアサンの方がよかった気がしますねぇ」

「ロッド=ブラム!!あの一角が邪魔だ、撃ち抜け!!」
『…………』

「無言の返事でエレナ選手のサポートキャラ、ロッド=ブラムが狙撃開始!!エレナ選手の道を遮りそうだった集団にヒドラで射撃!!一発も外す事無く、道を切り開きます!!」
「しかし、今の集団が崩れた事で妨害から逃れたクロノ選手が前に出ましたね。順位は依然、クロノ選手がトップです」
「おっと、三位以降の選手、エレナ選手が通った後を走っております。まるで、RGPで先頭のキャラを追う後列キャラのようだ」
「エレナ選手が通った道が安全ルートですからね。追い抜けない代わりにそれ以上のロスを避けられるので懸命な判断といえるでしょう」

 クロノの後を追うエレナだが、クロノは探査魔法を駆使して完全ではないにしろ罠の大半を回避して進んでいく。エレナも罠を回避しているため、その差は中々縮まらなかった。

「このまま、追うのも面白くない……フォックス=スターレンス!!」
『あいよ』
「手段は問わん。クロノ=ハラオウンをこちらに引き寄せろ。打ち勝ってトップを走ってみせよう!!」
『りょーかい。やってみるぜ』

 そう返答すると、フォックスはクロノの方ではなく、何故かエレナの後ろを走る後方グループへと向かった

「おっと。エレナ選手、サポートキャラのフォックスに何事か指示してたようだが、一体何をしようというのか。当のフォックスは持ち前の飛行能力で悠々と後続のマシンと併走しています。それはまるで獲物を狙う鳥の様でもあります。あ、今フォックスがフェイト選手のバルディッシュに取り付いて……あーっと!!フォックス=スターレンス、フェイト選手の耳に息を吹きかけた!!フェイト選手、堪らず悲鳴を上げてスピン!!そのセクハラに会場の女性陣から大ブーイング!!おおーっと、その声に振り返るようにクロノ選手、S2Uを反転させて逆走しだしたぞー!?」

「ふははっ、来たかクロノ=ハラオウン!!ならばここで雌雄を決してくれよう!!食らうが─────!?」

「クロノ選手、エレナ選手を完全無視!!義妹に手を出した不埒者を成敗に向かいます!!うお、射程圏内に入ると同時にスティンガーブレイド・エクスキューションシフト発動!!!こいつは本気と書いてマジと読むくらい殺る気だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「了承」
「一秒で了承するくらいお義母さんも怒り心頭です!!さて、狙われたフォックス=スターレンス、スティンガーブレイドを板野サーカスばりにかわしております!!お義兄ちゃんの怒りも時空管理局最速の星には届かないのか!?」
「いえ、よく見てください」
「おや、クロノ選手薄く笑っています。その笑みはコミック二話で見せたものだが……あっーーと!!フォックス=スターレンス、バインドで拘束されている!!ディレンドバインド、ディレイドバインドだ!!クロノ選手、自らの大技すら囮にしてバインドを仕掛けた空間にフォックスを誘導していたー!!!」
「ぬおおっ!?」

 もがくフォックスだが、飛行魔法以外の魔法は使えない身体。もがけばもがくほどバインドが蜘蛛の糸のように絡まっていく。
 そんなフォックスに殺気を漲らせて近づいていく使い魔が一体。それも狼形態で。

「ちょ、使い魔の娘さんや!!いくらなんでもそれは洒落に─────っ!?」

 ガブリ。

「フォックス選手、食われております!!見てるこっちも痛々しい光景です!!」

 フェイトの悲鳴に戻ってきたクロノはフォックスへの制裁はアルフに任せてスピンからまだ立ち直っていないフェイトの所に向かう。

「フェイト、大丈夫か?」
「……あ、あれ?クロノ?なんで……」
「…まぁ、色々あってな。深くは聞かないで欲しい」
「う、うん………」

 何故か顔を逸らして目を合わせないクロノにそれ以上聞けず、フェイトは一緒にコースへと復帰する。
 なんとなく並んで走っていると、二人に近づいてくるマシンがある。はやてのシュベルトクロイツだ。

「おかえりー、クロノ君。おつとめごくろーさん」
「ごくろーさん、なのですー」
「……なんだ、二人とも。不服そうな顔をして」
「別にー。私達を助けた時はあんなにあからさまやなかったよねー、なんて思っとらんよー」
「思ってないのですよー」
「え?え?え?」
「あー、フェイトちゃんは目ぇ回しとったから知らんやろうけど、クロノ君トップからわざわざ転落してまでフェイトちゃんに手を出した不埒者を成敗しにきたんやで」
「え?」
「やー、大技まで駆使してまでバインドを設置した空間まで追い込む手並みは凄かったなぁ、さすがフェイトのお義兄ちゃん」
「御大将なのですー」
「ところでリインさん、私らはどんな風に助けられたんやっけー?」
「射撃魔法一発なのです」
「寂しいなぁ」
「寂しいのですー……」
「いや待て!あんな位置取りでブレイズキャノンでも撃ったら君達だって危なかっただろう!?」
「あー、言い訳しとる。かっこわるー」
「かっこわるー、なのですー」
「だから………っ!」
「クロノ」

 はやてとリインのわざとらしいいじけ方に、語気を荒くしようとしたクロノをフェイトの声が引き止める。

「ごめんね、私のせいで順位を落とさせちゃって……」
「……気にする事じゃない、僕が勝手にやった事だ」
「でも………」
「…家族にそんな気を使うんじゃない。僕も義兄として当然の事をしただけだ」
「………。うん、ありがとう、お義兄ちゃん」
「そ、それはやめるようにと言っているだろう」
「………ふふ」
「まったく……」

 なんだか義兄妹としては微妙な雰囲気に成り掛けている二人。

「じー………」
「じー、なのです」

 そのため、横で夜天の主従が思いっきりジト目で見ているのにまったく気が付いていなかった。それが余計に二人を機嫌を悪くさせ、実力行使に移るまでそう長い時間を必要にさせなかった。

「えいやっ♪」

 とっても軽い調子でいいつつ、シュヴァルツェ・ヴィルクングを放つ要領ではやてがクロノにタックルを敢行する。

「うおおっ!?は、はやて、何をする!?」
「やー、だってレース中やんか。そらマシン同士の接触もしゃあないわ♪」
「♪、なんてつけている辺り、わざとらしすぎるぞ!!」
「あー、また思いっきり手が滑ってハンドルがー♪」
「って、言っているそばからー!!」

 はやての執拗なタックルに体勢を崩すクロノ。されば、もう一撃と間合いを開ける瞬間、背後から衝撃が走った。

「な、なんやぁっ!?」

 後ろを振り返ると、そこにはもう黙っていられないと言わんばかりの顔をしたフェイトがいた。

「フェイトちゃん、邪魔する気!?」
「はやて!クロノに何するの!?」
「レース中なんだから、ええやん!」
「そんな事したってクロノは相手にしてくれないよ!」
「な、そんな事言うて、この間『休みが重なったのに、普段通りに過ごされちゃった。相手にされて無いのかな…』って落ち込んでたのフェイトちゃんやんかー!!」
「はやてだって『この間、力作の料理持って行ったのにリアクション、薄かったなぁ。熟年の夫婦みたいや……』って嘆いてたくせに!!そもそも、なんで結婚してる設定なの!?」
「それはリインがいるからなのです!くっつけば、一緒についてくる一粒で二度美味しい設定なのです!!言わば、リインはお菓子についてくるカードのようなものなのです!!」
「って、それそっちの方がメインやんかー!!」
「あー、フェイト選手、はやて選手。激しいながらもレベルの低いいい争いをしております。クロノ選手、そこから逃げるようにこそこそと前に進んでおります。ヘタレです。ヘタレております」

 なんとか安全領域まで逃げ出したクロノ。そこで一息ついているとじわりじわりと近づくマシンがあった。

「あれは……なのは?」
「…………」
「あのー……もしもし?」
「…………」
「な、なんで君は機嫌が悪くなると無意味に黙り込むんだ!?」

「おおっと、クロノ選手、逃げた先でも静かに修羅場、略して静羅場(しらば)っております。このままだと後ろから刺される日も遠くなさそうだ」
「どっちかって言うと撃たれるんじゃ無いんですかね」

 そんな後方グループを置いて、先頭を走るのはエレナ=エルリード。このコースの罠も熟知しておりほぼ独走態勢に入っているのだったが。

「……つまらん」

 ほとんど自分で直接戦っておらず、ただ走っているという展開に隊長の不満は頂点に達しており、我慢の限界とでも言う様に大声を張り上げた。

「ええい!誰か私と戦うものはいるか!誰か私と戦うものはいるか!!誰か、私と戦うものはいないのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 その叫びは誰に向けられたものでもない。しかし、それを耳にした者はいた。

「ここにいんぞぉっ!」
「むっ!?」

 突如現われた影からの攻撃を紙一重でかわすエレナ。体勢を整えつつ、襲い掛かってきた相手を確認すると、これ以上無いくらいの笑みを浮かべた。

「鉄槌の騎士!!貴様か!」
「恨みがあるのはそっちだろーけど、はやてにひでー事したのを忘れた訳じゃねー!」
「ふ、いいだろう!こい!!」

「おーっと!フラストレーション溜まりまくりのエレナ選手に挑みかかったのは鉄槌の騎士ヴィータ!!忘れている人もいるかもしれないけど、何気に因縁の対決です!!」

 エレナがヴィータのグラーフアイゼンの側面にぶつかっていく。ヴィータも引く事無くプラミス&プレッジにぶつかっていく。

「ぐうっ!」
「つっ!!」

 互いにスピードの乗った状態でのぶつかり合い。衝撃でエレナもヴィータも大きく弾かれるが、すぐにまた激突していく。正に一発殴られたら殴り返すといった模様だった。

「ははは、これだ!これ!これでこそ、参加した甲斐があるというもの!!」

 四度目の激突。マシンにダメージを受けながらもエレナは楽しそうにそう言った。

「だが、口惜しいな。もう時間が無いようだ」

 そう言いながら、ちらりと前方に目をやる。もう次のコースへのゲートが目視できる距離まで迫っていた。

「次で決めさせてもらう。覚悟しろ、鉄槌の騎士よ!!」
「そりゃあ、こっちのセリフだ!!」

 互いにマシンを攻撃態勢に移す。ここを制した方がこのコースをトップで通過するのは語るまでもなかった。
 グラーフアイゼンの側部からハンマーが、プラミス&プレッジから巨大な杭打ち機が取り出される。

「───────────」
「───────────」

 どちらも一撃必倒。故に万全を持って相手を打倒するために気を高めていく。可能な限りの加重を加えるために可能な限りの加速を行使し、破砕の機会を待った。

「───ラケーテン、ハンマアァァァァァァァァァァァァッ!!!!」
「───パイル、バンカアァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!」」

 それは全くの同時、しかし必然のタイミングで互いの一撃が放たれる。奇しくも一点を打ち抜く事を得意とする二人の技量と力と意地のぶつかりあいだった。

「なんというぶつかり合い!!奇妙な因縁を持つ二人の誇りを賭けた一撃!!その誇りを貫き通せるのは果たしてどちらなのかーーー!!!」

「───────────くうっ!?」
「───────────うぐっ!?」

「あーっと!!互いのマシンが弾かれた!!互角、全くの互角です!!!ラレーテンハンマーVSパイルバンカーは敗者を出す事無く引き分けたー!!!」
「ブチ抜けなかった……!?」
「貫けなかっただと……!?」

「しかし、ダメージも互角。競り勝てなかったために二人ともまだ体勢を立て直せません」
「その間に後方からS2U!!クロノ選手のS2Uがエレナ選手とヴィータ選手を追い抜く!!その後ろから無言のプレッシャーをかけるなのは選手のレイジングハート!!まだ言い争いを続けているフェイト選手とはやて選手、バインドから逃れたシグナム選手が後ろから猛追を駆け、それに交じる様にエレナ選手とヴィータ選手がいま復帰!!各選手、風の世界より海鳴に帰還していきます!!」

 ゲートに突入した各選手が目にしたのは見覚えのある海とどこか嗅ぎ慣れた潮風。その先には自分達の町が見えた。

「海鳴よ、私は帰って来た!!!海と言えば決戦、決戦と言えば見せ場!!忘れがたい決戦の舞台となり、思い出深い見せ場を作ってくれた海鳴海上!!その海はこのレースでも決戦の場となり、選手達の道となります!!」
「このコースは海の上に作られた限られたコース、加えてあそこに見えます闇の書の闇から妨害が障害となっています。また、闇の書の闇はいままでの障害とは違い物理と魔力の複合結界に加え、再生能力を持っていますので生半可な攻撃では妨害を止める事は出来ません」
「さぁ、肉体言語な魔導師達にとっては話し(攻撃)が通じない相手は厄介な事この上ない!!一体、このコースをどう乗り切るのか!?」

 選手達のマシンが闇の書の闇の攻撃圏内に入った途端、妨害が始まる。最初に襲い掛かられたのは二番目を走るなのはだ。

「来た!」
「ストラグルバインド!!」

 迫ってくる触手をユーノがストラグルバインドで拘束する。強化魔法を無効化するストラグルバインドに拘束され、再生能力を失った触手がそのまま断ち切られる。

「やったね、ユーノ………きゃっ!?」

 喜んだ瞬間、右手から別の触手の攻撃を受ける。見れば、数え切れないほどの触手が闇の書の闇の周りに展開されていた。

「ユーノ=スクライア、ようやく見せ場も作るもすぐに次の触手が生えてきた!これはきりが無い!!」

「あれじゃ、対処しきれない……!!」

 その物量は発動に時間がかかる以前の問題だった。例え防御魔法を展開しようと何度も打撃を受ければ突破されてしまうだろう。
 さらには攻撃を加えようとしても。

「えいっ!!」
「はっ!!」

 なのはが砲撃で、シグナムが剣閃で触手を撃退する。しかし、すぐさま別の触手が迫ってきて、それを対処している間に傷ついた触手は再生を始めてしまう。攻撃するにしろ、防御するにしろ、拘束するにしろ、どれも決定打にはならなかった。

「───────────」

 そんな中、いつの間にかトップから最下位に転落していたクロノは他のマシンの陰に隠れるように闇の書の闇の妨害を避けていた。妨害から逃げるように、他のマシンを盾にするように進んでいたため、スピードが落ちていき、自然とこの順位まで落ちていた。
 そのクロノがコースが大きく迂回する所でS2Uを停止させた。

「おや、クロノ選手。トップから最下位に落ちていましたがとうとう止まってしまったぞ?レース放棄とは思えない、何かのマシントラブルでしょうか?」
「これは何か企んでいそうですね。あの子、案外腹黒かったりしますから。誰に似たんでしょうね?」
(これはあれか!?ツッコミ待ちか!?ああ、でもそれ思いっきり死亡フラグな気が───────────!?)

 会場全てが訝しむ間にもクロノは止まったまま。他の選手も気になりはするが、闇の書の闇からの妨害を避けつつ進まなくてはならない状況で遥か後方のクロノを気にしてばかりいられない。
 そうして、クロノを除いた選手の集団が海鳴市から直線距離で最も離れた地点に到達した瞬間。

「───デュランダル!!」
『OK,Boss』

 クロノが動いた。

「あ───────────っと!!クロノ選手、ここでデュランダルを発動!!決戦といえば僕の見せ場!!ここぞとばかりにスーパークロノタイム突入───────────!!!」
「やっぱり企んでましたね。誰に似て腹黒くなったんでしょうか?」
(やっぱりツッコミ待ちなのか───────────!?)

「────悠久なる凍土」

 誰しもが虚を突かれ、しかし他の選手とここまで距離が開いた状況で一体何をしようというのか。

「凍てつく棺のうちにて」

 周囲の視線を集めながらもクロノは一向に気にせず、詠唱を続ける。

「永遠の眠りを与えよ」

 その膨大なる魔力をようやく探知してか、闇の書の闇がクロノに触手を差し向ける。海を割りながらクロノを射抜かんとばかりに触手が迫ってくる。
 が、既にクロノの魔法は完成していた。

「───凍てつけ!!」
『Eternal Coffin』

 触手がクロノの眼前で止まる。否、極大の凍気で動きを止められる。それは触手だけではない。水平線まで広がる凍気は触手から伝わったように闇の書の闇本体まで凍結させる。
 全ての発動が終わった頃には、そこには真っ新な氷原が広がっていた。

「なんとクロノ選手、闇の書の闇を封じ込めた!!それを見届けてからS2Uを発進!!本来なら迂回するコースですが、自らが作った氷の上を走って海鳴市に直進していきます!!!これはショートカットだァぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「直線距離で言えば先頭集団よりもクロノ選手の方が近いです。完全に狙っていましたね」
「クロノ選手猛進!!一気にごぼう抜き!!各選手、慌ててクロノ選手を追います!!」
「……ふふふ、やるではないか。クロノ=ハラオウン!!ならば、私も奥の手に出るとしよう!!アレク=シュツルムヘイム!!あれを使うぞ!!」

 この予想外の事態に不敵に笑うエレナ。その様子にアレクは不安を滲ませながら尋ねる。

『あのー、あれってあれですか?あれって理屈の上では確かにそうなんですが、機構とか反動とかその他諸々問題がー』
「かまわん!やってみせる!!」
「おお!!ここで動いたのはエレナ=エルリード!!プラミス&プレッジに搭載された二つの杭打ち機がドッキングしたぞ!?」
「先端を突き出す際に発生する衝撃波。それを魔力で強化したのがパイルバンカー・ウェイブシフト。それを利用する事で加速や軌道変化を行う事が可能」

 エレナの言葉を示すように、一つになった杭打ち機が弓を引き絞るように装填される。

「ならば、それをデュアルインパクトフォルムで放てばどうなるか?理論上、少なくとも倍の加速は得られる!!」
『理論上は、なんですけどねー…』
「我が歩みは風神の進軍────パイルバンカー・シュツルムシフトオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!」

 エレナの叫びとともにパイルバンカーが発動し、発生した衝撃波でプラミス&プレッジが加速する。その余りの加速に重力から解き放たれたようにプラミス&プレッジが浮き上がった。

「と、跳んだ───────────!?エレナ選手、飛んでおります!!これはびっくり!!聖機兵が飛んだくらいびっくりだ!!エレナ選手、地を行く者達を飛び越え、空へ旅立った───────────!!」

 それは見る者の心を奪う見事な飛翔。その羽ばたきは、一瞬時を止めたかのような優雅さを誇り、しかし定めのように美しい曲線を描きながら、地上へと舞い戻り。

(ボチャーンッ!!)

 氷を割って、海中へと沈んでいった。

「………………………………………えーと、これは?」
「あんまり加速したせいで、着地の衝撃で氷を割ってしまったようですね」
「…エレナ選手、浮かんできません。おっと、ここで審議団の登場だ。海中の様子を確認して、あ、腕を頭上で交差している!!エレナ選手リタイア!!エレナ=エルリード、リタイアです!!」
「あのマシン、海中で走るような設計にしてませんしねぇ」
「なのに、こんなコース作ったのか!恐ろしいな、時空管理局!!」

 とうとう脱落者が出たが、他の選手は最短でゴールに向かうクロノを追うため、レースを続行する。障害もなくなり、コースもクロノの生み出した氷原のため、カーブなどなく純粋に速度が物を言う展開になっている。
 そのため、他の選手よりも先行し始めたのはやはり全選手中最速を誇る
フェイトだった。

「まだ、追いつける………っ!」

 先を行くクロノに追いつくため、さらに速度を上げようとするフェイト。

「!?」

 その瞬間、後方から連結刃が迫ってきた。咄嗟にハンドルを切ってかわすが、その分減速してしまう。
 フェイトを阻むかのように放たれた攻撃。その主にフェイトは顔を向ける。

「シグナム…!」
「このまま、お前とクロノ執務官の独走になってしまうからな。そうさせる訳にもいかん」

 それに、とシグナムは口元を緩める。

「レースと言えど、勝負は勝負。お前と戦わぬうちに終わらせるのはいかんだろう、テスタロッサ!!」
「……はいっ!」

「バトルマニア、ここに極まれり!!例え、レースであろうとも雌雄を決さずにはいられない二人!!模擬戦では未だにシグナム選手の方が勝率が上とのことですが、このレースでは果たして──────────!?」

 交差するマシンとマシン。相手の裏を取ろうと軌道を変え、取られまいと速度を上げる。時折、マシン同士をぶつけ合ってまで二人の戦いは続いた。

「くっ!」

 速度と旋回能力で上回るフェイトだが、やはり純粋な近接戦はシグナムには及ばない。巧みに速度を潰されたところを力で押され、体勢を崩してしまう。

「もらったぞ!」

 止めとばかりにシグナムがレヴァンテインを突撃させる。

「───バルディッシュ!!」
『Sonic form』

 フェイトの言葉とともにバルディッシュの装甲が弾け飛ぶ。

「なに!?」

 一瞬の驚愕。その間にフェイトはシグナムの視界から脱し、シグナムがその姿を追った時にはフェイトは氷塵を撒き散らすほどの速度で旋回し、レヴァンテインに迫っていた。

「はああああああああっ!!」

 バルディッシュの一撃。それはレヴァンテインの速度と動きを完全に読み切り、シグナムの防御が届かないマシンの後輪に寸分違わず放たれた。

「くっ!?」

 攻撃の衝撃と後輪を失った事によるコントロールの損失でレヴァンテインが氷原をコマの様にスピンする。それも走るための足を失ったためにやがて止まるとシグナムを大きく息をついた。

「負けた、か」

 フェイトの後姿を追う。フェイトはシグナムに攻撃を加えたらそのまま走り去っていった。レースは続行しているのだから当然だった。

「通常の戦いならまだ反応の仕様があったが………。いや、それも言い訳だな。見事だったぞ、テスタロッサ」

 フェイトとシグナムが戦い始めた後、クロノを追う集団でトップを行くのはなのはだった。フェイトとシグナムを除いた残りの三人の中で最も加速に優れているのだから順当な結果だった。
 それでも、このままではクロノに追いつけそうに無い。

「こうなったら、全力全開!!」
『Dlive Ignition.Excellion mode standby ready set up.』

 なのはの声に応じてレイジングハートが変形し、両側部から六つの翼が形成される。

『A. C. S., standby』
「アクセルチャージャー起動、ストライクフレーム!!」
『Open』
「エクセリオンバスター・A.C.S.ドライブ!!」

 レイジングハートが翼の加速を受け、速度を上げる。怒涛の勢いで後続との距離を開いていき、先頭との距離を詰めていく。

「───見えた!」

 視界に入った黒い点が見る見るうちに見覚えのある姿に変わっていく。トップを走るクロノのS2Uだ。

「レイジングハート、このまま行くよ!」
『All right』

 ストライクフレームを展開した状態でS2Uに突撃するなのは。その速度は、クロノが接近に気が付いていたにも関わらず反応が一瞬遅れるほどだった。

「っ!」

 ドリフトの要領でS2Uを旋回させてなのはの一撃を避ける。間一髪でかわしたもののクロノは油断なくS2Uの体勢を整える。例え、距離が開いたとしてもそれはなのはの間合いだからだ。

「なのは、来たのは君か!」
「追いついたよ、クロノ君!!」

 A.C.Sはかわされたが、先端に込められた魔力は失われていない。そのまま穂先をS2Uに向けると砲撃を放つ。

「くっ!」

 その砲撃の威力はよく知っている。防御し切ることは出来ないとわかっているので回避行動に専念し、なんとか砲撃から逃れるも反撃できる形勢ではない。なのははその勢いのまま攻撃を畳み掛ける。

「このまま、追い抜かせてもらうから!!」
「それは、どうかなっ!?」

 言いながらクロノは巧みにS2Uを操り、誘導弾と砲撃を交えたなのはの攻撃をかわしていく。
 牽制、囮、目くらまし、本命。かわせる物はかわし、防がなくてはならない物は防ぎ、避ける必要の無いものはまったく身じろがない。初見ではなく、相手の呼吸を知っているから出切る芸当だが、それでも舌を巻く回避行動だった。

「でも、押し切れるっ!」

 そう思った時、カートリッジが空になった事に気が付いた。クロノに追いつくためにエクセリオンモードの起動にA.C.Sの発動。加えて、先の猛攻の為に消耗が早くなっていた。
 マガジンを取り替えよう。

『Blaze Cannon』
「えっ!?」

 そう思った瞬間、クロノが反撃に転じてきた。ユーノが咄嗟に防御魔法を展開させて防ぐが衝撃で大きく弾かれる。

「やはり、ここに来るまでにカートリッジを消耗したな。すまないがマガジンの交換に暇は与えない!」
「そんな!?」

 後続が追いつくための消耗すら計算に入れていたクロノはなのはのカートリッジが無くなった時を狙った攻勢に転じる。クロノの攻撃は激しさは無いが、巧みになのはの防御を抜いていく。
 カートリッジ無しでは分が悪い。なんとかマガジンを交換しようと距離を取ろうとレイジングハートのハンドルを切る。

「………えっ!?」

 その途端、レイジングハートが動きを止める。見れば、いつの間にか展開された魔力の鎖に動きを拘束されていた。

「ディレイドバインド!?」
「もらった!」

 狙い通り、なのはがディレイドバインドを仕掛けた場所に入り込み、拘束された隙を狙ってクロノが突進する。バインドの解除は間に合わない。なのははまさに絶体絶命だった。
 その時、突如、氷原に亀裂が入り、触手が幾重も突き抜けた。

「!?」

「おーーっと!クロノ選手がなのは選手に止めを刺そうとした正にその時、エターナルコフィンで閉じ込めた闇の書の闇が活動を再開したぞ!!クロノ選手、これは予想外だ!!」
「おそらく、バリアを排除しない状態でエターナルコフィンを受けたためでしょう。中核部分以外も凍結出来なかったようですね」

 活動を再開した触手が氷の台地を崩壊させていく。それは連鎖的に広がっていき、未だバインドから逃れていなかったなのはも巻き込んだ。

「あっ!?」
「なのは!?」

 氷が隆起した反動で、宙に投げ出されるレイジングハート。その先には氷の蓋を退けられ、姿を現した海。バインドに拘束されたままの状態ではこのまま落ちるほか無かった。

「ユーノ!!」
「っ!」

 クロノがチェーンバインドを発動し、レイジングハートを絡め取る。そこにユーノが放ったチェーンバインドががっちりと絡みつく。そうして強度を確保したところで鎖を操ってなのはをまだ無事な氷原の上に投げ出した。

「やれやれ、危なかった………!?」

「なのは選手を助けたクロノ選手を闇の書の闇が襲う!!なんだか、非常に殺気らしきもを感じますがこれは一体どういうことでしょう!?」
「どうやら、自分を封じ込めたクロノ選手を警戒しているようです」
「あ、砲撃を放ちましたよ!?確か、砲撃での妨害はしないように設定していたはずですが!?」
「凍結されて障害が出たようです!!」
「じゃあ、危険じゃないですか!?止められないんですか!?」
「止められません」
「危機能力無いな、この組織!!」

 先の仕返しとばかりに闇の書の闇から猛攻を受けるクロノ。

「クロノ君!」
「来るな!!」

 助けに入ろうとしたなのはをクロノが止める。

「これの相手は僕がする。君はレースを続けるんだ」
「でも………」
「どうやら僕のせいでこうなったらしいからな。責任は取るよ。だから、僕の代わりにレースを頼む」
「………」

 その言葉になのはは俯いて、何事か呟くとレイジングハートを動かしてレースに復帰する。それを見届けてから、クロノは迫ってくる闇の書の闇に向き合った。

「さて、出来たらもう一度封じ込めたいところだがそううまくいくか。なんにしろ、時間だけは稼がないとな」
「その内誰か手伝いに来てくれるだろうし、なんとかしよう」
「!?」

 自分の口以外から聞こえてくる声に驚いてその方に振り向くとそこにはユーノの姿があった。

「ユーノ!?いたのか………………?」
「ちょっと待って!そこはどうしてここに、って言うところでしょ!?」
「じゃあ、どうしてここに?」
「じゃあ、って全く。なのはに頼まれたからだよ」
「なのはに?」
「そう、助けられてばっかりじゃ悪いから君の手伝いをしてくれって。せっかく、なのはの手伝いで参加したのに」
「損な役回りだな、君も」
「少なくとも、君よりはね」

 そう言って笑いあうと、二人は闇の書の闇に向き合う。

「あ、あと伝言。『優勝したら賞品はクロノ君にあげるからね。私、クロノ君の代わりだから』だって」
「君がなのはの声色の真似するのは気持ち悪いな」
「悪かったね!!」
「まあ、それなら僕も何かお返しをしないとな」
「それだと、またなのは、君に何か贈りそうだけど」
「……それは困るな。どうしよう」
「知らないよ!」

 そこに闇の書の闇の触手が襲い掛かってくる。それをユーノの防御魔法で弾き、クロノのブレイズキャノンで粉砕する。

「それでどうするの?こいつ?」
「僕は攻撃に専念する。防御の方は君に任せた」
「いいけど、押し切れるの?これの再生能力半端じゃないよ?」
「なに、さっき君が言ったように誰か手助けに来てくれるだろう。それまで僕がなんとかすればいいだけだ。幸い、このお祭り騒ぎだ。何をしても大抵は笑って済まされるだろう」

 そう言ってクロノが笑うとS2Uの外装が弾け飛ぶ。

『Level 7』
「だからせいぜい、派手にやってやろう!!!」

「クロノ選手、単騎で闇の書の闇に立ち向かいます!!大丈夫なんでしょうか!?」
「今回はお祭り騒ぎなので特別にLevel 7状態に制限なし。言ってしまえば常時ドライン状態となっております」
「ライフが自然回復していきそうですね!!」
「テンションゲージはMAXです」
「まんまゴールドカラーかよ!!」

 その一方、なのはとフェイトの先に行かれ、しかし距離を縮められないはやてとヴィータは併走して走っていた。

「あー、こりゃもうおいつけんかなー………」
「リイン達には加速系の能力は無いのですー」
「…………」
「まぁ、しゃあないかな。なんかクロノ君の方大変みたいやしそっち手伝っても………?」

 ふと隣を見ると併走していたはずのヴィータがなぜかはやての後方へ回っていた。どうしたのだろうと思っていると、グラーフアイゼンがカートリッジをロードしブーストを展開して加速の準備に入る。
 何を、と問う前にシュベルトクロイツがブーストを吹かしたグラーフアイゼンに押されて加速する。突如、掛かった加重に眉を顰めながらはやてが背後に顔を向ける。

「ヴィータ!?なにしとるん!?」
「これならあいつらに追いつける…」
「だったら、私を押さなくてもええやん!ヴィータ、さきに行きいっ!!」
「実はよ、さっきあの女とやりあった時にアイゼンにガタがきちまったんだ」
「えっ!?」
「多分、ゴールまで持たない。……あのヤロー、こんなんだったらギガントで潰しとくんだった」
「ヴィータ……」
「だから、はやて。クロノの方はあたしに任せて、なのはとフェイトに勝ってきてくれ!」
「ヴィータ!!」
「アイゼン、気合入れろよ!!」
『Jawohl.』

 ヴィータの言葉にグラーフアイゼンが自身を顧みず加速を続ける。次第にグラーフアイゼンに皹が入り、限界を超えた加速にエンジンが異常を訴えるように奇怪な音を立て始める。

「まだだ!まだ、耐えろよ!アイゼン!!」

 まだ氷原すら抜けていない。少なくともこの氷原を超えなければ、先行する二人に追いつけるとは思えなかった。

「ブチ、抜け───────────!!!!」

 踏み壊さんばかりにアクセルを踏み込み、さらにカートリッジをロード。直線加速ならフェイトにも劣らない速度でグラーフアイゼンが驀進する。

「───見えた!」
「追いついたのです!」

 氷原を抜け、正規のコースへと辿り付いた所でなのはとフェイトの姿が見えた。ここからなら、まだ逆転する事も可能だった。

「───そっか。なら、もういい。よくやった、アイゼン」
「───ヴィータ!?」

 その言葉に安心したように、後ろから押し上げられていた感触が無くなる。振り返るとシュベルトクロイツを押していたグラーフアイゼンがブースターから黒煙を上げて徐々に徐々に速度が落としていき、距離が離れていく。
 やがて、グラーフアイゼンが完全に動きを止めると、その姿はすぐに見えなくなるほど小さくなっていってしまった。

「ヴィータ──────────────────────!!」

 その名を叫びながらもはやては速度を落とすことはしない。それはここまで導いてくれた自分の騎士への冒涜だ。だから、はやてはヴィータが与えてくれた加速と共に前に前に進んでいく。

「はやてちゃん!?」
「追いついてきた!?」

 並び立ったはやての姿になのはとフェイトが驚く。先行のリードでトップを守るなのは、持ち前のスピードで距離を詰めるフェイト、そしてヴィータからの援護で猛追してくるはやてとリイン。誰もがまだ優勝の可能性を秘めていた。

「……思えば、このSS。前に書こうとして挫折した事もありました。一周年と言う事で間を置いて、満を持して書こうとしたら一周年に間に合いませんでした。何かがおかしいと思って文量を確認したらこの時点で過去最長、普通のSSの三倍以上(当サイト比)の文量となっておりました。そんなこのレースもいよいよ最終コースを迎えます!!皆さん、大変長々とありがとうございました!!次こそ最終コース『約束の草原』です!!!」
「長ければいいと言う訳ではないですけどね」
「長くしたかった訳じゃない!!それはさておいて、全コースにおいて出場選手の1/2がリタイアという事態を迎え、優勝は残った四選手によって争われます!!」
「もうここまで来たら言葉は入りません。黙って結果を待つとしましょう」
「言わぬが花!!さあ、各選手の姿が見えてまいりました!!このコースではこのラストを飾る景観を壊さないために仕掛けは一切無し!!勝てるかどうかはマスター次第だ!!」
「あんなマシンが走ってる時点で景観壊れまくりですが」

 草原へと入ったなのは達だが距離を離すことなく固まって走ってきている。というのも、いずれも抜くに抜けない状況になっているからだ。
 仮に誰かが、例えばスピードで勝るフェイトが先に躍り出ようとしても背後からなのはの砲撃とはやての広範囲攻撃がが飛んでくる。なのはとはやてとしても、スピードではフェイトに対抗できないのは承知しているし、残った方の攻撃を恐れて前に出れない。三すくみにも似たような状況になっていた。
 しかし、それでもゴールは近づいてくる。このままでは優勝できるかわからない。だから、三人はある決断を下す。
 先に出れば残った方からの攻撃を受ける、故に前に出れない。だったら───────────。

「「「相手を二人まとめて、やっつける!!!」」」
「三人の表情が変わった!!コレはヤる時の表情だ───────────!!!」
「本SSは魔法少女物のSSです」
「そんな説明が今更要るような熱血バトルリリカル!!皆さん、全員ワープに備えろ的な対ショック防御を───────────!!!」

 ゴールはもう目前。三人は持てる魔力を全てを行使して魔法を完成させる。
 全てはこのレースに優勝するために───────────!!!

「全力全開!!スターライトブレイカー!!!!!!!」
「雷光一閃!!プラズマザンバー!!!!!!!!!」
「響け終末の笛!!!ラグナロク!!!!!!!!!」

 解き放たれる三大ブレイカー。極大の魔力同士がぶつかり合い、鬩ぎ、喰らい、光を放ちながら大爆発を起こす。


「滅びのトリプルブレイカー!!!だから景観とかぶち壊しながら雌雄を決する一撃が放たれた───────────!!!!」
「派手でしたねぇ」
「未だ晴れぬ爆発はそんなあっさりと片付けられる光景ではありません!!一体、この魔砲のぶつかり合いの結果はどうなったのか!?」
「上の行は誤字ではありません!!」
「そんな事気にするな!!あ、今爆心地から何かが飛び出してきました!!あれは、三選手のマシン!!いずれも相手の魔法の衝撃で吹き飛びながらもゴールに向かっております!!!」
「これはこのままゴールしそうですねぇ」
「しかも三者のマシンが並んでおります!!一体これは誰が先にゴールするのかあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「なのはさん……いえ、フェイト、あ、はやてさんでしょうか?」
「そして今ゴオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォルゥッ!!!!!しかし、結果は目視ではわかりません!!!結果は写真判定待ちとなりました!!」
「その前に報告です。暴走していた闇の書の闇、無事に駆逐されたとの事です。決め手は海中からのエレナさんの攻撃との事です」
「沈んだままだったんか、あの人。あ、今写真判定の結果がやってきました!!」

 その声にマシンから這い出てきた三人、闇の書の駆逐を終えたリタイア選手達、そして会場全てはその結果に注目する。

「炎上リヴォルカーズ一周年記念杯『リリカル猛レース それいけジェット君 リリカルエディション』。その栄えある優勝者は…………………」

 ごくりと誰かが唾を飲み、誰かが息を呑んだ。

















「エントリーNo4!!リインフォースUだあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
「やったのです────────────────────!!」
『は?』
「爆発の衝撃から飛び出して一足先のゴール!!おめでとう、リイン!ありがとう、リイン!!表も裏も盛り上げてくれた君にこそ、この栄光は相応しい!!これからも頑張ってこのサイトを盛り上げて欲しい!!!」
「任せてくださいなのですー!!」
「「「ちょちょちょ、ちょっと待ってー!!!」」」」

 そこでようやく固まっていた三人娘が動き出して、エイミィに食って掛かる!!

「エ、エイミィさん!?リインちゃんが優勝ってどういう事!?」
「アホなのは髪の毛だけにしてよ、エイミィ!!」
「こっそりアイデンティティーに関わる事を言われたような気がするけども、何でと言われても、リインちゃん選手だし」
「わ、私のサポートキャラやないんかっ!?」
「いや、ほらちゃんと選手紹介のときに選手ってつけてるでしょ?あ、そういやエントリーNo言い忘れてた。ごめんちゃい☆」
「「「ちゃい☆じゃなーい!!!」」」
「それではリインさん、何か望みがありましたらどうぞ」
「新番組、魔法幼女レイデンリインフォースU放送開始なのですー!」
「望みと言うより確定事項!?」
「あ、それと副賞としてクロノは好きにしていいですから」
『な────っ!?なんでまたそんな副賞を────────!?』
「やったのです───────────!!」
「こんな風に喜ばれますから」
「リ、リイン!主との義理立てにちょっと貸してくれへん!?」
「あ、はやてずるい!なら、友達の誼で貸して!!」
「わ、私は学友の誼で!!」
『結局、なんかいつもと変わらね───────────!!!』









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